リアル婚約破棄
「山田君、紹介するよ。俺の婚約者、キャサリンだ」
「よろしくデース」
・・・え、ここは、外国人パブで、私は、会社の先輩が、俺に婚約者を紹介すると言うことできたのだよな。
そう言えば、某有名アニメ制作会社のプロデューサーが、某国の女性は素晴らしいと本まで、出版したけど、内容は、パパ活で欺されている親父そのものじゃないか?と酷評された事件と、同じでは?
俺は山田、会社で人事・会計グループに所属している。
話は、数ヶ月前に遡る。
☆会社、人事・会計グループ
小さな支社で、人事と会計を兼ねている。
ある日、営業課の吉沢さんが、相談にやって来た。
『近々、結婚するので、手続きを教えて欲しい』
『良いですよ。まずは、この添付書類一覧表を差し上げます。戸籍事項証明書と、新居を用意するのでしたら、住民票の写しと、新しいアパートの契約書のコピーをお願いします。住居手当がでます・・』
・・・
『彼女、働いているけど、扶養に入る場合のメリットを教えて欲しい』
『扶養に入ると、税控除を受けられ、健康保険にも加入できます。後、年金は三号に入る事ができます。奥さんの納付金は0です。そして、我が社の扶養手当は、1万2千円支給されます・・』
『う~ん。どうすっかな。彼女、稼ぎ頭だからな』
『働いているのなら、結婚して、後で退職しても、加入することも出来ますよ』
『彼女、外国人なんだ』
『外国人でも適用されますが、婚姻届は、市役所の方に聞いて下さい』
と良くある相談。
ある日、会社が終わったら、世話になったお礼に、ごちそうしたい。
そこで、彼女と顔合わせをしてもらいたい。
彼女には親友もいるからいい娘を紹介できるかもということで食事に誘われた。
すると、
「え、ここは、外国人パブですよね」
「そうだよ。偏見をもってはいけないよ」
と店の中に入ったが、
(おい、完全に客として入っているじゃないか?)
状態だ。
話を聞くと。
「え、と、デートはどこでされているのですか?」
「店だよ。キャサリンが忙しいからね」
「はい、あの、キャサリンさんと結婚するのですよね」
「キャサリン、結婚しマース」
「え、と、明らかに、本名じゃないですよね。東南アジアの方ですか?吉沢さん。本名を知っているのですか?」
「おい、おい、店の中で、何と言うことを聞くんだ!」
「キャサリンデース」
あ、やられたかな。
「おう、食べろ。食べろ。夕飯まだだったよな」
「飲め。飲め。え、車で来ている?大丈夫だ。俺が運転代行のお金を払うから、飲め」
「じゃあ、一杯だけ」
とそこまで言うのならと、一杯だけビールを飲んだ。酒は想定外だった。
時間を無駄にしたな。
会計は1万8000円、うわ。高いのか安いのか基準が分からない。
「俺の誘いだから、おごるよ。気に入ったら来てくれよな」
「はあ、分かりました」
いや、来ないし。
と思って、2人で店を出た。
運転代行を頼もうとしたが、週末、中々捕まらない。
「山田君、やっぱり、割り勘にしない?」
「・・・・・しません」
少し、状況を考えながら返事をしてしまった。
吉沢さんは、店で後輩におごるというシーンをキャストに見せて、良い気持ちになったんだよな。
だから、断るべきだ。
「え、君は料理を半分以上、食べたよね。酒は俺の方が飲んだけど、飲み物は飲み放題だから、料金は変わらないよ」
うわ。本気で言っているのか?
一気に、興が、冷めた。
「キャサリンの手作り料理だよ。君は美味しいと言ったよね」
料理にビーフシチューが出て来たが・・・手作りかよ。
そりゃ、「美味いか?」と聞かれれば、よっぽど不味くなければ、「美味しいです」と答えるよ。
「そんなんじゃ、君、モテないよ」
「はあ、考えさせて下さい」
と一端、持ち帰りにしてもらった。
この分なら、運転代行の料金は払わないよな。
「あの、運転代行のお金は払ってくれるのですよね」
「割り勘の料金と相殺だよ」
うわ。やられた。
しかし、週末、運転代行が捕まらないので、家族に連絡した。
俺は、義母とその連れ子だった義姉と暮らしているのだ。
2人は来てくれるか。お、電話はつながった。
事情を話し、2人に来てもらうことになった。
しかし、まだ、吉沢さんはいる。
何故、いるのだろうか?と聞いたら。
「ついでに、送ってくれ」
「家はどこですか?」
「ああ、〇〇だ」
「うわ。俺の家と反対方向で、往復50キロ以上余計にかかります。嫌ですよ」
「ついでだからさ」
「タクシーを頼んで下さい!」
と険悪になって数十分、話していると、2人は来た。
「勝。この方は?」
「会社の先輩の吉沢さんで、外国人パブに誘われて・・・・」
と正直に話す。
家族は、俺が普段、進んで酒を飲まないことを知っている。
やっぱり、結論は、
「吉沢さん。タクシーを使って下さい」
「ええ、それがいいわね。私らの運転は下手ですから、悪酔いしますよ」
吉沢さんは信じられない顔をしているが、
俺は、
「キャサリンさんの家に泊まればどうですか?婚約者ですよね」
と言ってしまった。
「まだ、婚約だ。それに、キャサリンはお母さんと住んでいるから、部屋に行った事はない」
「「えっ」」
義母と義姉はハモった。
いろいろ状況を察し。
一気に、俺の会社の先輩から、厄介さんに扱いが変わった。
「これ以上話しても、駐車場代金の無駄だから、行くわよ。勝、乗って。私が勝の車、運転する。母さんは、家の車を運転して」
「ええ、それが良さそうね」
「そこを何とか」
と吉沢さんは食い下がる。
義姉は、採れる手段があったら、いきなり、強硬手段を躊躇なくとる性格だ。
やばい。
「警察に連絡しますね」
と本当に、110番してしまった。
スマホの音声をスピーカーにしている。
「はい。〇〇警察署です。事件ですか?事故ですか?」
と警察の声が聞こえる。
110番に連絡すると、地元の警察につながるようになるみたいだ。
「ヒィ」
と叫んで、吉沢さんはダッシュで、逃げ出した・・・
「あ、解決したので、もう、大丈夫です」
☆翌週、会社
「山田君、ちょっと、来なさい」
「はい」
係長に呼ばれた。
営業課の面々もいる。
「吉沢君、休んでいる。君のご家族かな。些細なことで警察を呼ばれたと言っているよ」
俺は正直に話した。
「いや、あいつ、確かに、付き合っている女性がいると言っていたが、飲み屋の女に引っかかったのか?」
「婚約者の件は保留だな」
そして、送る送らないの件は、すぐに、吉沢さんに非があると満場一致で決まった。
何故なら、ここは、田舎。
田舎者は、仕事でも、遊びでも、自分の足を確保出来ない者は、半人前扱いされるのだ。
東京や大都市以外は、多かれ少なかれ、そうなっているよな。
「で、パブの名は?その女性の名は?」
「いや、個人情報かもしれませんからね。言えません」
「・・・そうか。なら、吉沢から、許可をもらうから」
とその場で、携帯で連絡し、問答無用で許可をもらい。
俺は
飲み屋の名前と、源氏名を伝えた。
すると、吉沢さんと同期の営業課の人が、
「〇〇マニラのキャサリンって言ったら、結婚しているぞ!」
と叫ぶ。
「えっ、いや、飲み屋の女性って色恋営業とかするものだけど、まさか、既婚者なのに、結婚の約束まで、しますかね」
「するよ。彼女らにとっては、挨拶みたいなものだ。俺は、昔、遊び人だったから分かる。吉沢は欺されているな。俺、5,6年前に、その店の常連だったよ!
協力企業の人だ。結婚した人も知っている。200万円の結納金を払ったと言っていたぞ?吉沢よりも、おっさんだ!」
「まさか」
「そもそもな。こんな田舎に来る飲み屋の外国人女性は、大体、日本人と結婚して、永住許可を持っているよ。考えれば分かるよな」
「まあ、確かに」
☆その後
以下は聞いた話になる。
この事は、吉沢さんに伝わったが、
「嘘だ!だって、俺が他の女を指名したら、浮気だと、本気で怒って、10万円の時計を贈って、許してもらったよ」
「・・・そうか」
「俺のために手料理を振る舞ってくれる!」
「それって、店の中限定だよな」
そして、キャサリンの旦那、協力企業の人に事情を話し。
ファミレスで、旦那さんと一緒に、吉沢さんと面会した。
そこで、キャサリンは、とんでもない行動を取ったらしい。
他人のフリである。
「わたし、キャサリン違いマース。他人の空似デース」
「「「・・・・・・」」」
「それ、無理があるだろう!」
「・・・婚約はなかったことにする」
とさすがに、吉沢さんは決断したそうだ。
そして、吉沢さんは、今までに貢いだお金を取り戻せないか思案中だそうだ。
里帰りをするときに、お金を包んだりしていたそうだ。
だから、金がなかったんだよな。
・・・・
そして、俺は、
「勝、今日は、ウナギと寿司よ。母さんと私は寿司。勝はウナギ好きよね」
「はい。ごちそうさせて頂きます・・」
地元で有名な食べ放題ではない店に連れて行くことになった。
「お酒も少しもらうわ。勝は、酒飲まないわよね」
「はい・・運転させてもらいます」
しばらくは、義母と義姉に頭が上がらない状態だ。
最後までお読み頂き有難うございました。