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時界機神 オウカ  作者: 西都 徹也
3/41

第3話 変質

 翌朝。


 異様な体験をしても、朝は開ける。

 念のため新聞を確認してみたが、怪獣騒ぎなんてどこにも載っていなかった。普段は一ページ目と最後のラテ欄を見て終わりのくせに、今日に限っては全頁隙間なく目を走らせ、どこかに怪獣の「か」の字があるかどうか捜した。結局なかったが。

 夢幻(ゆめまぼろし)ではないのはわかっている。だって昨日、母親にめちゃくちゃ怒られたから。体は修復されたようだが、制服までは修復されていなかった。ボロボロの布切れになってしまった制服を見て母は「どこにいったらこうなるの!」とヒステリック気味に問いかけたが、それは俺が一番知りたいことだった。

 洗濯の時に使う用、二着目の制服がなければ今日学校にも行けなかった。


「おはょう」


 校門前で背中から話しかけられる。

「お、おはよう田代」

 ぽっちゃりとした体形のオタクの少年。俺の友人の田代本土(たしろほんど)は田舎から東京に引っ越してきており、おばあちゃんっ子だったこともあって、喋り口調が強烈になまっている。

「きのう、どしたの? いつのまにかいなくなってたけど」

「あ~……ん~……頭が痛くなって? 体調不良?」

「なして疑問形? 自分のことだろ」

 んなこと言われても、自分でもわからないのだから困る。

「それよりも、何かなかったか? 変わった事。何か壊れていたものとかなかったか?」

「何言ってんだ? んなもんなかったよ」

「そっか……」

 怪物との戦いの痕跡がないかと思ったが……、

「でも、昨日じゃねぇけど、変わったことは一個あったな」

「何?」


「隣のクラスの吉田が死んだ」


「は? ハァ⁉ 嘘だろ⁉ 吉田君が⁉」 

 吉田光彦君。中学校が一緒で、中2の時に一緒にクラスになった。明るくて社交的で、俺とも仲良くしてくれていたが、自分のことをあまり話したがらずクラスをたがえたら一瞬で疎遠になってしまった。

 友達ではないが知り合いではあった人物の死に、大きなショックを受けるが、

「本当の話か? 死んだっていつ?」

「知らん。昨日退院したって話だからおとといでねーの?」


 どゆこと?


「待て、矛盾してるぞ田代。退院した人間が死んだ。それはまぁわかりづらいが、そういうことも起こりえるだろう、わかる。だけどお前は今、昨日退院した人間が一昨日に死んだって言ったんだぞ? 時系列がこんがらがってる。言い間違えたか?」

「いんや。おととい死んで病院に運ばれた奴が、昨日退院した。だから吉田今日多分学校来てんじゃねーの?」

「死んだって話は冗談?」

「いんや? トラックに轢かれてぺしゃんこになったって話聞いたよ。んなったら、絶対に生きてはいねーべさ。だからまぁ病院に連れていかれたいっても、もう手遅れだったはずだったって聞いたよ? だから俺も葬式いかなんなって思ってたら、何か知らんけど昨日になったらトラックに轢かれたのがなかったことみたいになって、元気にぴんぴんしとるって話よ。俺も吉田の親がウチのかーちゃんと仲いいから、そこまで詳細に聞いた話だけど、まぁ、ありえんことが起きて狐に化かされたみたいになったって聞いたよ」

「吉田……ぺしゃんこになったのか?」

「ぺったんこだったらしいよ。だけど、一日経ったら普通になったって。そんなんあるわけないから、集団幻覚……? 漫画とかアニメとかで超常現象が起きたらそんな感じに普通の人が認識したりすっけど、まさに現実でそれが起きたんでねーか? そうとしか考えられねぇもん」

 信じられない話だった。だが、自分の体験と共通点があるので一蹴にはできなかった。俺自身も吉田と同様に一度死んで蘇っているのだ。

 田代の言ったことは本当だった。

 隣のクラスの前を通りかかった時、吉田君は普通にクラスメイト達と談笑していた。俺が知っている朗らかな笑みを浮かべて。

 ただ、髪を染めていたかは———覚えていない。

 吉田君の髪の毛の色って紫だったっけ?


 〇


 山中にも改めてちゃんと謝っとけよ。

 戸髙高校一年五組の教室。辿り着くなり、田代はそんなことを言い、黒板からほど近い自分の席に向かった。

 言われなくてもわかっている。電話口では謝ったが、改めて顔を合わせての謝罪は必要だろう。内心面倒くさいと思ってはいるが……。

 まぁ山中の席は隣なんで、ホームルームが始まる前にちょっと話しかければ終わることだ。

 クラスの窓際一番後ろの席。漫画の主人公がよく座る席がまさに俺の席だった。その隣に山中の席はある。親友やヒロインや幼馴染が座る席だ。

 別に山中と俺は親友というわけではない。知り合ったのは高校に入ってからだし、ただ何となく気が合ったのでよくつるむようになっただけだ。この世界が本当に漫画やアニメであって隣にはカワイイ幼馴染の女の子が座っているはずなのだが、現実は残酷だ。野球部を辞めた中途半端なスポーツ刈りの少年がそこにいるのだ。

「おはよう、山中」


「あ、えへへ、おはようございますぅ……」


 声、高っか……。

 女の子みたいな声出しやがる。


「おい、きもいぞ山中……」


 やっとはっきりと隣にいる人物を見た。

 俺は自分の席に着くまで、隣に人がいるのは確認した。日常のことなのでろくに見向きもせずに俺は席に座り、挨拶をした。「どうせ山中がいるだろう」そのくらいの気持ちだ。


「誰?」


 山中じゃなかった。

 女の子だった。


「え、えへへ……え~っと、嫌だなぁローナ・シュタインですよぉ。ずっと一緒だったじゃないですかぁ……」


 知らない外国人の女の子だ!

 ダダダダッ! っと、慌ててて田代の席に向かう。

「田代! 山中が女の子になった!」

「ハァ⁉ マジで⁉」

 立ち上がり、俺の席の隣に居座っている女の子を確認する。

「……いや、何言ってんの。ローナさんじゃん」

 至極当然のことのように、田代は返答した。

「何言ってんのはそっちだろ! 山中は俺の席の隣で、いつの間にかあの子になって! つーか、ローナって誰⁉」

「だから、なして、あんたまで混乱してるんだよ。昨日のウチのかーちゃん状態になってっぞお前。ローナさんはローナさんじゃん」

「は?」

 全く当然のようなことをして言う。

「いや転校生とか知らん。山中は?」



「そっちこそ何言ってんだ? 誰だべ山中って」



 一瞬、固まった。


「お前……何言ってんだ?」

「山中ってさっきから言ってっけど……てっきり前の席の山根のこと言ってっかと思ってたけど。山根は今入院してっから学校居るわけねぇし……案の定お前の席の方見たらローナさんしかいねぇし、

 お前、ローナさんの事山中って呼んでんのか? どういったニックネームセンスだ?」

 ハハハと笑いながら、まるで俺が冗談を言っているかのように振舞う。

「……いやいやいや、お前さっき言ったよな。〝山中に謝っとけ〟って。山中のこと、さっきまで知ってたじゃねぇか⁉」

「おおっ、大声……びっくりしたぁ……そんなに言うなよ。いや、言ったぞ確かに———、


 〝ローナさんに謝っとけ〟


 って」


 ————は?


「田代……一つ確認していいか? 昨日新宿に遊びに行ったよな?」

「ああ、いった」

「俺と、田代と……あと一人は誰だ?」

 田代はいぶかし気に眉をひそめた。何をこいつ当たり前のことを聞いているんだ。そう目に書いてあった。


「ローナさんに決まってるだろう」

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