第18話 水害
現在村で栽培している農作物は米と小麦、トウモロコシ。
湖の周りの旧農地に今まで通り(若干肥料を追加したが)湿田での栽培方式と、
新農地での乾田で旧農地の数倍量の大規模な栽培。
それから堆肥や水はけ等を様々に変化させた実験農地に、米や他の作物以外でも、
じゃがいも、大豆だ。
≪ポケット≫内にあったじゃがいものうち栽培に適した小さいサイズのいも50個。
書にかいてあったとおり、半分に切ったりして大きさを調整したサイズを30個分。
前から外に出しておいてあり、それなりに芽が出てきているのでこれをいろんな実験農地で栽培。
とりあえず一年目は最適な土、水、栽培方式などのさまざま検証して種芋を増やしつつ、
2年目からの大収穫を目指す方針だ。
イモは土地面積あたりの収穫高が高く、食糧難に強い食材だし、……カレーにも必要だ。
ちなみにこのイモは下界のメークイン種に近いイモだ。
男爵芋種ではないのでコロッケには向かない。ちょっと残念。
ついでに天界種だから、含まれる霊力も他と比べて非常に高い作物だ。
オレ的にも是非とも栽培を成功させたい食材だな。
ただ、天界種であっても、じゃがいもは連作障害などがあるようだから気をつけないとな。
んで。大豆。
さまざまな料理や調味料の材料に必要な食材だ。
故に是非とも欲しいモノだが、≪ポケット≫の中にはなかった。
で。あまり量がなかったが森で探し回って、それらしきものを発見。
種を取り栽培してみることに。これも検証対象だ。
実のところ好物なカレーとシチューのためには、玉ねぎと人参の栽培もしたいものだが、
人参は種がなく、探したがあいにく村周辺にも見つからなかった。
……たしか人参って種が必要だったよね? そのままじゃ無理だったハズ。
玉ねぎに関しては、≪ポケット≫内にあるので、栽培しようと思えばできるだろうが……
あまり一年目から栽培の種類を増やしても作れないだろうしな。とりあえず稲が優先であるし。
それにたしか、玉ネギは秋からの栽培だったと思うし。栽培は稲の収穫後に考えてみよう。
ほかにもキャベツっぽい野菜や綿花など栽培してみたいが、森にたくさん自生してるし、後だな。
米、小麦、トウモロコシも実験農地で比較検証するが……
まぁこの3つに関しては、オレの持つ書に栽培の方法が詳しく載ってたので
肥料などもわかっているから、あくまで来年以降のための多少の検証程度だ。
それなりにわかっている肥料の配合で新農地に大規模栽培をしている。
じゃがいもと大豆は書にあまり載っていなかった。特に大豆は詳しくわからんからな。
じゃがいもはあまり堆肥がよくないほうが良く、乾燥土がいいとしかわかっていない。
一年目はそのため検証のみだ。まぁ数が少ないし増やさないと如何しようもないしな。
大豆に関してはさっぱりだ。
そもそも見た目と味が似ているだけだから、大豆かどうか判断つかんし。
……あ、それ考えると米とかもそうなるのか? オレの知ってるのと一致するか――
………ま、大丈夫か……たぶん。味も見た目も、栽培方式もそっくりだし。
じゃがいもと大豆の実験農地は、家の裏にも小規模で作ってみた。
大規模なものは新農地に作ったが…… コチラでは他の作物も試していきたいし。
他にも、こちらの農地の土は実験的に霊術で土内の精霊等を調整してあるのだ。
果たしてどれほどの効果があるのか…… 気になるところだ。
とりあえず、この小さな家庭菜園の農地は、普段はリーアと三人娘に任す事にした。
リーアは妊娠中でお腹が膨らんできているのに働きたがるし……
チロさんいわく、お腹が膨らむのが早いみたいだが……まだ大丈夫らしいけど……不安だ。
比較的安全な場所にいてほしいからな。丁度いい。
もちろん菜園周辺の危険個所は対処済みだ。
三人娘にもくれぐれもリーアに負担かけすぎないように言っておいた。
……三人娘?
ふっ……オレはもう悟ったのだ。
郷に入りては郷にしたがえ、と。
もう成人の儀を終えた娘は、ちゃんと大人としてみるさっ。
もうロリという言葉は使わないこととするつもりだ。
子供をつくるのは立派な仕事だ。義務だ。巫女たくさん作るのだ!
……あ、いや……もちろん義務感もあるが、抱きたいのもあるぞ。かわいいし。
嫉妬はないが、リーアが寂しがるし……
つい、小柄なためハッスル過ぎて翌朝、彼女らがキツそうだから数日おきだが。
……三人まとめてするのは……
リーア以外で誰か、特定な者におぼれない様にするため……
っていうか一人づつだと……なんだか、オレのなかでリーアが心が――離れてしまいそうな……
…そんな気がするからだ。
一対一で抱くのはリーアだけにすることでオレ的にリーアを特別にしたい感じ?
なんとなく。
我ながら自分勝手で、ひどい男だと思うし、多分他人がこうだったら激怒しそうだが。
……自己嫌悪――
それから一つ気になることがある。
最近判明したことではあるが、試練を受けた男女の間に産まれる子供に関してだ。
女性が試練を受けた場合の成長スピードが特に高くなっている。
男のほうの試練の有無は特定できないからなんともいえないが。
試練を受けて――もっとも早いムオヌたちでさえ、現在おおよそ試練後180日ほど経過だから、
まだ子供が生まれてはいないが、試練を受けた男女間でできたと思われる子供(妊娠中)の
成長スピード――お腹の大きくなる早さなどから判明――が普通より少々早いみたいだ。
早い場合、多分普通より1、2カ月早く生まれるだろうとのことだ。
おそらく試練によって体内精霊の活動が活発になるからだとは思うが――
胎内の子供の霊力を探ってみたり、探知の結果は問題ないから奇形などの心配はしていないが、
生まれる子に多少影響はでそうだ。おそらく霊力が高い子になると思われる。
リーアのお腹の膨らみが早いのもこのせいであろう。
子の霊力もオレの影響か、他の妊娠女性の子より高いみたいだし。
……万が一。試練によって奇形児とかの問題が大発生したら……
…………逃げよう……かなぁ……責任なんてとれそうもないし……どきどき。
………………
春の宣言から50日ほどがすぎた現在、村人たちの活動は順調だ。
子供、老人をのぞいた人足として働ける村人の総数は145名だ。
男62名、女83名となっている。
各々の仕事は――
・ハンター:男7名(正規5名、弟子2名)
仕事は順調。行動範囲をあまり広めすぎないように指示中。魔獣との接触は今のところゼロ。
成り手が多い。男の子たちの第一目標。
・漁業:男3女4名
仕事は順調だが人員不足気味。ただし成り手がいない。手隙の女性が手伝うこともある。
・酪農:男5女6名
順調。村人から乳牛の数を増やしたいとの要望もあり。牛乳の供給不足のようだ。
鶏のほうは順調に増えている。餌のトウモロコシが不足気味。
そのため村人の食事を、例年より狩りでの肉食ぎみにさせてもらっている。
女の子が成りたがる職の一つ。
・鍛冶・建設・工業:男15名女15名
産業としてまとめているのは男鍛冶と、服や土器、道具等作りだす女性陣が協力体制にあり、
移住区も近く、協力しあっているうちに夫婦になる傾向が高いため、仕事は順調。
日々思考しながら新製品を考えているようだ。
村人の中でも、彼らがもっとも柔軟な思考を持っているともいえる。
粘土が沢山あまっているので、建築衆は気づいた時はどんどんいろいろ建ててる。
また余裕がある時は、村の壁をより高くしたり、見張り台なども建てたりしている。
子供たちの移住区が近いので、手伝いの子も多い。
・農業:男20女25名
新旧農地ともに順調。当初はもっと人員が多かったが過剰気味であったので減らした。
農具と試練による基礎体力向上によって、見積もりより効率が非常に高くなっている為。
不足気味になったら他の産業から手伝わせることにする。
現在、休農地はなし。もっと作物の種類や農地を増やしてもよかったかも?
・外交官:男6女1名
村の外で情報収集に当てている。目立たせない様に活動中は発展前の服を着てもらっている。
が。非常にいやそう。その服に羞恥心を感じるようになったみたい。
各村の人口、問題点……ヤト内の情報はそろいつつある。
できればヤト以外の情報も欲しいところだが、そちらの情報収集は難航中。
隠蔽第一、安全第一で行動中のせいかもしれんが無理はしないように指示している。
・子守:女20名
子供たちの世話役、および妊娠中の女性の補佐。
または妊娠女性の代役として各産業への手伝いなども。
常時人員不足気味。もう少し人員を増やしたいものだ。
・食事:女8名
女衆から希望者を募り専属人員とした。別に全員の食事を彼女らだけで作るわけではない。
いわゆるコック長の立場。新規メニューや調味料等の開発もしたりする。
各産業の村人は少し離れて暮らしているため、食事時には派遣され指示したりする。
新しい食材・調味料、メニューの探究に非常に熱心ではあるが、
数日おきに、治癒術(解毒)が必要になったりとチャレンジャーすぎると思う。
まだ死人はでていないが、治癒が間に合わず、一人味覚が狂った娘ができてしまった。
微弱な毒等の残留もある可能性が高いので、結果、定期的に全員検査をすることになった。
・衛士:男5名
村の見回り当番的なもの。ハンターと違って村の外には基本出ない。
人員が少ないとも見えるが、専属要員でしかなく彼ら以外も見回りがあるので問題ないと思う。
・中央……まあオレとリーア、三人娘。おまけのお手伝いリムちゃんだ。
各産業の取りまとめと調整。相談役。実験農地とヒヨコの生育。
また他にも、連絡要員として三人娘を使うこともある。
定期的な勉強会などでオレから習ったリーアが、村人に文字や数字を教えている。
ちなみに文字はひらがなとカタカナ。この世界の文字ではない。
名詞・動詞はカタカナで他をひらがなで表記。言語構成が日本語に近いため覚えやすい。
この世界の文字はまだ発見していないし、将来的な貴人らに対する情報隠蔽策でもある。
最終的に会話も日本語に、漢字も使う長期計画。基本バイリンガルにする予定。
もちろんこの世界の文字がわかったら、そちらも広める予定だ。
順調だ。特に大きな問題がおこっていない。
……だが、順調すぎるような気がする。
新旧・実験農地すべてが順調にすすんでいる。
作物の成長も力強く、米の予想収穫高は前年比10倍近くになる可能性がでてきた。
それだけでなく、トウモロコシ、小麦も5倍はかたいとの予想である。
堆肥の効果がもろに出ているようだ。枯れたりダメになるのがほとんどない。
また広い田んぼを支える農業に従事――農家の者たちも、
試練効果や鉄製の農具で一人当たりのフォローできる面積が、相当広がっているのも理由だろう。
オレも含めて村人たち皆、将来の展望が明るく張り切って仕事をしていた。
…………
10日前から日中から小雨が降るようになってきた。前はごくたまに雨が降っても夜中に少しだ。
例年どおりであるなら雨季がやってきたわけだ。
リーアの話では、この雨季は毎年、おおよそ50日程度続き、ほぼ一日中小雨、
あるいは少し強く降る程度だそうだ。
たったそれだけで森が維持されるのが不思議ではあるのだが相当、水はけが悪いせいであろう。
あるいは地下伝いに他所から水が流れているのかもしれんが。
「……だけど、去年はあまり雨が降らなかったのよ。
その前の年は、夏があんまり暑くなかったし。それより前の年には冬が暖かった年もあったわ。
お婆さまがいうには、ここ数年、変な天気な年が多いみたい」
「……異常気象――というわけか。……それで今年の異常はコレになるのかねぇ……?」
崖から見下ろす下、目の前には浸水してしまった一軒の家。農家の一つだ。
村でも、もっとも低地にあったその家は、高床式にも関わらず床上浸水してしまっている。
電化製品などがあるわけないし、水に濡れてダメになる様な物はまったくないが、
便所からあふれた汚物などと混じって片付けがとても大変になると思われる。
…………
5日ほど前から小雨が豪雨に変わったのだ。
豪雨に変わり二日目の時点で、止まらない豪雨に異常を感じたオレ達はすぐさま対策に乗り出した。
優先的におこなったのは当然農地で、総出で新農地のまわりにレンガや土を高く積み上げて
雨水が過剰に流れ込まない様にした。
もっとも新農地は設計段階から過剰なほど耐水対策をうってあったのでそれだけで十分であった。
次が旧農地。
ただし旧農地は湖に隣接しているので、旧農地の対策というより湖の対策だが。
引き続き村人総出で土木工事。こちらも湖の周りと農地の周りを高く積み上げての対処。
上流というのがなく、それほどまだ増水はなかったので十分対処可能だった。
で。
やれやれ、ようやく落ち着けるか、と雨季の前につくった内風呂――温泉は現在止めてある――
に入った翌朝、雨の轟音に眉をひそめつつ、リーアたちと朝食をとっていたのだが、
「賢者さまぁ~、大変ッスううぅ~ たぁすけて下さぁあい~~」
っと泣きながら農業頭のイムラが家に駆け込み、浸水した家屋に案内されたわけだ。
危険だからと渋るオレに対し、どうしてもと頼むリーアを風術で抱き抱え飛んで向かった。
イムラたちの家が、彼らが深夜に寝ている間に浸水してしまったらしい。
オレもそうだが、高床式の家であったため皆油断していたようだ。
降りやまず、ますます強くなる雨の中、現実感がうすい光景にボーゼンとしながら
徐々に水没していく家を、危険性が高いため離れた場所から見下ろすオレ達。
ボーゼンとしているうちに、どんどん雨水が流れていって徐々に深く沈んでいく家……
水圧の為、柱が折れ木材のきしむ大きな音とともに崩れ、つぶれバラバラになった木が流れていく。
丹精込め建てた家が崩れていくのを悲鳴を上げ、嘆くイムラたち農業グループ。
「……これをどう助けよ……と、イムラ?」
「……………できないッスかねぇ……」
無茶ぶりだ。
どんどん被害が広がるのを見て、顔色がますますひどくなっていくイムラ。
とりあえず水没した家と近くの家に住んでいる者を避難させる以外どうしようもないが。
いくら霊力・霊術が高まっても、これほどの自然の猛威には無抵抗でしかないぞ。
あーアレだ。生前テレビでみたことがあるような水没した街みたいな?
幸運にも生前住んでいた地域は問題なく、自身で体験したことはなかったが。
濁流の激しさは人工物があまりなく抵抗が少ないため、コチラのほうが強いだろうが――
高台から見下ろしているが……大きめな陸上競技場ほどの広さ? それくらいの広さにわたって
完全に水没――荒れに荒れた池――いや、湖が轟音と震動とともに出来上がりつつある。
荒れている湖には……千切れた木材やら岩やら、はたまた引っこ抜かれた生木が、
そのまま洗濯機の中に放り込まれたかのように水面に浮かんだり沈んだり翻弄されていた。
この場所は森を切った拡大地の中でも資源が沢山あった場所で、
堀り起こした場所であったので、湖より低い位置にあったのだ。
そのためここら一帯に降り注いだ雨水がすべて集まったわけだ。水はけもかなり悪いし。
「賢者様ならなんとかなるんじゃないか……」なんてとんでもないこと言ってる村の衆には、
「精霊の力には逆らえんよ……」
と、微妙に期待をはずして答え、ついでに精霊信仰のためになるように言っておく。
打つ手はなく、雨はまだまだ降り続けそうだから近辺の家の者もまとめて避難させるしかない。
で、大きく余裕をもって他に被害がまわらないように――特に拡大地の北側、新農地、牛舎の方、
そちらに雨水が流れ込まない様に『錬成』術と村人たちの力を借りて防波堤を作っておいた。
家を失った農家グループは、鍛冶グループや酪農グループの家に避難させ、
祈るような気持ちで雨季が過ぎ去るのを待った。
そうして雨が小ぶりになったかと思えばまた豪雨になったりと、ハラハラしながら30日ほど過ぎた。
その間にも、飛ばされた木によって村の壁が崩れたり、いくつかの家で雨漏りが酷くなったり、
好奇心で飛びだした子供が風で吹き飛ばさせそうになって怪我をしたり、
貯水槽からの上流パイプが飛ばされた岩で何カ所か破損し水漏れして慌てて『錬成』したり……
豪雨とそれに伴う強い風によって、村のあちらこちらでトラブルが発生していた。
雨季がようやくおさまった時は、試練を受けた者も受けていない者も、子供も、オレも
みんな疲労がたまって倒れこんでしまったほどだ。
……そうして被害報告を聞くことに。
「……湖の防波堤が一部崩れたっす……トウモロコシ畑が水で押し流されてかなり被害でたっす…
あと米のほうもけっこう…… 新農地は問題なかったっすけど……
それと……おらたちの家も……2軒のぞいて……つぶれたっす…… 泣きたいっすよ……」
「漁船が半分、流されたぞい……賢者さまにちゃんとつないどくよう、いわれたのに申し訳ないわい」
「死んじゃった子供はいないけど……10人以上大けがした子がいるわ。それほどひどくないけど。
……あと……流産しちゃった娘が一人」
「水没した場所は……水が引く様子がまったくありません。なんとか川に水を流したいですね……」
「崩れた壁の補修は終わりました。でも村の外に大きな水たまり……池かな。
があって他のところから崩れるかも……です」
「牛舎がちょっとやばいわね。くずれそう。あと鶏舎の壁に穴あいて何匹か逃げちゃったみたい」
「温泉が一カ所、イムラのとこだけど大きい石とか木のせいで使えなくなっちゃったよ」
「村のあちこちで、がけ崩れが………賢者様がいなかったら……ルルア終わってたかも」
「森……木がたくさん倒れてる。動物たくさん死んだ。もう腐ってる食えん」
「………そうか。めちゃくちゃ被害がでかそうだな……
鍛冶グループの者と協力して家屋の補修を最優先で頼む。
それとイムラたちの家は新農地近くの北の高めの空き地に新しく作ったほうがよさそうだな……
旧農地は最低限の対処でいい。それより新農地をしっかり確認しておいてくれ。
森の死骸は、そうだな……できうる限り一カ所に集めてくれ……堆肥に使おう。
けが人はすぐオレのとこに連れてくるように。いやオレが行こう。
漁船は……とりあえず保留だ。他を手伝ってくれ。どうせ湖が荒れててまだ魚が獲れんだろうし。
壊れた温泉は……これも後だ。水没した地区は……ぬぅ……あとで考えよう……他もな」
落ち込む村人たちに矢継ぎ早に指示。
復旧を考えると頭いたい……が、少しづつでもやらにゃならん。……が……
それまで展望が明るかったゆえか、反動か、溜息をつき重い足取りで復旧に向かう村人。
はぁ……オレも気が重いよ……
水没した場所なんざ、どうしようかねぇ……
「なにやってんだいっ! あんたら、しゃきっとしな! ちんたらしたって終らないよっ!」
! うをわぁっ。
落ち込む皆にいきなり、肝っ玉チロさんの一喝。
尻に火がついたように慌て、弾けるように走り出す、特に男衆。あ、あとつい、オレも走る。
あぁ、びびった……
女は強いねぇ……
…………
火がついた村人のおかげで、数日かけて家屋の補修と農地の補修は終わった。
……このこともあって、男衆の何人かはチロさんに逆らう気力を無くしたとか。
村の内外の水没地域と沼地化した個所の対策以外は完了したと思われる。
今回の水害で死者はなかったが、軽傷者多数、治療が間に合わず手足を失ったものが2人。
流産が一人……とけっして小さくない人的被害もでてしまった。
「はあぁぁぁ……、よーやく落ち着いたか……
それにしてももう少しちゃんと水害対策とか、しとくべきだったなぁ……ミスった」
「貴方……こんなことおこるなんて、私たちも想像してなかったんだもの……仕方がないわよ……」
「……リーア様の言う通りなのです。
賢者様がいなかったらもっとひどい事になっていたに違いないのです。」
「あ、あの、フーちゃんと同じ、あたしもそう思いますっ。村のみんなもそう言ってましたっ!
イムラさんとか、シャウさんも。年貢きっと絶対無理になるだろうって。
だ、だから落ち込まないでくださいっ!」
「……あ、ああ。ありがと。リーア、フッラ、アティ。そうだな。落ち込んでられんか」
アシェのいれたお茶を飲みながら復旧状況を確認していく。
声かけはしなかったが、リムちゃんも隣で力づけてくれるように腕に抱きついた。
そのリムちゃんの頭をいつもどおり撫で、感謝を伝える。
「らいぶらさま。……みんな温泉入りたがってる……」
……ああ。そういえば水止めしていたか。
オレんとこは、内風呂で水対策もとってあったから温泉入れないだけで風呂はあったからな。
皆が風呂に入れない状態であったことに気づかなかった。
「……そうだな、そろそろ解禁したほうがいいだろうな……
アシェ、水管に破損がないのを確認できたところから温泉にお湯を通すよう言ってくれ。
……しまったな……みんな我慢してたんだろうな……」
「ハイ。みんなに伝えますの」
「あ、貴方。……ごめんなさい。そういえば、言い忘れてたわ。
ヌルウに他の村がどうなったか見てくるように、勝手だけど指示出しておいたわよ」
「あ。うん。……そうか、それもしなきゃいかんかったな。リーア。助かった。
他の村の被害の状況によっては、介入したほうがいいかもな。
コチラの情勢が整ってない、まだこんなに早く介入したくなかったが……
他の村で年貢が払えなくなって、近くに貴人がきたりしたらまずいし。破滅させるわけにもな」
「……ええ。今回で被害があったとはいえ、うちの今年の収穫予想は十分余裕があるし。
できるなら助けてあげたいわ。他の村は湖のまわりだし心配ね……」
うむ。
イカンな。オレ的にはルルアしか見てなかったな。貴人対策のためにはヤト全体でみないと。
リーアはヤトごと発展させてほしいみたいだし。リーアの願いだしな。
…………
雨季が終わり、徐々に夏に近づき……
温泉の復旧と……そして今だ残る水害による水没地域の影響で――
予想すべきことであったが、じめじめ蒸し暑く、湿気が酷くなりつつあった。
一応、湿気対策のための高床式であり、村の家々は風通しも考えて作ってあったが、
それでもなお、湿気がひどく頭を悩ませていた。
ちなみに妊娠に湿気がよくない、ストレスがよくないとの事だったので、我が家に限っていえば、
作りだした魔導具――霊力を込めると一定時間冷気を放つ『冷石』によっていつでも快適だっ。
『冷石』を村人に渡しても霊力が使えないと如何しようもないし、一定時間で効果が切れるから、
村の温泉横に設置してある休憩所に配置して、定期的に霊力補充するのが精いっぱいだった。
なんとか村人が霊力を使えるようにならないか、他に対策ないか考え中であった、そんなある日。
ヤトの村々の水害状況の調査に行かせたヌルウが、成人の儀前であろう見知らぬ少年一人と、
こちらも見なれないどこか腰の低い従者っぽい青年一人を連れて戻ってきた。
改訂完了。
時間かけた割にあまり変わっていませんが。
主な改訂内容は
1.リーアにいろいろ教えてるってことを明記
2.製鉄関連。……ただ途中で混乱して結果的に大差なく……後のストーリを考えて少しの修正に留めました。
3.受肉した際の性格変化を描写。
4.♪をできるだけ削除。
5.古代日本ではないことを明記。弥生風ですが異世界です。
6.誤字やわかりにくいところを修正。