第4話 赤城白太の憂鬱
赤城白太は高田馬場にある戸塚警察署のしがない刑事だ。
公務員だから仕事に困らない。あと、子供のころから正義のヒーローに憧れていたというどこにでもよくある理由で警察官を目指し、入ってみたはいいものの、人権がないに等しい奴隷のような扱いをされる現実に心を砕きながらもなんとかサボりながら職にしがみついている。
普通の男だ。
今日もレンガ造りの洋館を改築したシュトロン荘のひまわりの間から出て———錠前のカギで鉄製の扉を閉め、いつも通りに仕事場へ向かっていた。
「おかしいとは思わないの?」
シュトロン荘を出てすぐ女の子に呼び止められた。
気が強そうなツリ目の鎧を着た女の子だった。
———どこか騎士の生まれの子かな? そんな風に思った。
「おかしい? って何? 君、中学生ぐらいに見えるけど、学校は行かなくていいの? 今日は平日だよね? 制服は?」
早朝だと言うのに制服も着ないで、歩き回っている子供に声をそう声をかけるのは長年の警察官としての習慣となっている。
女の子は呆れた様にため息を吐いて、
「本当に、何も違和感を持っていないのね……全く凡人。だけど、あなたこの世界の騎士なんでしょ? それでもその立場はあたしにとって都合がいい」
「この世界の騎士……?」
あれ、警察と騎士の違いって何だっけ? そんなことを思っていると少女はシュトロン荘を指さした。
「いい! ここは元々洋館じゃない! 鉄筋コンクリートのただのアパート! 全然別の建物になっちゃってるの! そんなことすら覚えていないの?」
「はぁ……何を言って……」
『駅から歩いて十分! 家賃六万円の優良物件! ファミーユ早稲田』
そんな広告が急に頭をよぎった。
そうだ。
ここはシュトロン荘じゃない。こんなクラシックな洋館じゃない。東京のコンクリートジャングル、それも高田馬場にこんな建物があるはずがない!
「え……じゃあ、僕の部屋は……二〇二号室はどこに?」
鍵を見つめる。
金色のアンティークな軸は円筒状で、先端に小さく平坦な矩形上の歯がついている。RPGとかゲームとかで見る宝箱を開けるカギの形と同じ形状をしていた。現代日本で使うジグザグののこぎりが片側に着いたような形状のものではない。
「そんなもの———もうない。それなのにあなたはそのことに何の違和感も持っていないで生きている。あたしに力を貸しなさい、赤城白太。
————この世界は書き換えられている」
しがない刑事———赤城白太、24歳。
彼はこうして異世界からの侵略戦争に巻き込まれることになった。