第7話 改革第一歩
集会が終わって――
なにをしたらいいんだーって詰めかける村人に午後に指示をするって言って解散させた。
さて、思いっきり村人たちの前で大見えを切った以上、
すぐさま次の手を打たないとな。
オレの統治に疑いを持たせないよう、まずは村人たちの利益となることを始めよう。
まず現状の確認だ。村を周り、リーアに聞きながらメモをとる。リムちゃんもついてくる。
●家
・弥生式だ。村人の中には洞窟みたいのに住んでる者もいる……
●道具
・石器。または木製。
●畜産
・いっさいなし。狩りのパートナーになりうる犬すらいねえ。
●農業 稲作・トウモロコシ・小麦
・湿田だ。湖の水をそのまま引いてせき止め、常にどろの中で稲作をしている。
・土壌改善などまったく考慮に入れていない。
・すべて人力。
・農具はすべて木製。
・各田んぼの大きさ、形はまちまち。全然統一されていない。
……だめだめすぎるな。
まずは早急に改善すべき農業、土壌はそのまま使ってるみたい。
これでよく土がだめにならんな……って思ってたら、
案の定、リーアからは年々わずかながら収穫高が落ちてるらしい……とのこと。
ふむ。収穫後だからまずは土づくりをしないと……
その前に湿田はまずい。田植えのときはともかく……常にどろ沼で稲作なんてだめすぎ。多分。
だが……全部の農地をすぐ乾田には変えられんな……
オレの知識をつかっても経験がないんだ。まず農地を倍くらい広げて……
あたらしい農地を乾田に、今の農地を実験的に3分の1くらいを乾田にしてみるか。
うむ。なにより経験がないのが痛い。書の知識だけだ。
万が一のこと考えて、今の農地、3分の2は来年も今のままで継続させるか。
……農具を改善すれば、余裕はあるだろう。
乾田にするにあたって……土壌改善か、
確か……少し石灰とか堆肥とかだったよな……で水はけがよく、柔らかな土。
家畜がいればフンが堆肥になれるのだが……いねえし。獣のフンでも集めさせるか……
人糞とかは今は適当。その辺の草むらでしてる。……草むらに入るのこええよ。
……思い出したくもねえ……誰もケツ拭きしてねえ……オレは『浄火』があるけどよ。
石灰は……貝殻とか…あるのか? ここに? ああ、骨もそうだったな。
うーーん。書の知識があるとはいえ、専門的なモノでもないから失敗も盛り込んでおかないとな。
完全に覚えているわけでもない。司書してた時、乱読はしたけど流し読みだったし、
今持ってる書にしても落丁本だけもらったのだから、とびとびの知識でしかないであろうから。
適当しすぎて、下手に今の状態を変えすぎて大失敗したら村から追い出されるかもしれないし。
あ、だけど木製の農具。
これはすぐにでも鉄製に切りかえるのはした方がいいだろうな。鉄製だからダメってのはないだろうから。
たしか≪ポケット≫の道具箱に磁石があったハズ。
川や湖で砂鉄を採取できんかな? いや違ったか。たしか砂浜?
川辺でもとれたような……あ、もっと下流か。
うーーん。ここらでも多分とれんこともないだろ。土に交じってるだろうから。
まあ磁石でくっついたのを集めてもらえば多少は……
あと山砂鉄、鉄鉱石か……コレはすぐには無理だな。ここは広大な森の中。
西と南に山があるらしいが……離れすぎだ。
砂鉄か鉄鉱石さえあれば、たたら吹きとかやんなくてもオレの『錬成』で、すぐ鉄器が作れる。
たたら吹きの製鉄方法はおいおい考えればよい。てことは石炭も? いや木炭でよかったけ?
ま、それよか砂鉄がなきゃ意味ない……少しづつ集めていくしかない……か。
まったく『探知』術で地面の中も探知できればいいのに。
オレの『探知』術は風術だから空気のないの箇所は無理だし、そもそも書に特化しすぎてる。
なんとか別の探知術……地術でも漁ってみるか……
だが……最初に村人たちに指示すべき事はなんだ?
現在収穫が終わった村人は冬に備えて狩りや木の実採取に精を出してるらしい。
しばらくしたら、年貢を納めるために村人総出で作業するとか。
それは止められん。年貢は当然。他も少なくても冬食料の提示なしには。
コピーで増やしてもいいが……あまりあてにされ過ぎると働かなくなりそうだ。
飴と鞭だ。まずは従えば飴が貰えると思わせること。
とりあえずは……しばらくは、盲従してくれると助かる。
まずは彼らの効率をあげて……他の作業ができる余裕を持たせるか……
あと同時に将来の布石と、家を造るのに必要な木材も……ちゃんとした板とか、ほしいな。
効率あげる……とりあえず、狩りか……
弓と槍らしい。どちらも矢じり、刃に石。見たが、あれでよく戦えるなって思うくらい原始的。
弥生じゃなく、原始時代じゃねえ? って思ったくらいだ。
大きな熊などには十人くらいじゃないと無理らしい。
死傷率を下げ、森の中を動きがはやく回れる軽くて丈夫な防具。
【防具】っていう概念すらねえのはどういうことだ?
今は無防備すぎだ。住民の数を減らすわけにゃいかん。
で、強力でとりまわしやすい武器。く……鉄がねえよ。
石を『錬成』で……うーーん、尖りを鋭くしたりである程度はいけそうだが……
できれば効率倍化、これでは決定打には程遠い。
くそっ……なにか方法はないか……すぐにできそうなのを……
弓……強い弓にするには……今はただの植物の蔓紐……これゴムみたいなのに……
槍……軽く鋭くさせるには……材質と形状……
「……ちっ」
現状、使っている木の弓と木の槍を前につい、舌打ち。
ビクゥってなったひげ面の村の男に 「ああ、すまん。ちょい改良案を考えていてな」と手を振る。
いかんいかん。恐怖政治はまずい。喜んで従ってくれんと。
…………なにか便利なのないかなぁ……
活用しすぎはマズイが――≪ポケット≫の一覧を漁る。
≪ポケット≫は表面に一行表示する部分と上下スクロール。
種別切替用の5つボタンのみついている。表示されているのが次に取り出せるものだ。
オレが設定してある種別は「魔導具」「道具」「食材」「本」「その他」になってる。
最近取り出したもの、最近入れたモノがリストの上位に自動配置される。
そのためしまったままの物なんかはリストのずーと下の方で取りだししにくいわけだ。
……スクロールを下に下に見てく……
む。道具箱か……なんかはいってっかなぁ……
取り出した道具箱……いや、机のサイド……大小4つ引き出しとコロがついた木の棚だ。
細かいものをまとめて道具箱として放り込んである。
現れた道具箱に興味しんしんのリーアとリムちゃん。
村人も遠目でこっち見てる。
ま、いい。上から引き出しの中を漁る。
…………
糸と針? ……ああ、本の補修用か……無理か使えん。
あ、磁石があった。4つあるな……いちばん強力そうなのを使うか……1個取り出し。
いやまてよ? たくさん種類あったほうがいいかもな? ……4つ全部取りだした。
ホッチキスの針……4箱? なんでこんなに……だめだ。ステンレス鋼製みたいだが少なすぎ。
輪ゴム……2箱……む。……弓の弦、代用……保留だな。
釘 …… 10本くらいしかねえ、少ないな……パス。
あ、釣り糸! 弦はこっちの方がいいかも? 一番太いものを取り出す。長さは100メートル巻?
……なんで釣り糸が?
……あ、司書長に連れられて司書たちみんなと無理やり釣りに行かされたことあったけ。
何十年前のことだったか? …………まあいい。
とりあえず≪ポケット≫の中のオリジナルを使うのは最低限に。
釣り糸はそのまま100個ほどコピー。いろいろ使えそうだ。
ついでに磁石は4種類を全部で400個ほどコピー。
ぬあ?! コピーしたの、ばちんバチンくっつきやがる。磁石が飛び交いあう。あぶねー。
コレ結構扱いに注意だな。たくさんある時は。手があいだにはさまってもくっつきやがる。
ピップエ●キバンより強いのかな?……まあ弱いのより、強い磁石ならそのほうがいいか。
あと輪ゴムもなんかに使えそうな気がするから100箱ほどコピー。
オリジナルはそのまま道具箱へ。≪ポケット≫にしまう……
いや、まて。
コピーしまくれば少なくても問題ねえわ。
コピーしたものに対して『錬成』はできんけど、術を一切使わなけりゃ溶かして道具にできる。
溶かす時に別の自然素材……砂と砂鉄でも入れりゃあ、元がコピーってわからんだろ。
混ぜりゃ『錬成』にもある程度、耐えれる素材になるだろ……たぶん。
ただの砂も混ざるから相当、純度が落ちるだろうが……まあやむえん。
道具箱から大きいホッチキスの針を取り出し、一箱使い潰すことに。
針を手に取りだし……『錬成』。小さいが真中に穴をあけた非常に鋭い刃物……矢じりに変える。
まっすぐ飛びやすいよう正面から見た場合、細く鋭い十字に、凶悪そうな返しも付けて……
……これで中に刺して穴から紐を通して固定させる。
あとはひたすらこれをコピー。リーアに用意してもらった土器に5000個ほど造る。
で、道具箱に――≪ポケット≫に残りを、『錬成』したオリジナルの刃は戻す。
……いや、あんまり≪コピーリング≫多用しすぎじゃね?
…………ええい。当分だけだ。まず、すぐにでも鉄を採取しないと。
糸は……なんか代用品考えるか……
弓は弦と矢じりに関してはよし。
弓はとりあえずオッケー。竹があるとなお良かったが……この森にないかな?
槍は……む、造ったオリジナルの矢じりは小さすぎるな。
……≪ポケット≫漁るか……
あ、「その他」に空き缶が沢山たまっとる。
取り出してみるか――
…………よう溜めたもんだなオレ。何年分だろ? いや十年分?
滅多に缶の飲み物なんざ呑まねえのに……
アルミ缶27本、スチール缶45本
分別しながなら数えた。
ふむ。ま、コレは槍の材料にでもするか……
≪ポケット≫内のものの消費は抑えたい。が――まぁ所詮、缶だ。使えるとこに使うか。
それにどうも≪ポケット≫の中いっぱいになりかけてる……
館長室と地下室で確保した本が圧迫してるっぽい。
整理するためにもゴミは……あ、いや材料だ。この世界ではゴミじゃねえ。
あーまあいい。あとで原料なんざ集めるか。
とりあえず『錬成』で缶を潰してまとめる。
数分後、カラフルなアルミボールとスチールボールができあがった。
――――とりあえず槍を作ってみた。色は場所や装飾ごとに統一させて。
堅そうな木を細くして軸に、周りをスチールで包み込む。ただし今までの槍より細く。
柄に当たる分は麻紐で滑り止め。先端はできうる限り鋭く、反った大剣をイメージ。
つーか、青龍偃月刀? そんな感じ。 まあそう呼ぶか。
刃の部分はより頑丈にスチールのみでつくった。石突きは鋭くはないが尖らせる。
ついでに全体的にそれっぽくアルミで装飾。長さは4メートルほど。
さらにスチールで短剣……いや匕首かな……を二つ作った。30センチくらい。
護身用としてめっちゃくちゃ鋭くした。リーアとリムちゃん用の護身刀だ。
柄と鞘を『錬成』した木でアルミ装飾を適当に作って鞘の中には刃を守る獣皮。
鞘のすっぽ抜け防止に、アルミを使って鞘の口を強く抑えないと剣が抜けないように仕組む。
渾身の霊気を込めて作った。 持ち運びしやすいように紐付け用の穴もある。
これでよし。
残った素材は≪ポケット≫にしまった。
槍一本しかできてねえな……缶からの素材なんざ少なすぎ。
しゃあない、適当な石……この白い石でいいか……
ひたすら『錬成』で、その辺の堅そうな石を穴あき刃物に変えていく、なるべく鋭くなるように。
とりあえず300個くらいできた。うん、村人が使ってるモンより細く鋭いやつだ。
構成的にさらに頑丈になるよう全体に圧力をかける。めちゃ堅くなった。
鋭く小さいけどその分重くなっちまったな。まあ使いやすい形だから問題ないか。
…………ぶっちゃけ鉄要らなくね? 鉄よりは軽いし。
いやだけど、硬度も堅いと言っても、いくらなんでも鉄よりは落ちるハズ。
それにオレしか加工できないのは問題だしな……
コレは、"強石刃"と名付けよう。
生活に使いやすくするためこれ用の木の柄も作るか。
………200個くらい出来た。強石刃にくくりつける。"強石の短刀"となった。
ま、こんなとこかな?
? おや? いつの間にか村人がまわりに大勢集まってるぞ?
目立ちすぎたか……
やべえ。ああああ、夢中になりすぎた。6時間くらい夢中になってたかも。
もう午後……つうか夕方……ではないが、あと少しで日が落ちそう。
今のところ造ったのは……
・釣り糸 100メートル 100個
・4種類強力磁石 400個
・輪ゴム 100箱
・ステンレス矢尻 5000個
・青龍偃月刀 1刀
・護身刀 2刀
・強石刃のみ 100個
・強石の短刀 200刀
ひたすら『錬成』、あとコピーだけで作ったにしては結構、数ができあがったな。
うんまあ、時間ねえし、しゃあない。作りはここまで。 防具はあとだ。
集まった村人に声をかける。
「みなすまない。いろいろ造ってたら少々時間がたってしまったようだ。
明日から、皆にはいろいろ集めてもらいたいものや、やってもらいたいことなんかがある。
狩りや木の実採取の途中だったり、子供たちの遊びながらでもかまわん。
まずは、探してほしいもの……森の中でミミズがいるあたりの柔らかくて黒い土と獣のフンだ。
――うむ。まあ戸惑いはわかる。――がコレは重要なものなんだ。たくさん集めてほしい。
それらとは別に獣や魚の骨も集めてくれ。貝殻があったらそれも頼む。
そして村や森の土から――この赤と青の変わった石を使って"砂鉄"というものを集めてほしい。
コレは特に子供たちに任せたい。詳しいことは後で話そう。
だが、コレは正直、あまり集まらないかもしれん。
すまないがその場合はまた違う事を頼もう。
だが皆は、狩りやご飯作りで忙しいかもしれん。
そこでオレは優秀な道具をここに用意した!」
といって、村人たちにもわかりやすい強石の短刀を見せる。
ざわめく村人。うん結構驚いてるね。何人かは、「ほぉーー!」って頷いている。
まあ今まで使ってたのよりずっと使いやすそうなのは見りゃわかりそうだし。
「うむ。だが今まで使ってたのより頑丈で鋭く切れやすいものだ。
だから少々取り扱いが危険なのだ。
したがってこれは成人の儀を済んだもの――いや10歳以上の者のみに一人ひとつづつ渡そう」
「「おおおお!!」」 「えー」
リムちゃんがっくり。――君にはあとでもっといいものあげるよ。
オレから直接、一人ひとりに強石の短刀を手渡した。
受け取った村人たちは感激して、オレに頭を下げる。宝物にするって皆言ってる。
――これって【個人財産】という概念が生まれた? ……ま、いいや。
子供たちはうらやましそうだ。だがまあ、危険だからこれはしゃあない。
……くっくくっ。直接渡すことでさらに、親しみさと支持率アップさ!
あと妊娠中の娘には「頑張って元気な子を生んでくれ」って優しく声をかける――大感涙された。
「――うん。余ったのは10本か……みんなに行きわたったな?
これだけでも狩りやご飯つくるのに役立つだろうが、
この強石刃も今の槍の先端と取り替えて使って見てくれ
ああ、タスケ。皆に公平になるように分けるように。独り占めはいかんぞ?」
ふーむ……10歳以上は190人ね。352人中190人が大人。子供は162人……
わかってはいたが……子供の数が多いな……
男衆のリーダー格のドワーフみたいなタスケという男に、土器ごとまとめて100個を手渡す。
息をのむ、男衆。
だが、プレゼント――最初の飴はここまで。他の物は後だ。褒美とかに使う。
数の多い子供には、あとでなんか美味いもんでも用意するか。
「――うん。よろしい。
先ほど言った土とフン、骨、貝殻、そして砂鉄。集めてほしい。
集める状況によってまた、みんなに頼むことが出てくるだろう。
もうしわけないが、状況によっては、急に指示を変えることがあるかもしれん。よろしく頼む。
そして……皆よりたくさん集めた者。なにか発見した者。いいことを思いついた者……
そういった頑張った者には、オレから今渡したものより、さらに凄いものをあげよう。
これは子供たちも女衆もみんな同じだ。 もちろん子供たち用のご褒美も用意しよう」
「「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉおぉおぅぅぉおおおおおお!!!!」」」」
「賢者様ぁあああ!!」 「ばんざーーい」 「きゃあああああぁぁっぁ」
「「やったーーー!」」「らいぶらさまぁああ」
大歓声。
よっしゃ。よっしゃ。
――――
だが、それにしても…………むう。霊力よく持つなオレ?
今日だけでもコピーやら『錬成』やらどれだけしたのやら…………
それに食事からの霊力回復量もめちゃ多いし。
うーーん。回復はアレだ。命を奪ってあまり間を置かず新鮮なままの飯だからかな?