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時界機神 オウカ  作者: 西都 徹也
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第39話 生き残った男

「ハ————ッ⁉」

 目を覚ました。

 天には星。暗い夜空が広がっているが、じわじわと明るさが見える。

「わ……わたしは……?」

 喉を貫かれて、死んだはずだった。

 魔獣化して———その後、〝オウカ〟の光の剣で殺された、はずだった。

 喉元をおさえる。

「生きて……いる……」

 リチャード・レイは、笹塚の公園で目が覚めた。

 時は———動いている。

「目が覚めたか」

 リチャードの目の前にはトゥーリ、ローナ、そして藤吠牙がいた。

「どうして……? 私は死んだはずでは? バリーは⁉」

 周囲を探すが、バリー・シュタインの姿はない。

「バリーはもうこの世界にはいない。異世界に送り返した」

「送り返した……?」

「そして、お前はビフレストの欠片で再生させた」

 藤吠牙が己の胸を叩きながら言う。

「ビフレストの欠片を……?」

 リチャードは周囲の景色を見渡す。

 止まった時の中で破壊されたはずの笹塚の街並み。だが、今はそれはなかったことのように、元通りになっている。

 時間魔法とビフレストの欠片の世界干渉魔法への干渉効果により、現実世界の元の街並みに戻っているのだろう。

 そして———それは、リチャードという人間にも適用されているようだった。

 自らの体を触り、全く傷がないことを確かめる。

「そんな……バカな……止まった時で起きた出来事を全てなかったことにしたと言うのですか……あなたは……死者すら蘇らせることなど……」

「すでに一度やってるんだよ。昼間の学校で……異世界人のあんたを蘇らせられるかはわからなかったけど」

 前回はマックス・ロッドは復活させることはできなかった。

 魔法の術者である藤吠牙が意識していなかったのが原因だと思っていた。あくまで憶測ではあった。だから、本当に泊まった時の中で命を落とした異世界人が復元できるかは賭けだった。

 結果として成功したので、ホッと胸を撫でおろしている。

「……どういうつもりですか? 私はあなたの敵なんですよ。それを蘇らせるなんて」

「今は敵かもしれない。それに敵だからと言って、命を奪う必要なんてない。ただ気持ちをぶつけて分かり合えばいいだけだ。人を殺せば別の誰かが憎しみを抱く。そうなれば無限に争いの連鎖が続く」

「甘いことを……! それが世界です。敵は殺しきらなければ、滅ぼしきらなければあなたが殺されますよ!」

 どこから取り出したか、リチャードは暗器の長針を指の間に挟んでおり、牙の喉元へ突き立てる。

「キバ君!」

「動くな!」

 ローナが何かアクションを起こそうとしたが、牙が手で制する。

 リチャードの針は、牙の喉を貫く前に止まっている。皮一枚貫き、血が一滴針を伝ってリチャードの指を濡らしていた。

「情けをかけるから、こうなるんですよ」

 そういうリチャードの頬にも汗が伝っていた。

「情けをかけられて、何の借りも返さずに殺すのか……? それにバリーはしばらくこの世界には帰ってこれないんだぞ? ビフレストの欠片を使って異世界に送り返している。それなのに、急いで俺を殺すなんて情けないマネを、ヴァランシア王国の幹部のリチャード・レイがやるのか?」

「…………ッ」

 リチャードは———針を引っ込めた。

「リチャード……」

「勘違いされてもらっては困りますが、私はあなたを殺す気をなくしたわけではありません」

 スッと立ち上がる。

「ただ、借りを返していないと言うのは事実だと認めただけです。マックスの仇であることは変わりません。その借りを返した時に必ず私はあなたを殺します。それだけは覚悟しておいてください」

 そして、公園の外へ向かって歩き始める。

「どこに行くんだよ」

「行く場所なんてありませんよ。異世界への扉は閉ざされてしまったんですから」

「じゃあ、しばらく俺たちと一緒に……」

「無理ですね。そこまで恥知らずにはなれません……ただ、死ぬべきだった命は拾ったんです。それを無駄にしないようにはしますよ」

 リチャードの背中が遠くなっていく。

「甘いし、残酷ね」

 トゥーリが藤吠牙を非難するような視線を向ける。

 牙は肩をすくめ、

「そうかな? 現実世界と異世界の融合は完全になくなったわけじゃない、異世界人はまだこの世界にはいる。だから、行く場所はないって言ってたけど、一人ぐらいはリチャードの世話をしてやろうっていう異世界人はいるだろう。その人に頼ればこの世界でも何とかやっていけるさ」

「リチャードは戦士よ。誇りをもって戦っている。それが生き延びるってことは生き恥を晒すってことよ。あなたはリチャードの覚悟を踏みにじった。リチャードの戦士たる根幹をあなたはバキバキに折ったのよ。これから、リチャードはどう生きて何を信じていいのかわからない暗い道を歩き続ける」

「それでも、その覚悟っていうのがただのプライドだったって気づけば、すぐに捨てられるさ」

「戦士が持っている覚悟が全部つまらないプラドだって言うの?」

「そうじゃなかったら、折れない」

「…………それもそうね」

 フッと笑って、トゥーリは力を抜いた。

「さて、これからどうするの?」

「さぁて……ね」

 藤吠牙の自宅はすでに異世界のものと入れ替わっている。宿無しであるのは、リチャードと藤吠牙は全く変わらなかった。

「なんとかするさ……」


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