第37話 諦めなければ、いつでも希望は手元にやってくる
「何を———言っているんですか?」
「バリーは強い。勝てない。俺は多分ここで死ぬ。それはいい、俺の決めたことだ。悔いはない。だけど———ローナ、お前だけは何とか生きることはできる。仮にも王女なんだから生かしてもらえるさ。だから」
「馬鹿言わないでください。私はキバ君を慕ってここまで来て、新世界のご主人様に成りたいと思っている女ですよ。あなたに依存しきっているズルい女なんです。それなのに土壇場になってよりどころを捨てる……そこまでズルい女ではないつもりです。
私は自分のためじゃなくあなたのために生きると決めたんです。それに———」
「それに?」
「これが———終わりなんですか? もう、諦めるんですか?」
か細い、ローナの声。
だが、
「終わりだろう……実体のない炎を捕まえる手が、ローナにはあるのか?」
「ありません」
「だろう」
「だけど———あなたは探し続けると言ったじゃないですか」
「————ッ」
「楽で簡単な解決な方法に焦って飛びつくんじゃなくて、先延ばしと言われてもたとえダメになったとしても解決の手を探し続けると———あなたが言ったんじゃないですか」
そうだ———。
そうだった。
「じゃあさ」
「はい?」
「自分が言った言葉には責任を持たないと、な」
「責任なんて持つ必要ありません———ただ、一本の芯を持っていれば立ち上がれるはずです。それに———諦めるなんて口に出さないでください。
絶望の言葉を口にしないでください。口に出してしまうと、それは必ずやってきます。だから希望の言葉を口にしましょう。同じように希望もやってくるはずです。
所詮、この世界は———人の世界は想いの世界なんです。全ては人の〝思うまま〟にできているんです」
「そっか……」
力がみなぎる。
足に、膝に、どんどん力がこもっていく。
「言葉にしましょう。いつだって諦めない人の元に希望は来るんですから———」
「そうだな、希望は見えないけど……」
それでも———見えるふりはできる。
「なんとか、しよう……!」
〝オウカ〟の全身から焼けるような痛みが消えた。
立ち上がれる。
足に力を込めた時だった———、
「開けなさい————!」
少女の叫び声が間近で聞こえた。
「え————?」
〝オウカ〟の顔の前に少女がおり、俺たちに向けて両手を振って存在をアピールしていた。
「トゥーリ⁉」
騎士の少女———ローナの妹だ。服がボロボロで鎧もない、背中に翼としっぽがあり、姿が変貌しているが、間違いなく彼女だった。
〝オウカ〟の手を伸ばし、トゥーリをコックピットに招き入れようと意識する。
彼女の体が光りつつまれ、
「———何をやっているの⁉」
開口一番叱られた。
「何をやってって……負けてる」
「ローナの力を得ているのに、ビフレストの欠片の力もあるのに、どうしてバリーごときに勝てないのよ!」
一方的にトゥーリは叱りつけてくるが、二対一だし、バリーは強力だ。
「……それって関係」
「来てる!」
バリーの足が〝オウカ〟の頭上に迫り———踏みつけてくる。
「危ッ————!」
間一髪で躱す。
「ローナ! あんたまだ本気出してないの⁉」
「何を言ってるの! 出してるってば!」
バリーの攻撃を避けながら、俺たち三人はコックピットの中で、喧嘩をしていた。
「ローナは光の魔法を使えるんだから、それでバリーを何とか出来るでしょう⁉」
「さっきからそればっかり言ってるけど、具体的に言ってよ! 相手は体を炎に変えられるんだよ⁉ そんな相手に熱の攻撃が通用するわけないじゃない⁉」
「どうしてそんな使い方してるの⁉」
「それしかできないからだよ!」
「そんなわけないじゃない!」
「不毛な姉妹喧嘩は後にしてくれないか!」
必死でバリーとリチャードの連携の攻撃を避けているのに、集中力がそがれて仕方がない。
「……いい、ローナ。さっきから見ていたけど光魔法を攻撃にばかり使っていても、バリーには効かない。攻撃に使っても意味ないの」
「でも、それ以外やったことが……」
「やっている。〝オウカ〟で空を飛んでいるでしょう⁉ いい、光って言うのはそのまま単純なエネルギーそのものなの。だから、〝オウカ〟は重力に逆らう力場を形成して空を浮遊できる。
魔法の中でも最上位の能力を持つのが———光魔法なのよ」
「理屈がメチャクチャだ……」
だが、思わず笑みがこぼれた。
それにトゥーリは気が付いたようで。
「魔法って言うのは人の想いに反応する。感情があれば理屈は一切通じなくなる。
科学って言うのは迷信に理論が打ち勝った学問かもしれないけど、
魔法って言うのは想いで理屈を捻じ曲げる概念なのよ? 想像すれば、何でも叶う、何でもできる!」
ニッとトゥーリが笑った。すぐにそんな自らを恥じたようで、「笑っているばあいじゃなかった」と口元に手を当てる。
「そうか……なら、まずトゥーリ!」
「ん⁉」
大声で名前を呼ばれて驚いたのか、彼女の体が跳ねる。
「あいつが……邪魔なんだけど……!」
リチャードが吐く水流が〝オウカ〟の装甲を叩き続けている。
「早く排除したい……だけど、バリーが邪魔だ……だから、リーチの長い、高速で威力の大きな武器が必要になる……お前の剣が必要なんだ」
「……わかったわ!」
トゥーリは自分の役割を瞬時に理解し、
「ローナ、代わって!」
「ええ、わ」
「違う、二人一緒にだ!」
「「え⁉」」
〝オウカ〟のコアの中にいるローナと入れ替わろうとしたトゥーリだったが、俺の言葉の意味が分からず、二人並んで聞き返す。
「トゥーリの斬撃の魔法だけだと速度が足りない……なら光魔法の力を使って、光速の斬撃にする……そうするには、二人の魔法を融合させないとダメだ!」
「でも、そんなこと……今までやったことないけど? 一つのコアに二人の人間が入って、しかも機体の操縦自体も全く別の人間が……〝オウカ〟が許してくれるかしら」
そうはいうトゥーリの声色に困惑の色はない。
「できるさ……俺たち三人なら」
そう確信が持てた。
「フフッ……」
「ローナ、何笑っているの?」
「キバ君、言ったでしょう?」
「ああ———この世界は人の〝思うまま〟にできている」
諦めなければ、いつでも希望は手元にやってくるんだ。




