第11話④ 超発展! 治水編Ⅱ 温泉!
さて、井戸掘りの結果をまとめてみよう。
場所が悪いのか、わずか数キロ程度しか離れていない湖の地下とはどうも違う可能性がある。
あるいは、湖の湧き水はあの分厚い粘土層をくぐり抜けて湧き出たものなんだろうか?
考えにくいか……
だが、現行水田の水はけの悪さと、湖にちゃんと貯水されていることを考慮すると、
地下は粘土層の可能性がある。
では、前提条件としてしまった地下からの湧き水ではないとすれば……?
――どこから砂鉄が流れてきたか判断つかなくなってしまう。
あの湖はどうやってできた? この問いは非常に難しくなった。
……今回噴出させた熱湯とは水源が違う可能性があるな……
だが、今はその疑問は放っておこう。いずれ調べて見せるが。
最後に失態を犯しかけたし――始めの想定とはだいぶ違ってて、大失敗ともいえなくもないし、
無様をさらしちまったし、いろいろ疑問が出てきたにせよ、
目標である、水源――熱湯になったが――入手する目途はたった。
だが、熱湯では湖を作らないほうがよさそうだな。冷ますための水路程度にしておこう。
……ただ冷ますだけではもったいないから温度はなんかで利用するか。
ん? 熱湯?
…………んーーおんせん?
山じゃねえケド……コレは一応、温泉といえるのでは?
……ふーーむ。
…………まあ結果オーライ。
ただし、飲料水、あるいは温泉にするには――安全でなければいけない。
地下からの直接取り出したお湯だ。
土混じりだし、ヒ素など体に悪い成分が含まれている可能性が大だ。
とは言っても、どうやって調べる?
まさか人体実験するわけにもいかんし……
…………最悪、濾過して、もっとあっためて――蒸気から水をつくって――
それで多少はかわるかなあ……
どうしよ…………
書を読み漁る……
暫らく苦悩の日々が続いた。
……………………
状況を変えたのは 『術式溶鉱炉』を造ろうと術の勉強をしているときに発見した術だ。
結界術の一種で術者が望むもののみを通す結界、それ以外は消滅。
防御結界のひとつとして記述されている『遮断』の法陣術。中級地術だ。
――これだっ!
むさぼるように読む。望むものという表現が敵などの生命体でなくても問題ないのか?
説明には例として、害意あるものを消し去るとかしか記述されていない。
――――
……
実験した結果は問題ないようだ。
そこから一気に話は進む。
まずは『術式溶鉱炉』で使った『地脈操作』の法陣を近くの地下に設置。
溶鉱炉のときのようには、あまり大規模には作る必要はない。
水圧調整および水圧耐性の『防御』の法陣術と『遮断』の法陣術に利用する程度だ。
『遮断』の法陣は"地下熱水路"の途中で刻む。
これで"人と農作物に害となる小さな物質を遮断"の効果が出るハズ。
で、井戸の上に――というか、地面でくっつけて濾過器兼貯水槽を作る。
濾過した水を、さらにここにも『遮断』の法陣で"害になる物質"を遮断。
貯水槽自体は、鉄とレンガの組合わせだ。
それから『防御』の法陣を内部と外部に刻む。これで水圧が高くても問題なし。
目立たないように半分以上地面に埋めさせている。
そしてカモフラージュのため貯水槽に大きく土をかぶせて丘のようにする。草とか適当に移植。
その貯水槽上部や、下部には死水場所が発生しないように10カ所の出水口をバラバラに作る。
それらはおのおの、農地方面用、温泉用、生活上水用とに利用する。
あちこちに、漏れがでても対処できるように頑丈な元栓を作る。
組み合わせが自由にできる数種類の太さを規格化された鉄製パイプを大量に作成。
最初にオレが基準となるものを作り、鍛冶を担当することになった村人に指示。
まあ、そう簡単にはできんだろうが……頑張ってもらおう。
とりあえずはオレが作ったのがあるから、
これで家と温泉に水道をひいたり、農地にも引ける。
ただし、湖に排水を流すわけにはいかない以上、
水量を制限するため、あっちこっちに設けた元栓を緩めたり締めたりで
最低限の水しか流れないように気をつけることとする。
この施設を 『術式貯水槽』と命名した。
そして――
冬の初めに、村、2カ所の温泉設備ができあがった。
1か所は≪テント≫すぐ横。オレやリーア、リムちゃんが使う専用温泉だ。
もう一カ所は村人が使う温泉。こちらは男女別に分けてある。
一度に大人100人は入れそうなくらい広い。
そして男女別で脱衣所などを完全に分ける。双方の出入りは10歳以上は禁止。
あと、トイレも併設。漏らされたらたまらん。
オレらの温泉が高台にあってそこから見降ろせる場所に村人用がある。
……うん、なんかそうなった。狙ったわけじゃねえけど。エラソーな位置関係だ。
…ついでに女湯もこっちからなら簡単に覗ける。
うむ。……いい湯だ……
あ。下にあるからって別にお湯までオレら用から流れてるわけじゃないぞ?
温泉への上水は別々に引いてる。
上から目線でエラソーに村人を格下に見たいわけじゃねえし。
………… 第一、それはちょっとなんか、イヤだ。今さらかもしれんが。
どちらも周りには覗き防止柵(オレ温泉からは見えるが)もあり、木材を組み合わせた温泉小屋。
温泉の底は粘土で形をととのえ焼く。排水先も考慮。
粘土と土を混ぜて黒くし焼き上げ、微妙に土っぽい湯の周り。
森から木を根ごと持ってきて植えたり草を入れたり、苔っぽいのを配置したり……
さらに大きい石等で景観を整える。どこからどうみても日本の温泉風景だ。
怪我がないよう尖った部分は作らないよう厳重に注意する。
オレら用、村人用、双方排水はほとんど 『術式溶鉱炉』の方に引く。
そこで、一気に蒸発処分だ。
浄水ができるようになったら、もっと冷ませ、鍛冶業で鉄をひやしたりに使う。
温泉場でのある程度の排水は許可しても、絶対に直接、湖には流さない。
また、村人には中で尿を漏らしたり、
体を洗わないで――まだ無理か、まあいきなり飛びこむような真似はしないように注意。
うむ。石鹸とシャンプー。それとハンドタオルとか………早急に欲しいな。
――だが。まだ足りないものがあろうーと……
「できた……、ついにできたよ……」
思わず感無量。湯気がでて気持ちよさそうな湯、見覚えのありそうな景色。
魂に刻まれた日本人の心。
同人種なっぽいヤト族の心にもきっと刻まれるに違いない。
ああ、どうせなら懐石料理とか美味い日本酒とかサシミとか、喰いてえなぁ……
72年以上前――――前に温泉に来たのはいつだっただろう。
……思わず涙腺が緩む。
「らいぶらさまぁ? 泣いてるの?」
「ああ。あまりに懐かしくてな…………昔住んでたとこに、こういうのがあったんだよ」
「ふーーん。りむもそこにいきたいなあ」
「ああそうだね。――だけど行かなくてもこうやって、皆で作ればいいんだよ。
これから、いろんなもの作るからね。リムちゃんも楽しみにしててね」
「うんっ!」
まあ……感傷はあとだ。
温泉の前には村人が集まっている。
今日は村人の前で、温泉の披露だ。
「みな集まったな。今日は素晴らしいものができあがった。 ―― "温泉"だ。
温泉は体を綺麗にするだけじゃなく、心も綺麗にしてくれる素晴らしいものだ。
また、毎日――よく入ることで、体を健康に保ち、病気にもよく効き、
疲れが良くとれ、若さも保つ万能のお湯だ。 ああ間違えるな。飲むわけじゃないぞ?
裸になって入るんだ。それでゆっくり肩まで付けてやすむ。
みんな頑張ってくれたおかげだ。
特にここ2カ月間。休む間もなく頑張ってくれた。みんな本当にありがとう!!」
力説な演説。うんうん。みんな頑張った。
温泉の注意事項をみんなが真剣に聞いて、順番に入りだす。
大抵、おっかなびっくりだったり、足が湯に触れるとビビって逃げたり……
先に慣れた人にお湯をぶっかけられたり……
泳ぎだしたり、それを注意したり、湯の中ですべったり、笑ったり……
肩まで浸かって気持ちよさそうだったり…… ちょっとのぼせたり……
お互いのモノを自慢しあったり……
まあ、最後のは……見なかったことにする。
べべ、べ、べつに負けたわけじゃないんだからっ……!!
…………タスケめ! ……ちぃっ。
村人たちが交代で入って……特に大きな問題ななさそうだったので、
女湯を視察していたリーアとリムちゃんと合流。
オレら用の温泉に浸かる。 こっちは混浴。男は俺のみだけど。
妻リーアと、お子様なリムちゃんだけなので、なんの問題ない。
ロリ疑惑があろうと、さすがに8歳のリムちゃんには欲情しようもないしな。
リムちゃんも年より幼く見える……7歳のシュイくんとリクゥちゃんより年上に見えない。
「はぁ――――――」
温泉につかるオレ。お約束な声が洩れる。
腕にはめたままのリングが邪魔といえば邪魔だが―― これ外れんのだ。
天界にいた時は半霊体から霊体に戻せばよかったが、受肉したまんま嵌ってるとどうしようもない
天界人用のなら取りはずし可能だが、死人用のだと霊体にならなきゃ外せん。
結果、どうしようもないから、オレはずっとつけたまんまになってる。
まぁ、別に不愉快じゃない。錆びないし、圧迫感とか一切ないし。
ま、それ以外は全身からお湯を感じ取れる。……ふう、いい湯。
霊気を大量に含んだいい湯だ……体中から霊気を感じ取れる……
そして……肉体の疲れもじんわりと沁み込むように癒していくよ……
……ああ。コレだよ。コレ。肉体があるというのはいいものだ。
コレが不足していたものだよ……
コレこそが魂の充足さ……補完計画(?)さ……
「いいゆーだぁなぁ~ぁははん……」 ……例の歌も出ようというものさ……
「……うん?」 あ? あれれ?
なんだか、歌と同時に辺りの精霊も喜んでいるような――感覚がした。
――ま。変な感覚を気にせず、気分よく歌ってると――おや?
「あら。上機嫌で……なにソレ?」
「んーーー? 歌さぁ……温泉の――――」
リーアが来たねえ。振り向くと……、おおおおおぅ!!
明るいとこで裸で立つリーア。
あまり日焼けしない体質なのか……煙のむこうから白い肌が……すぅっとあらわれた。
背は低くいが……ああ。最近すこしお胸が育って……ロリ巨乳になってきつつ……
照れたような――清楚な雰囲気が――そのなかに最近出てきた色気が微妙に漂う――
温泉の白いケムリの向こうから歩いてくる。
――――あぁ! オレの嫁!!
「………………いい」
「なあに?」
「リーア! ぐっど! ないす! すばらしい! パーフェクトっ!」 親指をグッと立ててサムズアップ。
「…え、ええと……よくわからないけど……褒めてくれてるのね。ありがと」
首をちょっと傾げてにっこり。
ああ……あのにっこり笑顔が……なんとも眩しい。 オレのびーなす!
? 背中を誰かつっついてる……
「? あ。リムちゃん」
「……………」
いつの間にか隣で浸かってたリムちゃんが、俺をつっついたかと思うと無言で湯から出て……
オレの前で仁王立ち。
「? リムちゃんまだ、体あったまってないでしょ? もう少し入ったほうがいいよ?」
「! (怒) 」
なにやらお怒り? ザブンとお湯に戻る。
湯の中でオレの背中を蹴ってる。湯の抵抗で全く痛くないけど。
(……くすくす……) リーアがなにか気づいたのか含み笑い。
「だめよー。リム。主様のお背中蹴っちゃ。
そういえば、貴方? さっきのはなぁに?」
「? さっきのって?」 「ホラ。一人でいたとき喋ってたの」
「はぁ? しゃべって? …………ああ、歌か……
そう言えばこの村に来てから一度も【歌】を聞いてないな……
まだ、歌……いや、この場合は【音楽】というものからか……それがまだないのか?」
【歌】、【音楽】というのは確か、古来は巫女の祝詞とか……いやそれはもっとあとの時代?
とにかく音楽の歴史は相当古かったと思うが――この村――ヤトにはないのか?
れ? 音楽まだない? なんか……不自然?
――だが、とりあえず置いておく。
まあ歴史はどうでもいい。これから教えればいいだけのことだ。
とりあえず、さっきから背中をずっと蹴ってるリムちゃんを捕まえて――
湯の中であぐらかいてるオレの膝の上に乗っける。リムちゃんの頭に手を置いて――
それで、適当に覚えている限りの歌を――アニソンが多いのは自分でも凹んだが―― 歌う。
彼女らには意味がわからない歌だし……言葉は違うが――
「♪♪♪~♪♪ ~♪♪ ~~♪♪ !! ♪♪♪っ ♪? ♪♪」
怒ってたリムちゃんも、目をまるくして。
オレがリムちゃんの頭で軽くポンポンしながら拍子をうつと、
リムちゃんもうずうず拍子をうちたがっているようなので、両手を持って叩かせる。
しばらくすると、かってがわかったのか、自分でぱんぱん、と手拍子し始めた。
肩が触れ合うほどに近づいていた、リーアもいつの間にか楽しそうに手拍子している。
精霊も喜び――あたりにホタルに似た光があらわれ、リーア達の手拍子と同じように点滅する。
楽しそうなリーアとリムちゃんと精霊たちに、大いに気分を良くして、どんどん歌う――
…………それに夢中になったリーアとリムちゃんは、湯にのぼせてしまった。
……また、なれない温泉――
というかお湯に入るという経験なんてなかった村人のなかにも。
一応、始めに注意してあったが――
気分よくて入り続けた人を中心に何人かのぼせて倒れたものいたようだ……