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読めない君が笑う時  作者: ゆー
終章 もう一度出会い、紡いでいく二人
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第49話 兄心、男心、恋心

今日は待ちに待ったパジャマパーティー♡


はわわ、初めてのことだから胸がドキドキし過ぎて沸騰しそうだよう〜(>◯<)。

実はね?この日の為に色々準備して待ってたんだ〜(*^^*)


まずはフワフワモコモコ…要素皆無の無地の黒ジャージ♡

ワゴンで激安価格で一式叩き売りされていたから、迷わず購入しちゃったよねっ☆(ゝω・)v


仲良し皆でお喋りするならやっぱりお菓子は外せないよね?という訳ではいこれ♡カ・ツ・丼♡

ジューシーなお肉の油が口の滑りをうんと良くしてくれて思わず話が弾むこと間違い無し☆付け合わせに汁物を付けると尚良いかも♡


でもでも、やっぱりとっかかりが欲しい時って…あるよね〜☆

そんなアナタにはこの映画!『死霊のみぞおち』!血みどろぐちゃぐちゃのハッピーな映像が二人の距離をうーんと縮めてくれるんだから♡


あ、こ〜らっ!えっちなのは駄目だよ!


さあ、皆も大切なお友達と共にレッツパジゃま゙っ゙…













「鳩尾はあかんやろ……あんさん、鳩尾はあかんやろ………」

「ウザさが限界点を超えた」


葵が風峰家にてきゃっきゃうふふな秘密の花園を繰り広げているであろう一方、俺達炎と土の何とも汗臭い男子共といえば、隼人が出前で届けてくれたカツ丼セットを居間に広げて二人でぎゃっぎゃぐふふしていた訳なのだが。いやごめん、俺一人で。


容赦の無い鋭い拳を抉りこむ様に入れてくれた当の本人と言えば、倒れ伏す俺を無視して飯を広げ始めているし。


そして俺を凍てついた目で一瞥し


「冷めるだろうが早く食えよオラ」

「食、いたい、ですけどぉ……っ、腹がっお腹が、……ぽんぽんがぁ」

「食わせてやろうか」

「謹んで遠慮いたしますぅ……」


死に体で机にしがみついて体を起こし、子鹿の様にぷるぷる震えるお腹にお肉を放り込めばあら不思議。あれ程までに痛みを訴えていた俺の真っ赤なHPゲージがみるみるうちに。やっぱりカツ丼は正義。やくそうとかポーションなんかより皆カツ丼懐に入れようぜ。臭そう。


ゴロゴロゴロ。ザーザー。いつの間にやら、外からは大雨どころか雷の音まで加わって大変豪華で贅沢なオーケストラを奏でつつある。そこはかとなく葵が心配でそわそわしてしまうが、これは兄心か、それとも…いや、流石にもういいか。


「ふぅ…全く。お前がうちの店に出前なんて頼むから急な大雨で帰れなくなったじゃねえか」


そんな俺の繊細な心なんて微塵も気にしない土方さんが、苛立たしげに眉を寄せながら行儀悪く箸の先を向けてくる。それに対して俺は、余裕を存分に含んだ満面の笑みで見下しながら告げる。


「はい残ね〜ん。元々おやっさんに出前のついでに隼人借してって話つけてまーす。どっちにしろ帰れませんでしたー」

「……………」











「鳩尾はっ………あかんてっ…………」

「成程。だからおやっさんが急に終わったら上がっていいとか言い出したのか」

「はい……そうでございます……」


しわしわのねずみみたいに弱々しくしょぼくれながら、ちまちまとお肉を口にする。

土方隼人君。現在、町の蕎麦処で住み込みでバイトをしている彼であるが、蕎麦以外なら隼人が作ることもある。そして、これが中々に俺の舌を唸らせてくれるのだ。おかげで、いつしか俺はあの店の常連と化してしまった。

やっぱ蕎麦より肉だよね。前、店でそう言ったらおやっさんの蕎麦切り包丁飛んできた。


俺が不在の間に学園で起きた何て事のない出来事を交わしながら、暫しの間、俺達はカツ丼を堪能する。


「で?」


隼人が何とも面倒くさそうな声色で口を動かしたのは、一足遅れて俺が食事を終えた直後だった。


「で?とは?」

「『わざわざ改まって男二人で相談って何だ』ので?だよ」

「あ〜…。ですかですか」

「(従妹みたいなこと言い出しやがって…)」


何だろう。隼人が胡乱な目でこちらを見ている。

俺は男に熱い視線を向けられて燃え上がれる性癖の持ち主ではないので勘弁願いたいのだが、三発目はそれこそ本当にご勘弁願いたいのでもう余計なことは言わない。穂村くんは失敗から学べる子。


食卓を綺麗に片付けると、俺は改めて隼人と向かい合う。立てた片膝に肘を乗せて男らしく座るその姿は同性の俺から見ても決まっていると思えるくらいに絵になっている。


さぞかし女性が放っておかなかったことであろう。

つまりは経験豊富。


「……あの、さ」

「おう」










「葵が可愛くてさ」

「帰るわ」

「待って待って待って」


瞬間、大雨でずぶ濡れになることも厭わず帰り支度を始めた友の足に縋りつき、力の凄まじいヤンキーパワーに引き摺られたまま、俺は必死に食い止める。

半端な不良程度なら塵となって消し飛ぶであろう眼光を容赦無く飛ばしてくる隼人のお顔は、金髪と相まってまさに静かなる怒りで目覚めた某何とか人、といった感じであった。


「何だ?お前は俺を苛立たせる為に呼んだのか?喧嘩なら買うぞ?やるか?」

「違う違う!ヤンキー思考そろそろ改めよ!?」


アイアンクローで顔面を掴まれながらも、俺は彼を呼んだ本当の理由を告げる。


それ即ち、葵とのこれからについて。


経験云々は冗談として、今、彼から見て、果たして今のぎこちない俺達はどう見えるのか。他人から見た客観的な意見を窺いたかったのだ。そして俺が()()した時、今の関係は一体どうなると思うかも含めて。


この大雨は、本当にあくまで偶然なのだが。…葵がいないというのは、寧ろ都合が良かったのかもしれな…


「何だ。やっと告白するのか」


そして、話しを聞いた隼人が、それはもうあっけらかんとした雰囲気と軽い口調でそう口にする。思わずこちらが呆気にとられてしまうくらいに。

こっちが一体どれだけ深刻に悩んでいるのかも知らないくせに、なんて薄じょ……知らないなら当たり前か……て。


「や、やっと……?」

「やっと」

「やっとって何?」

「ついに。ようやく。今更」


お前…いや、お前らは割と分かりやすいぞ。呆れという感情をありありと乗せて手を広げる隼人。

暫しの間、驚愕で思考を停止してしまった俺であったが、それならそれで、話が早いではないかと思い至り、隼人ににじり寄るとその大きな肩に手を置き真っ正面から見つめ合う。


「近い」

「は、隼人から見て、葵と俺、どう見える…!?」

「どう……って」


…自信が無かった。もしくは怖い、と言ってもいいのかもしれない。葵は俺の事を嫌ってなどいない。その程度俺でも分かる。寧ろ、あの年頃にしては好かれている方だろう。小さな頃はそれこそす、…好きって言ってくれていたし。


けれど、それはどういった感情なのか。従妹としてか、それとも。

どっちだろうともう気持ちは変わらないし、俺がそう考えること自体がだいぶ自惚れた発想に感じられるが、それでも、少しでいいからきっかけが欲しかった。


一歩踏み出せる、きっかけが。


「…………」


隼人の視線が痛い。友達と言えど、気になるあの子が俺をどう思っているかなどと、そんな浮ついた恋愛相談など彼からしてはたまったものではないだろう。けれど、それでも隼人は決して茶化したりしない。それを理解しているからこそ、今、俺は彼に頼っているのだ。


「……お前は」

「うん」

「道端でぶっ倒れていた見ず知らずの不良はわざわざ家に運んで治療までするくせに、何で従妹にはそう逃げ腰になる」

「………」


直球で投げかけられたその言葉に、つい顔を俯けてしまう。


…懐かしい話だ。

あの頃の俺はまだ、面影を求め続けた結果、お節介したくてたまらないお年頃だった。だから、人気の無い路地裏で全身あざだらけで蹲っていた隼人を放っておけなくて、つい手を差し伸べてしまった。

勿論、差し出した手は秒で跳ね除けられたが、俺が無理矢理掴み取った。そこから、俺達の関係は始まった。

まあ、その結果、隼人の仲間だと思われて一時愉快な人達に絡まれる事態になりはしたけれど。

けれど、『恩は返す』と言ってそれらから守ってくれたのもまた、隼人だった。最も、当時の彼は少々加減を知らなかったからそれを食い止める為に何故か殴り合う羽目になったが……ん?いや守ってないな?


「大切だからだよ」


それはともかくとして、隼人の問いかけに対して俺が出す答えは決まっている。


「大切だから、踏み込めなくて…」


俺は葵が好きだ。大切だ。もう目は逸らせない。


故に、分からなくなった。


俺は今、従兄としてちゃんと振る舞えているのだろうか。しっかり笑えているだろうか。…葵は、自分がそんな風に見られていたと知った時、俺をどう思うだろうか。…寧ろ知ったからこそ、俺から距離をとったのではないだろうか。

そんな思考に囚われた時、急に怖くなった。闇の中、足元が音もなく崩れ落ちていく感覚だ。気取られない様に振る舞うことに毎日必死で。


…先日も思ったが、近すぎた距離が何もかもを曖昧にしてしまったのだ。




「そう言えばいい」




…俺は今日、後何回隼人に呆気にとられればいいのだろうか。

面を上げれば、意外にもそこにいつもの顰めっ面は無かった。そこにあったのは、ただ普通に友を心配する一人の。


「全部、ありのまま伝えればいい。俺にした様に、自分のやりたい様に」


「俺には水無月が今更その程度で揺らぐ奴には見えん。多分、最近のあの妙なぎこちなさはそういうことじゃないだろう」

「………」

「そして、俺がよく知るお前は一度嫌われた程度で諦める程殊勝な奴じゃない」

「ひどいな」

「経験談だからな」


「無事フラレたら、お祝いにカツ丼奢ってやるよ」

「ひどいなぁ」


…そうか。軽く放たれる言葉は、俺を信じてくれているが故。少なくとも、何があろうが自分のスタンスは変わることはないと、それを教えてくれているのか。


お前のしつこさはとっくに知っている。だから安心して砕けてこいと。


………。


「隼人」

「何だ」

「隼人が友達で良かったよ」

「そうか」

「そう」

「……………………俺もまぁ…………悪くは、ない」

「お、デレた?」

「ふん!」

「三回目!!!!!」






うん。






ありがとう。口が悪くてすぐ手が出る得難い親友のおかげで、気持ちは定まった。


葵………俺は。

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