第36話 VSルシフェル&リヴァイアサン
止まった時の中、出現する鉄の巨人の姿の足元。
砕けるコンクリートに追われるようにリチャードとバリーは後退していた。
二人とも独自の魔法を使って———リチャードは足元に水流を纏い、バリーは全身を黒炎と化しながら、移動する。
「〝オウカ〟を出してきましたね……私たちも魔獣化しますか」
「ああ……マックスの仇だ」
リチャード、バリー、両者とも瞳が赤く染まり、全身から邪悪な魔力光が迸り、肉体が変質していく。
カッ—————————————————————————————‼
魔力の爆発が起きる。
二人の異世界人の体が巨大化し、怪獣が姿を現す。
一体は巨大な龍だった。
蛇のように長い体。鱗の表面が水流が流れるかのように煌めいており、表面はよくよく見ると粘膜を纏っている。
水龍———リチャードの魔獣化した姿、ウォータードラゴンだ。
そして、もう一体は黒炎を纏う、巨人。
漆黒の肉に骨のような鎧をまとい、その隙間から黒い炎が絶え間なく吹きだしている。
実験的に生成された姿で———ヴァランシア王国の英雄にふさわしい、最強の魔人の姿だった。
なので———名前がまだない。
二体の魔獣は、金色の巨人と対峙している。
『こうして魔獣化した姿ではありますが、昔を思い出しますね。ソーガが初めて異世界に来て、マックスを含めた私たち三人はただのチンピラでした。あの時、ソーガと喧嘩したときのことを思い出します』
魔力の思念波でバリーに語り掛けるリチャード。
『あぁ……あの時は楽しかったよな』
———そして、若かった。
『奇しくも、再びトーボエの名を持つ相手と対峙しています……今度は殺し合いですがね』
『いや、違う————これは、喧嘩だ』
魔人と水龍が、夜の東京の街で機神と対峙する。
〇
止まった時間の中———ヴァランシア宮殿にいたトゥーリは窓から見える巨人と二体の怪獣に目を見開いた。
「あいつら……⁉」
トゥーリはまだ拘束されたままだった。
「くっ……」
何とか抜け出そうともがき、体をゆすり、
「強化!」
身体強化魔法。
見張りもおらず、魔力も回復した現在なら使うことができる。
魔力で強化された肉体で、魔力のこもった液体の手かせを吹き飛ばし、体を自由にする。
「————ッ!」
トゥーリは、ヴァランシア宮殿を飛び出し、夜の街を駆けた。
ビルの上を飛び廻り、戦いの舞台まで急ぐ———。
二体の魔獣と巨人はすでに激突していた。
〇
魔人と水龍は〝オウカ〟に向けて攻撃を仕掛けてくる。
水龍しなる尻尾、鞭の一閃が〝オウカ〟の体を吹き飛ばし、建物を破壊しながら、倒れる。
そこにすかさず黒炎纏う魔人がのしかかり、パンチを連打していく。
「クソ————————————ッ!」
二対一は流石に分が悪すぎる。
防戦一方。
魔人の拳をただ両手でガードすることしかできない。
「調子に……乗るなぁ! ローナ!」
「はい!」
〝オウカ〟の体が輝き、熱波が全身から発せられる。
「光襞!」
純粋な光の熱。それにより周辺を焼き尽くす魔法だ。
大地は抉れ、建物は一瞬にして蒸発する———が、
「効いてない!」
バリーは黒炎の魔人。
炎そのものと化している魔獣に熱の攻撃は通用しなかった。
バリーをいくら殴っても、殴った個所が黒い炎と化し、全くダメージを受けずにすり抜けてしまう。
「光と炎で相性が悪いです———それに、こっちは実態がありますが、魔獣と化した父にはありません!」
それに———、
「くそぉ!」
ブンと投げ飛ばされ、大地に転がされる。
すぐさま控えていたリチャードが口から水の奔流を噴射し、吹き飛ばされる。
二対一で勝てる相手じゃない。
リチャードはともかくとして、バリーが強すぎる。物理攻撃が効かないのが致命的だ。
機神———オウカは光の魔法を使う巨人だ。
ローナが得意としている光の魔法でビーム攻撃や、光の剣———ビームソードを使えるが、相手が炎ならどうしようもない。
水龍相手にならどうにかなるかもしれないが、バリーが前線に出てきており、リチャードの元までたどり着くことすらままならない。
一方的だ。
一方的にバリーとリチャードのコンビに圧倒されている。
「どうする……⁉ 〝オウカ〟!」
マックスとの戦いとは違う。今度は本気を出している。出していてもコレなのだ。
ボッ——————————————————————‼
〝オウカ〟の機体が黒く染め上げられる。
黒炎だ。
バリーが〝オウカ〟の首を掴み、一気に機体の全身を燃え上がらせたのだ。
黒掌。
掴んでいる物体を黒炎で焼き尽くす、バリーの魔法だ。
バリーの固有の黒炎魔法は通常の炎よりも火力が強く、何より纏わりつく。
粘着性のある炎とでもいえばいいのか、一度火が付くとどんなに振り払おうとしても黒炎はまとわりつき、その炎自身が気が住むまで熱に苦しめられる。
「——————ッ‼ 焼ける!」
「……………ッ!」
全身が、ただれる。
あまりの熱気に歯を食いしばる。
〝オウカ〟はただの機械じゃない。感覚を共有するロボットだ。
だから———〝オウカ〟のダメージはそのまま俺に与えられる。
全身の血液が沸騰しそうだ。
あまりの苦痛に発狂しそうになる。
「あ」
一気に気が抜けた。
意識の限界————〝オウカ〟は大地に倒れ伏す。
強すぎる。
まだ、〝オウカ〟の全身には黒炎がくすぶっている。まだ、俺を嬲り足りないらしい。
すまない———ローナ。
君に新世界を見せると言っておきながら、このざまだ。
強い力にあっけなくねじ伏せられる。
だけど、後悔はない。
俺は自分が思う通り———最後は自由に生き抜いたのだから。
「ローナ……」
この姿が誰かの目に移って、何か心に影響をもたらすことができればいい。
「はい……?」
そうしたら、たとえ俺の命が尽きたとしても、何か意味があったと思えるから。
「君は逃げろ」




