第11話① 超発展! 工業編 術式溶鉱炉!
翌日から怒涛のような日々を送っている。
子供たちが採取した砂鉄は相当な量があった。まだいくらでも取れそうとのこと。
また男衆が取ってきた竹は、質も大きさもよく、さらに数が多かった。
……よっしゃあ――――これで勝つる!
まずは年貢用の米俵を作るのに使えそうな農具だ。
それから他の農具も。
まっ先にコレをやらないとどうしようもない。
農具をつくって年貢をさっさと納めてしまおう。
そうすれば農業に従事している女衆と狩りが休みな男衆を他に回せるしな。
だが、たたら吹きなどの製鉄のための熔鉱炉などを作ってる余裕なんかない。
年貢を納めないといけない締め切りは近いようだしな。
だから、砂鉄からさっさと、『錬成』術。
脱穀用の道具を作る。
去年までは村人総出で……なんと素手で脱穀だったようだ。
稲穂を手に持って手で押さえて、モミを絞り取る。
途中で手が切れて怪我をする者も多かったそうだ。
だが、オレは道具を作る。
書籍【治水と農業】から脱穀の道具を探した。
古代に使われていたという"こきばし"……竹の割りばしで挟んでモミをとる。
江戸時代の"千歯こき"……鉄製の櫛のようなものでモミをとる。
これらをすっ飛ばして――明治式"足踏み式脱穀機"だ。
ひっかけ用の針金がついた横にした円筒を、踏み台と歯車で回転させ、回転された円筒の上
稲穂を置くと針金がモミをとり落としてくれる脱穀機だ。
稲穂を手で置き換えたりしてモミを効率よくとり落とす。
まあ鉄は針金と円筒の芯、釘、回転部分くらいにしかつかってないが。
『錬成』術にて部品単位で作り、それを組み合わせて完成!
砂鉄と木材で30分もかからずできあがった。
同じ物を5台、組み立ては手伝ってもらってつくる。
とんかちをつかったりしたが、皆、組み立てが楽しそうだ。
女衆に脱穀させた。が……おもしろがった男衆や子供たちも交代でやる。
わずか一日で脱穀はすべて終らせた。
「こんなに早く終わるなんてすごいです! 主様!
いつもは皆でやっても10日ぐらいかかったのに!」
脱穀機を見ながら興奮した口調でリーアも喜ぶ。
自分たちの生活が楽になると公言していたオレの言葉通りになって村人も大喜びだ。
婆さんなんか、しわくちゃな顔をさらにしわくちゃにして喜んでる。
数日後、いくつか注意事項と策、道具をさずけて……男衆10人が年貢を納めに出発。
行き帰りで60日以上もかかるらしい。 ……なんじゃそりゃっ!? 遠すぎるわっ!
……オレも貴人たちのことを知りたかったから、同行したかったが、
貴人にばれないように、村人の貫頭衣なんて絶対着たくなかったし、
万が一、貴人の"魔法"が霊術だった場合、オレが疑われるので同行できなかった。
まあ、それ以上に今、村を60日も離れるわけにはいかなかったからだが。
「気を付けて行ってきてくれ。それと打ち合わせの通り、貴人どもに疑念を抱かせないようにな」
出発する一団の団長であるヌルウと副団長のムオヌに注意する。
……これでとりあえずは、今年の年貢は問題なし。
それ以外にもさまざまな農具を書を見ながら作りだす。
鋤……まあシャベルだ。ついでに小さなスコップも作った。
鍬……いろいろ種類があったので書に描いてあるものは大抵作った。
熊手 ……竹製でもよかったけど、どうせならと鉄で補強したものを作った。
篩 ……鉄製の丸いザルのようなもの。 粒を大きさで選別するもの。
蓑 ……ま、あれだ。竹で編んだザル。砂鉄集めに使える。
蓑は、使い手がたくさんあると思うし現在の彼らのレベルでも作れそうだったので、
女衆に3つサンプルを渡して、作れるかきいてみた。
あとは鍋とか生活に使えそうなのをつぎつぎ作り出す。
ただし意図的に作らない道具もある。
作ったモノをちょっと発想を変えれば、考え付きそうそうなモノは敢えて作らないようにした。
そうやって農業と生活を楽にさせる道具をどんどん生み出し……
それらをご褒美にさらに村人たちの人員が余っていくようになり……
生活の余裕と、徐々に新しいものを使っていくことで脳の柔軟性を持たせたところで、
オレがあたらしいやり方や、あった方が楽になる道具などを考えさせる。
で、そういった村人たちが、オレが意図的に作らなかった道具を自分たちで考えていった。
そこでオレがすかさず褒め…… 褒美を渡し……
彼らの技術では作れないものは、彼らの指定どおりにオレが『錬成』で作る。
事実、書にない道具も考えだしたりしたし大成功だ。
オレのいろいろ知ってるが故に固定化された考えではなく、
村人たちの知らないが故に自由な発想を当てにしたわけだな。
それが有効だった場合さらに追加で、ご褒美を渡し、どんどん皆の開発意欲を湧きださせる。
有効でなかった場合でも、なぜ有効でなかったかをオレと一緒に考えてもらう。
さらにみんなで話し合うように、大勢で考えた場合は褒美を追加する。
結果、だれもが新しいモノを考え話しあい、アイデアを出し始めるようになった。
……
そうしているうちに、彼らは、驚くべきことに樹皮をつかった糸や、布を開発してしまった。
うん凄い。……樹皮で服って……そんなの聞いたことねえぞ?!
農地拡大時に入手した樹皮をなんとかしようとしたらしい。
オレが口を酸っぱく、事ある毎に樹木の命のこととかを言ったためのようだ。
また、コショウに近い物、砂糖に近い物など、食生活にも改善がみられるようになった。
さらにオレが使わせてたビニール袋やオレの≪テント≫にあるものなどをヒントに
新しい麻袋や、木綿のようなものも開発できてしまった。
作った樹皮の布とその木綿を使ってオレの服をヒントに、自分たちの貫頭衣を改めはじめた。
すぐに彼らはオレのに見た目近い服を作りだし――リーアとリムちゃんに献上。
全体的に色は、緑かった青っぽい色で染められている。
オレの服を真似たので、西洋服で、スカートとかじゃなくてズボンになってるが。
ただし、下着はまだない。一枚服のみだ。
その後、自分たち用にも作りはじめた。
が、なぜか自分たちの服には、リーアたちに使った青色の染料が一切使われていない。
「青色は貴方の色って考えているみたいよ? 貴方の服も≪テント≫も青いから。
みんなが言うには、同じ色を使うわけにはいかないってさ」
……
うん。早い。
…………早い、早すぎるよ……進化のスピード。
いくらテコ入れしたとしても、おおよそ50日でたぶん1000年分くらいは一気に進んだ。
今だ、竪穴住居なのが信じられんくらい。
まあ、住居に関してはオレがあえて、意識をそらせてそうしているところもあるが。
リーアには考えを漏らした。
「どうして? 貴方がいた世界では、お家の部屋がいっぱいあってキレイなんでしょ?
そうすれば病気になる人が減るって……
村にも伝えればいいじゃない? 貴方も、いつまでも≪テント≫はまずいんでしょ?」
「ああ、ちょっとな……住宅は治水がうまくいったらにしたいのと……
あと、村人の価値観っていうか……掟を根こそぎ変えたいのもあってな……
できれば冬になる前になんとかしたいが――あーまだ無理かなあ?
まあ夏までにはなんとか…… 子供用を優先して――」
「そう。でもみんなにも早く今の砂だらけの生活をやめさせたいわね。
わたしとリムだけ、キレイな生活をするのはちょっと心苦しいわ…………」
「ああ。すまん。もうしばらく我慢してくれ。あと皆にはまだ内緒に頼む」
……建物以外は農業・生活道具・衣服。間違いなく鎌倉時代? 庶民生活のレベル。
武器などは、まあ銃器がないし、特に狩りには必要なかったのであまり変わりようがないが。
皆が考え生活が楽になり、余裕を持った人の便利にしたいとの思いがさらにいい考えを生み出す
そうしてさらに生活が楽になっていく、好循環。
今まで多人数でやってたことは、より少人数で、より効率よく、
そして、より効果が高い方法に取って代われ……
余った人員は、新たに自分たちで考えられた仕事や、オレが指示する仕事に回していく……
………………
…………
時間を少し戻し……年貢が一段落ついたころだ。
農地改革で新たに開発している土地から、大量の粘土層が発見された。
これをうけて、オレは『錬成』だよりの現在の方法から、
ようやく村人ができる鉄鋼業にするため、溶鉱炉つくりを開始した。
そのために必要なのは、熱を生み出すものだ。
当初は石炭があればいいなあって思っていたが、どうやっても周辺からは見つからない。
村人に聞いても、不思議そうな顔をするだけだ。
二次案として木材は山のようにあることだし、木炭をつくることにした。
作り方は簡単。生木を密封状態で加熱するだけだ。
とりあえず木炭がちゃんとできるかテスト。
粘土を窯状にして小さい煙突もつくる。一気に『火炎』の術で高温で内も外もさらす。
あっさり陶器のような白い窯ができあがる。
その中に生木を入れて窯を閉じる。また『火炎』術でしばらく窯ごと炎で包むわけだ。
しばらくしたら煙突に蓋をして、長時間、『火炎』術をかけ続ける。
……たしか、そんなんでOK。
しかし、ホントにオレの霊術性能あがってる……前はライター程度の火しか灯らなかったのに。
今じゃ、大型の火炎放射機だ。温度も1000度越えしているだろうな……
どうなってるんだオレは?
…………
ところが……自分の72年の天界生活と培った感性、霊気の探知感覚をあなどってた。
釜に『火炎』術を放ってすぐだ。
釜の中の生木の霊気が一気に減っていく。生木内の大地の精霊が悲痛な悲鳴をあげた。
すごく霊気がもったいなく感じたし、精霊の悲痛の声に耐えられなかった。
木を切り倒してたときは木の命は奪ったが、植物の特性として霊気の減りは少ないのだ。
すぐに術を解除。
事前の説明とは違う、オレの行動にリーアは怪訝……そのあと慌てた。
「あ、主様!? お顔の色が……青く…… どうか、どうかされたのですかっ?」
どうやら顔色にはっきり出ていたらしい。
「だ、だいじょうぶ、大丈夫だリーア。精霊の悲鳴がきつかっただけだ……」
だが、村人は大慌てになり……賢者様が倒れたっ! とか、もうだめだっ! と大騒ぎになる。
リーアに皆を落ち着かせるようにして、宣言。
「みなすまない。少々疲れただけだ。
――だが、事前に説明した、木炭をつくるのはとりあえず取りやめだ。
またこの木炭の製造――特に生木を密閉状態で熱して炭にする方法は……
賢者ライブラの名において原則禁止する。
焚火、暖炉などは、自然乾燥した木のみ利用可能とする」
…………まいった。
これでは溶鉱炉が作れない。
数日間、考えた考えまくった。 まずは高熱、約1200度以上の熱が欲しい。
まったく方法が思いつかなかった。
書籍をひっくり返すように探したがない。
オレのコレクションの本にないだけなのか……あるいは技術的に存在しないのか……
それはわからなかったが、やむ得ず、術書を頼ることにする。
いや、術に頼ってばっかか?
……まあいいや。
要は高温の炎があればいい。ただし『火炎』術ではオレがいないとどうしようもない。
術の最善は常時存在する高温の炎だ。温度固定で変化がないとなお良い。
ただし霊気を外に漏らしてはいけない。
…………まあ、霊気漏らさなきゃいいさ。うん。たぶん。
中級炎術の書に、術者が発動さえすれば、そこにある霊気が切れるまで存在する炎術――
『常炎』術があった。術の威力は供給霊気量に準拠し、発動時は少なくても構わないみたい。
一応発動したあとの炎の制御も可能らしい。
それと、上級地術の書で大地の霊脈を利用して常時霊気を送る法陣が載ってた。
「…………はて? 上級地術の書? そんなの持ってたっけ……?」
いつの間にか≪ポケット≫にそんな書があった。
不思議に思いつつも書を観察してみると、書の天――中の紙が重なる上。
そこに赤くスタンプされた"持ち出し禁止"の文字…………
やばいかも……
これ……もしかして館長室にあった本?
慌てて、≪ポケット≫の中の書のタイトルを検索……
上級書、タイトルを見るからにやばい本、タイトルが文字化けした感じの本などがいっぱいだ。
まぁ、あの状況ならオレのしたことは褒められても怒られることはないだろうが……
おそらく本来は、死人が読んでいい本じゃねえわコレ。
まあもっとも読んだからって、ふつう、死人の霊力で扱える術なんてほとんどねえだろうし。
天界にいる限り使う機会もないだろうけどさ………………
……考えたけど、まあ使うことにする。
木材――霊気を無駄に消費して熱を生み出して加熱する方法より、ずっと環境的にも霊気的にも優しいし。
霊脈を利用って言ったって……霊脈の力の全体量からすれば、ごくわずかだ。
木材を伐採した場合の森林影響から考えれば――霊気の消費量は微々たるものと言える。
もっとも精鉄の都合上、木炭――炭素たる木材――加熱以外での消費は避けられないが。
すくなくても火をおこす――単純な鉄の加熱段階では木材をなるべく消費しないようにしたい。
その上で霊力を無駄にしない木炭の生成方法を考える必要があった。
おおよそ、その後、2カ月弱?……50日……
頑張って夜中に上級法陣地術とか魔導具精製の術書で勉強していた。
…………
そうして勉強と練習と実験、思考を重ね――冬が近づいたある時――――
村はずれの空き地に高さも直径も50メートル級のバカでかい炉を作る。
オレ式 『術式溶鉱炉』 …… 製鉄溶鉱炉 兼 反射炉だ。
炉に素材が流れ、そして返せるような穴と、炉に素材がくべれるような径1メートルの穴を
窯周囲8方に作り出す。それと人がようやく通れるくらいの頑丈な扉の入口があいている。
炉の壁はぶ厚い。
『探知無効』の法陣術……内部の霊気を外に漏らさないように法陣が刻まれている。
『静寂』の法陣術……物体は出入りできるが、炎や空気の熱は炉の外には一切漏れない。
『防御』の法陣術……内部と外部に刻む。いわいる固定化だ。
これらの陣を刻みまくる。それら法陣には地脈の霊気を利用する。
地脈からの霊気の60%以上はそちらに回し、残りを『常炎』に使う。
炉の内部、その中心から地下500メートルの地点まで、オレが通れるくらいの穴を掘り、
地下室を作る。外壁と床は地圧などに対処するため、非常識なほど厚くした。
周囲の壁と地面。遠く地上が見える天井に複雑きまわりない法陣を刻む。
陣が消えないように深く掘り、炎であぶって固定させる。
万が一のことを考え……遠隔から陣が消滅できるように別の法陣も刻んでいく。
……『地脈操作』の法陣は少しでも崩れるとまったく発動しなくなるんだ。
コレは遠隔地で制御用の石……『破石』を破壊すると部屋そのものが崩れおちる仕組みだ。
『破石』は初級魔導具術の初歩で作れる道具だ。天界にいたときから唯一自作できた魔導具。
昼夜3日かけてすべての陣を刻む。そして陣を発動。地上に向けて強い霊気が立ち昇る。
すぐさま地上にもどり、炉内から出て、炉の内部に『常炎』術を発動。
炉内にでっかい火玉ができあがる。
中心はおそらく1500度近いだろうが、外には一切熱を漏らさない。
製鉄等をする穴近くは1250度になっている。変更したい場合、調節はすぐできるが。
後の熱利用も考えて内部熱は遠方に伸ばした煙突とその周囲に漏れるようにしてあるが。
一応、その煙突――排気筒の周囲は立ち入り禁止にしてある。 超危険だから。
ついでに熱風を利用した発電設備を作る。――まだ使い道はないが。なんとなく。
漏れる熱風がもったいなく感じてつい作っちまった。ギアを外して作動はさせていない。
うん。成功だ。一応霊脈を使わない状態で『火炎』術でも試したが問題なさそう。
さらに木炭の生成方法も思いついた。
さまざまな実験の結果、生木から大地の精霊を引き抜くとかなり上質な木炭――黒炭らしきものを造り出せることがわかったのだ。
オレ的に問題にしているのは木材の単純な消費ではなく霊気の無駄使いなので、それがわかれば、後は単純。生木から精霊を農地のある場所に移す方陣を刻むだけだ。
農地のちょっと近めの場所に黒炭生成のための魔方陣を刻み、その場所をレンガ(後述)で囲みレンガを重ねて屋根を作る。一見、炉に見えなくもないのでこの施設を『術式炭化炉』と呼ぶことにした。
炭化炉は内部に生木を置くだけでおおよそ24時間後には黒炭に変わるという便利なモノとなる。
これの利点は人がいらないことと、生木から農作物へ精霊を移動することで精霊の無駄をなくしたことにある。農作物の生命力も上がるし、オレ的にも精霊の悲鳴を聞かなくて済むので万々歳だ。
とはいえ、木々の伐採はなるべく控えたいので製鉄以外での利用は原則禁じることにしたし、
できるかぎり、枯れ枝などの生木を使わないように指示して置いたが。
こうして作られた黒炭を製鉄溶鉱炉に砂鉄と一緒にくべて精銑。
炉から出てくるときはかなり品質のいい鉄ができあがった。
もう一度炉にくべてみると鉄鋼レベルまでに高まった。
すげえエコな、鉄鋼技術になった。
木材、霊気消費がかなり少ない。農業にも役立つ。
作業する人がそんなに暑くない――素材からの熱は別。
そして――外、農地以外には霊気が漏れていない。
――――完璧だ。
今はとりあえずこれでいい。
もう少し余裕ができたら術をあまり使わない鉄鋼技術を考えることにしよう。
漏れが少ないとはいえ霊気を扱ってるから天界人に見つかる可能性もないわけではないしな。
うん。とりあえず、とりあえず……
溶鉱炉はできた。あとは暖炉や焚火をどうするか……だな。
狩りが苦手だが器用で力がある男を優先に、希望者を数人、鍛冶業にする。
農地改革も、この頃はほとんど終わっていたので人員が余りはじめたのだ。
望みの形に作れるとあって、今までオレの『錬成』だよりの鉄器、
レンガもここで作られ、試行錯誤がまた繰り返されるのだろう……
新しい仕事に張り切った、新たな鍛冶見習いたちを見て、そう感じた。