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時界機神 オウカ  作者: 西都 徹也
25/41

第25話 ———十時五十一分

 9月15日10時51分。

 早稲田大学の動物進化学研究室で藤吠双臥は古代生物の淘汰についてのレポートをまとめている最中だった。

「おっと」

 誤ってテーブルから書類を落とした時だった。

 書類が落ちずに空中で止まっていた。

「———来たか」

 時が止まっている。

 そして、空間に穴が開き、三人の男が出てくる。

「来たさ」

 バリー・シュタイン、リチャード・レイ、マックス・ロッドの三人だ。

 バリーは心底嬉しそうな笑みを浮かべ、両手を広げる。

「久しぶりだな! 親友!」

「おお……!」

 バリーと双臥がハグを交わす。

「久しぶりですね。私のことを覚えていますか? ソーガ・トーボエ」

「リチャード・レイ! バリーの友達だろ! 覚えているさ。何度かバリーをめぐって戦ったからな。元気にしていたか!」

「元気にしていましたよ。あなたには私たちの世界を救ってもらった感謝の言葉を述べていませんでしたね。本当にありがとうございました」

「ソーガ! ソーガ! 僕のことは⁉」

「マックス・ロッド! 覚えているさ! 食いしん坊め! いつも君は何か食べ物を持っているな」

「えへへへへ……」

 マックスの手には骨付き肉が握られている。

 止まった時間の中、再会を喜び合う四人。

「ねぇねぇ! ソーガ! この世界には一杯おいしい食べ物あるんだよね! それはどこにあるの⁉」

「町中にあるさ」

「取りに行ってもいい?」

「いいけど、ちゃんと金は払うんだぞ」

 双臥はマックスに一万円を渡すと、彼は手を挙げて喜び、部屋を出ていった。

「全く……あいつは……それよりも、ソーガ俺たちはお前の言葉どおりこの世界に来たぞ」

「言葉?」

「現実世界と魔法世界を融合させる。だから、ビフレストの欠片を俺たちに渡してくれ」

 バリーが手を伸ばす。

「…………」

 それに対しての双臥の答えは沈黙だった。

「どうした? 異世界の方が現実世界よりもよっぽどいい、現実世界には未来がない。異世界と共に歩いて行ける世界を作っていきたいって、言っていたのはお前だろ?」

「俺はこの世界に帰って来てビフレストの欠片を研究した……どういった作用で現実世界と異世界を繋げるのか……それはどう頑張っても俺が望む形にはならないんだよ」

「どういうことだ? 双臥」

「異世界と現実世界を繋げるとき、この世界の物質が魔力に変換される。分解されるってことだ。だから異世界に現実世界の人間が飛ぶとき、きっかけが〝死〟という形になるんだよ。魂が魔力に変換されて、肉体ごと異世界に飛ばすエネルギーを生み出す。異世界に吸収される形になるんだ。

 それは———結果として現実世界の一方的な搾取。崩壊を意味する」

「それの何がいけない? そんなことを考慮するようなお前じゃないだろ? お前は異世界で言ってたじゃないか。現実はクソだと。もう二度と戻りたくないと」

「それでも現実世界に戻ろうと思えたのは、バリー。お前がいてくれたからだ。お前と関われて俺は変わった。人とかかわっていこうと思えた。現実世界で取りこぼしたものを救いあげて、息子に……牙に人とつながる意味と強さを教えたい。それはどの世界でもできる。俺はそれを伝えたかったんだ———」

「そんなもの、もういいじゃないか。俺たちがいる。俺たちと異世界の人間とまたつながっていけばいいじゃないか。あっちの世界では俺と同じようにお前も〝英雄〟なんだぞ。 何だこの部屋は?」

 双臥の研究室をバリーはぐるりと仰ぎ見て、

「魔王を倒して世界を救った英雄が、過ごす部屋か? ここが、狭くて鬱屈した場所だ。お前はもっと表に出て、民草を引っ張る偉大な人間として扱われるべきだろう」

 双臥はゆっくりと首を横に振る。

「空を見たんだ」

「は?」

「いつまでたっても、どこだろうと、どんな世界だろうと蒼いまま———それを見たら、この世界も悪くはないと思ってしまったんだ」

「意味が分からない。要は、日和っていると言うことか? ぎりぎりになって、この世界の人間を犠牲にすることが怖くなったって?」

「そう受け取ってもらっても構わない」

「お前、マリアを捨てるのか?」

「———ッ!」 

 その名を出された瞬間、双臥の瞳が揺れた。

 だが、ギュッと何かをこらえるように目を瞑り、

「マリアは俺を待ってなどいない。マリアはもう、どこにもいない。俺はもう世界を受け止め前に進むしかないんだよ。お前も、」

「変わっちまったな」

 バリーは懐から銃を取り出す。

「な」

「魔銃ケルベロス。お前が伝えてくれた現実世界の武器を、俺たちで再現したよな。オリハルコンを集めて、ドワーフに設計図を渡して……現実世界にしかない、魔法世界にはないもので、ドワーフに仕組みを伝えるのに苦労した……だけど、楽しかったよな。これを作っていた時は……お前、まだ持ってるのか?」

「………この世界に、銃は必要ない」

「————そうかい!」


 バンッ!


 バリーの持つ銃が火を噴いた。 

 撃鉄に一瞬だけ魔法陣が展開し、魔力がシリンダーを通し、黒炎を纏った弾丸を放つ。

「あぁ……バリー……」

 双臥は胸から血を流し、倒れる。

「すまない……」

 それが、藤吠双臥の最後の言葉だった。

「裏切られましたね」

「あぁ……!」

 そのまま、力が抜けるように壁にもたれかかるバリー。一方、リチャードは眉一つ動かさずに、何なら微小すら浮かべていた。

「仕方がありません。裏切り者の粛清、お疲れ様です。我が王。探索は私に任せてしばらくお休みください」

「あぁ……」

 一礼して、リチャードは研究室を調べ始める。 

 この世界を破壊する、ビフレストの欠片を手に入れるために。

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