第27話 戻った記憶
〝オウカ〟で赤城家宅に戻る間に、報道ヘリだったり、警察だったりに取り囲まれたりするかもと少し覚悟していたが、そんなことはなかった。
ビックリするほど何もなかった。
笹塚に辿り着き、〝オウカ〟を召喚陣の中にしまう。
そして、俺たちは赤城百合の世話になり赤城宅で一泊することにした。
彼女が友達をよく泊めているというゲーム部屋に、俺とローナは布団を敷いて寝ている。
ゲーム部屋というだけあり、テレビの付近には五・六台。それぞれ別の種類のゲーム機が置かれていた。最新機種から中には自分が生まれる前に発売したゲーム機もあり、百合が実はゲーム好きだったんだ、と一瞬思った。
多分———違う。
百合はゲームが好きなんじゃなくて、ゲームしかやることがなかったのだ。
最新のゲーム機本体、コントローラー、そしてVRゴーグルもある。高くて新しいものをそろえているが、そこまで使い込まれた形跡がない、新品同然のものもある。
テレビのすぐそばに置いてある棚にはびっしりとゲームソフトが並べられている。そのゲームはパーティーゲームがほとんどだった。一人でやるようなRPGはほとんど見受けられない。
親に頼めばすぐに買ってもらえる。だけど、親は帰って来てくれない。
赤城百合の家での生活は、空虚なものだったんだろうと思う。
「……ご主人様」
そんなことを思っていると、ローナが眠りもせずに俺を見つめていたことに気が付く。
「まさか、赤城百合のことを好きになったりはしてませんよね?」
「どうしてそんな話になる?」
「ぐいぐいあの女がアピールしてきてるからですよぉ」
「そんなわけないだろ……それに、ローナもうその呼び方やめていいぞ。
俺は———記憶を取り戻している」
「あらま」
きょとんとした表情のローナ。その後すぐに、にんまりと微笑み、
「おかえり、キバ君。やっと会えたね」
俺には、幼馴染がいた……俺とローナは十年前まで一緒に暮らしていた。
「俺はこの世界で生まれていない。異世界で生まれて十年前にこの世界に親父と一緒に来たんだ。俺とローナは……ゼツ村で生まれた」
「そう、やっと思い出してくれたんだ。私たちの両親は英雄だった。ソーガ・トーボエにバリー・シュタイン。そしてお母さんたち。ゼツ村からの最後の旅。私たちは一緒に旅立った。実は———〝オウカ〟にキバ君も乗ってたんだよ?」
「ああ———全部思い出した。〝オウカ〟に乗った時に」
俺たちが六歳の時———ゼツ村にトゥーリがやってきた。
〝オウカ〟と共に———。
そこからすべてが始まり、狂った。
「機神を得て、魔王を倒すために軍団を作り上げた。人間と魔族の混成軍……俺は〝オウカ〟に乗っていた。思ってたんだ。〝オウカ〟に乗った時、懐かしいって」
「思い出したのなら、使えるね。魔法」
「いや、魔法はまだ使えない……」
拳を握りしめる。
軽く魔力を呼び出そうと思ったが、全く魔力は手から発されることはなかった。
「使えるよ」
ローナの表情は変わることはなった。
変わらずの笑顔だった。
「そうかな……」
「そうだよ。〝オウカ〟 〝キッカ〟 〝セイラン〟———勇者の三機神。
私は〝キッカ〟に乗って、キバ君は〝オウカ〟に乗って魔王サタンのラグナロクを止めた。その時と私もあなたも何も変わってない。
危険だったけど、お父さんもソーガさんもいて、苦労を分かち合って楽しい日々だった。
だから———私はこの世界に来たんだよ。またキバ君と楽しい思いをするために」
「…………」
ゆっくりと体を起こす。ローナはまだ、横たわったままだ。視線だけを向けて、楽しそうに笑っている。
拳を何度もぐーぱーぐーぱーと開いたり閉じたりを繰り返す。
「俺は……親父の世界に、この世界にやって来て、がっかりした。
異世界で死と隣り合わせの戦いの日々。当時は辛いと思っていたけど、こんな何もない空虚な日々に比べたら、すごく楽しかった。赤城百合が言っていたこと。かなりわかるんだ。わがままなことを言ってるかもしれないけど……この世界で俺は特別じゃない。あっちの世界では〝オウカ〟に乗って世界を救った英雄なのに。こっちだと平凡なただの人で、毎日の学校、勉強に時間を費やされて、自分のやりたいこともできないし、何がやりたいことなのかそもそも探すこともできない。
誰も何も俺に生き方を教えてくれないのに、あれはやるなこれはやるな。レールから外れて生きていけると思うなって、レールから外れたら助けてやれないぞって平凡であることを強要される。
……俺は、この世界に来てずっと息がつまりそうだった」
「でしょう……? だから、壊してしまえばいいんですよ。こんな世界。〝オウカ〟を使って」
ローナが囁く。
「私はこの世界に来て、キバ君と会うのを楽しみにしてました。だけど、実際に会ってみてがっかりしたんです。キバ君の眼が死んでいたから、あんなに冒険に胸を躍らせていたキバ君は一体どこに行ってしまったんだって。
すぐにわかった。この世界が行けないんだって。現実は辛いくせに楽しいことなんか何もない。ただただ辛い奴隷のような未来が待っているっていうのに、そこから逃げるなって言って手も差し伸べてくれない。
自由なんか何もない。ただ———自分の意思を削り取られ、いつか来る死を待ちながら、真綿で首を絞めつけられるような日々を送り続けるだけの毎日が待っている。
だから———全部壊してしまいましょう」
「…………できない」
「え?」
ギュッと目をつむる。
俺の言葉は正しい、はずだ。
「上手く言えないけど……それでも侵略って方法はダメだと思うんだ。無理に侵略しなくてもどうにかなるんじゃないか? よくわからないけど……どっちの世界にも同じように人が生きているわけだし、干渉しあないで平和に生きていければ……
俺はこの世界が嫌いだし、対して好きな人もいないけど、それでも———無暗な破壊は阻止したい。人として」
「そんなつまらない理屈……」
「ごめんな、せっかく俺だけを守るためにお父さんを裏切ったのに」
ドスッと起こした体を再び布団に落とす。
「なぁ、聞かせてくれないか。俺と親父がこの世界に来てから……ローナは何をしていたんだ?」
「何もしてないよ。ずっと祈ってた。一日でも早くキバ君に会えるように。父の言いつけを守って」
「俺も同じだよ。何もしてなかった。異世界での記憶を失って、ただつまらないと思って学校に通って何もしてなかった。もっと何かすればよかったのかな。そうすれば、はっきりと俺がどうしたいのか、どうするべきなのかお前に伝えられたかもしれないのに」
「……これからどうするの?」
「この世界を守る」
「その後は? もしもお父さんたちの侵略を全て退けても平凡な毎日が待っているだけだよ」
「そこから先はまだ、決めてない。もしかしたらローナの世界に行くかもしれない。〝オウカ〟でさ。俺にはビフレストの欠片が、その力がある。だから、その時は一緒に行こうな」
「……行きますか?」
「え?」
「私たちの、異世界へ」
ローナが手を伸ばす。
次の瞬間、ヒカリが部屋を包み込み、何も見えなくなった。
ローナの声だけが耳に届いた。
————もう一度考えてみて下さい。あなたの本当の運命を。




