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異界での新たな人生?!  作者: WESZ
第一章 下界降り
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第1話 姉妹、かみさまに会う


 うっそうと茂る深い森の中を不規則な駆け足の音が響く。


 少女が二人、深い森の細いケモノ道を駆け進む。

 ときに道をふさぐ少女たちの背丈ほどある草をかけわけ、

 ふさぐ木々の枝に肌を傷つけようとも、

 年長の少女がより幼い少女をかばいつつも必死の形相で先を――

 ――希望のない、逃げ先を求め足をすすめる。


「…はぁっ、はぁ、……っ、ぐずぅっ、はぁ、はぁ……おねえちゃ……」

「はぁ、はぁ、はぁっ……リムっ、急いでっっ……っ」


 姉と呼ばれた少女は妹を励まし、時に叱咤して足を早めるようせかす。


 だが姉も妹もすでにわかっていた――

 自分たちを急き立てる追っ手は自分たちをいつでも捉える事が出来るハズだと……

 追っ手たちが自分たちが逃げ惑う姿を嘲笑い、責め立てて遊んでいるんだとわかっていた。

 ――だがそれでも、理解したくなかった。

 姉妹は絶望的な状況であってもあきらめたくはなかった。


 たとえ可能性がほんの毛先ほどわずかなものであってもすがりつきたかった。

 追っ手が――下劣で外道な山賊たち――

 少女たちを凌辱し果てに殺そうとする男たちから僅かな時間であろうと

 先にのばそうと――そして姉は、できるなら妹だけでも逃がそうと知恵を振り絞っていた。


 ――が、どれだけ離れることができたのかと後方をちらりを振り返って、

 その顔は絶望に変わった。

 ほんのわずか――彼ら山賊の足なら十歩ほどの位置でにやにやした奴らの顔があった。


 それでもなお姉はあきらめず――流れる涙は止められなかったが――

 妹の手を引いて駈けだした。



 彼女は後悔していた。

 妹のリムを連れて狩りと木の実の採取に森に入って1匹目の獲物をとらえてすぐだった。

 姉妹が歩いていた獣道の横から3人の山賊が現れた。

 動転した彼女は、よりにもよって村とは逆方向に――森の奥に妹を連れて逃げてしまったのだ。

 

 村方向に逃げていれば――それでも彼女たちの足では追い付かれた可能性が高いが――

 村人たちが山賊たちに気づいて姉妹を助けてくれた可能性が高い。

 だが、森の奥では――だれもいない。だんだん狭くなっていく獣道を逃げ――

 いつの間にか来たことがない場所に――森の奥深くまで入ってきていた。

 獣や魔獣に遭遇しなかったのは、運が良かったのか、あるいは悪かったのか……




 すでに糸が切れた弓は、草をかぎ分けるのに使っていた。

 片手に弓をもち、もう片手にきつく握った妹の手を引いて、草をかき分けていく。

 かき分けながらも、せめてこの娘が隠れそうな――

 あるいはこの状況を打開できそうなモノがないか――周りを必死で見渡す。 


 だが、彼女が見てしまったのは、かきわけた草の先。

 広くあけた場所であった。


 隠れる場所がない。


 後ろの山賊たちは笑っている。

 あけた場所に出たとたん、そのうちの一人が姉妹の前方に回り込んだ。




「ぐふっ くっくっくっ……さぁ鬼ごっこはおしまいだぜぇ、

 たのしいたのしい時間のはじまりだぁ……くっくっく♪」


「ひゃはっ ヤルのは久しぶりだぜぇ。

 心配しなくても二人ともおいしくいただいてやるからよぉ……」

「オレはそっちのガキのほうがいいぜぇ……」



 後方かのっそりと現れた、ひときわ大きい男が笑うと、

 回り込んだ男と追ってきた男も追従するように、にやにやと下品な笑みを浮かべた。

 男たちは皆、股間のイチモツを腫れあがらせ、興奮していた。


 蒼白になった姉妹は――それでもなお、姉は矢を両手ににぎり、

 回り込んだ男からも避けるように横側で背に妹をかばった。

 だが、妹は恐怖に腰が抜けて泣きはじめる。



「っ!」

「ぐず。うう……おねえちゃ…………。…………かみさまぁ……たすけてぇよぉ」



「っ! ――やぁああああーーー」


 先手とばかりに両手の矢を先頭の男――ボスにがむしゃらに振るう。

 

「ふん……」


 ――だが武道にたけているわけでも力があるわけでもない女の攻撃など、

 暴力の生き方をしている男にはなんの効果を生み出せず。空振りに終わった。


 からぶった女の腹に己の武器、斧の柄をめり込ませる。


「!ぐっ……かはっあ」


 目を見開いたまま前倒れ――る前に、武器を捨てた男が女の下半身の着物をはぎ取った。

 腰布をはぎ取られた彼女は足を取られ、無防備な下半身を男にさらし背中を大地に打ち付けた。



「かぁっ!…… あ、あ、あ、ぐっ……」



 叩きつけられた痛みに呻く彼女を気にせず。男たちは彼女の股間を見て囃し、大喜びする。



「うをっ! しんじらんねぇ…… まさか、新品か? 初物?」

「ひゅーー、うっひゃあ! コイツはついてるぜぇ。里長さとおさの娘か?」

「……どれどれ……おおっ!! キレイなもんだ。 ぴゅーー」


  

 姉妹の前に回り込んでいた男も仲間の男の方に戻り、彼女の下半身を凝視、口笛を吹いた。


 怒りと恥辱に、顔を赤らめた姉は下半身を隠そうとするが、全身の痛みでうまく動けない。

 そのもぞもぞとした動きに男たちはさらに劣情をたえぎらせる。

 そしてまず先に、ボスが彼女を犯そうと手を伸ばす。



「……っ! く、くそっ、こ、こんな奴らに…………ちくしょう、イヤだ。

  ……やだぁあああぁぁぁぁーーーー」

「お、おねーちゃーーー。かみさまぁーーーー」



 彼女のせいいっぱいの強がりは、妹の悲鳴と彼女の足をつかんだ男の手の感触に崩壊した。

 姉は泣き叫び、もう一人の男が妹に手を伸ばそうとし、

 その妹の悲鳴でさらに高い悲鳴を上がる。




 彼女のもう片方の足が男に捉えられ、大きく股を広げられて尻と背中が宙にういた時だった。




 姉妹の間、妹を捕まえていた男がいた場所――


 ――空中に――黄金に光輝くおおきな扉が現れた。




 妹を掴んでいた男は、突然現れた扉に――扉が放つ光に弾き飛ばされ――


 姉を掴んでいたボスは、突然のことで呆然とし、姉を振り落とした。

 もう一人の男はただ呆然と――



 ――振り落とされた姉は、おとされた衝撃で我に帰り、妹にはい駆け寄る。


 


 ……かみさま? と幼い少女がつぶやいたとき、


 扉が真中から開け放たれ、そこからボスよりさらに背高いヒトガタが扉から足を踏み出した。


 扉のはなつ光のせいでヒトガタがなんなのか……姉妹も山賊を分らなかった。




  




 

 



 

【side あね】


 そのお方はいままで見たこともない方だった。そのお方が大地に立つと光を放つ扉が消えた。


 青い衣を首から足首。手先まで纏って、衣から出る手は真っ白だった。

 足には黒っぽい堅そうな履物。


 手にはきらきらといろんな色をした石がついた堅そうな棒。

 棒は先っぽが握るのにちょうどよさそうな形をしていて、

 握れそうな場所との間は出っ張りがあった。


 そしてお顔は……なんとうちの部族と同じ、黒髪で黒い眼! 

 肌の色も私たちよりずっとつややかではあったけど――

 しいていえばリムみたいな幼い子のように肌がきれいで――

 けど間違いなく我が部族と同じ色だった!



 短い毛髪といい、顔立ちといい、たぶん、このお方は男だろう……けど――

 ものすごく美形。村の男衆とちがっておひげもないけど。

 顔にぶつぶつとしたものも何もなくて――キレイな肌。

 するどい石のような細い眉。毛先まで切りそろえた毛髪。

 

 村の誰よりも背が高そうだ。

 村の女性の中でも背が高めのわたしより、頭一つ、いえ二つ分くらい高い。

 リムだと、ちょうどお腰に視線がいきそうだ。



 ……きっとこの方は、リムが呼んだ神様なんだと思う。

 それも、おそれおおくも、わたしたち部族の神様では?

 苦痛にあえぐ今の部族を眼にしてご降臨されたんじゃ……


 ああ……なんてこと。

 我らが神様のご降臨をお目にかかることができるとは……。




 神様は、わたしたちをご覧になってなんだが驚かれたみたいだが、

 わたしたちから視線をずらしたあと、まわりをゆっくりご照覧して、

 首を傾げしばらくして、ひとつ頷くと……

 なんとわたしたちの方に歩んで来られた。



 ――ハッ! なんてこと。

 神様の前だというのに、わたし、このような格好で……

 ちゃ、ちゃんと伝統の衣装きてないのにっ。ああ、腰布! はぎ取られたままっ!



 神様が足を進めるたび、賊たちはすくんで、うしろに下がる。

 ……当然だ。神様のご威光にうたれているんだ。





「…かみさま? ……たすけてくれるの?」



 リムがつぶやく。

 ――ああ、そうだ。ちゃんとお願いしないと。



「――神様。われらが部族の神様――どうか、どうか下劣な賊どもから私たちをお救いください」



 どうか……どうか――。


 ……あ。貢物ない。


 この場合――――リムが呼んだのかもしれないけど――

 村長の孫娘で生娘であるわたし? リムじゃまだ早いし。

 え、ええと…………




「なっ! て、てめーーら。なに勝手なっ……」

「や、やべぇって兄貴! 神にかなうわけ……」

「に、にげよう――」



 ああわたしどうしましょうあんな素敵な方…………うん? 賊どもがなんか言ってる。

 びびってるみたい……ふん。ざまあ。





『君たちの言葉が理解できないが、どうやら子供たちに害なすもののようだな。





 ――去れ。ケモノども』



 なんと、頭に直接、神様のお言葉が響いた。

 でも……言葉がわからないって?



「な、なに言ってやがる。

 て、てめえなんざ……

 背があろうとそんなひょろひょろな軟弱野郎にオレ様がにげるわけねえだろっ!!」


「ゲぇ? あ、兄貴っ!?」



 賊の親玉はそうどなると、無謀にも神様に斧を振りおろそうとした。


 けど神様はそれをサラリとさけて、手に持った綺麗な棒――あとで剣という名だと教えてくれた。

 剣を抜いて――銀色の曲がりがない一直線の剣を上から下に振り落とした。



 ――不思議なことがおこった。



「え?」


 

 だれの声だったのだろう……


 あきらかに剣は賊に届いていない。それどころか人一人分くらい隙間があった。

 なのに、親玉の体も親玉の持つ斧ごと―そして親玉の後ろにいた子分の棍棒をもった腕も――

 その先の木々まで――真っ二つに裂け――


 親玉は頭から股まで左右に体が二つに分かれ、子分の腕は切れとび、木々は倒れた。


 親玉は無言で左右に崩れおちた。

 


 ――茫然。


 神様は剣を振りおろされたまま、しばらく止まっていたが、

 ゆっくりと剣をもう片手にもった棒――鞘にしまうと、


 残った賊、腕を無くし悲鳴をあげている男と、

 無傷だがへたりこんで下を漏らしている男に目を向けられた。

 そして――



『――去れ』



 もう一度、頭に響くお声でおっしゃった。


 ……スゴイ。さすが神様。かっこいぃーー、かっこいいーー!!


 きっとこれから我が部族は繁栄の時代を迎える――

 ぶざまに悲鳴をあげ逃げる賊どもを見ながら、わたしはそう確信していた。


 


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