第19話 赤城白太の喪失
戸髙高校横の戸髙公園。
結局ここにまた戻って来てしまっていた。
ズズ……ズズ……。
ローナと二人並んでカップラーメンをすすっている。
「それで、どこに泊まるんですか? もしかしてこの公園に一泊するんですか?」
「ローナ、何か……その結界的な、周りに壁創る魔法的なものない? そうすれば安全だと思うけど、公園一泊は……財布も持ってるし」
「私、魔力を全部ご主人様にあげちゃってるから、できないよ?」
「そうだったね……〝オウカ〟を出してその中で過ごすか……」
結局それしかないと、カップラーメンのスープを飲み切り立ち上がる。
「……いきなり呼び出したら騒ぎになるよな」
こんな東京の公園でいきなり出すわけにはいかない。
時間を止めるか……。
「時間ってどうやって止めるの?」
「……ご主人様は正しく魔法が使えないと思うよ。トゥーリが言ってたじゃない。魔力は宿しているけど、それを出す方法を勉強していないからできないって」
「ああ……そのことに関してな、ら」
視界の端に若い男女のグループが映った。
高校生ぐらいの4人組だ。三人が前を歩き、一人が携帯をいじりながらつまらなそうにその後をついて行っている。
その一人というのが、赤城百合だった。
「赤城、さん」
「えぇ……」
ローナが心底嫌そうな声を出す。
赤城百合は、よく知らない髪を染めたギャルっぽい女子二人とタンクトップの耳にピアスをしたイケイケの男たちについて行っていた。その三人は話題が盛り上がっているようで爆笑しているのだが、百合は全く会話に参加していない。そして、前の三人はそのことに気が付いている様子すらない。
ふと、彼女が何かに気が付いたように視線を上げ、ぐるっと首を回した。
「あ」
目が合った。
こっちに来る。
ローナが「ぃぃ……」とまた違った嫌そうな声を上げているのを聴きながら、赤城百合が三人組へ手を振り別れを告げる光景を見つめている。
「藤吠」
彼女は小走りで俺の元までやって来た。
俺はせっかくグループで行動していたのに、別れても大丈夫かと「いいの?」と三人組を指さす。
「大丈夫、どちらにしろ……帰るところだったから」
確かにあと腐れがないような感じでこっちを見向きもしないで三人組は公園の出口へ向かっている。
「別のクラスの人?」
「全員一緒のクラスだよ。三崎と四柴、あと五条」
「え? マジで⁉ 暗かったからか全然わからなかった……」
三崎と四柴は女子で一番クラス内ヒエラルキーが高い二人だ。スカートは短くてメイクをしており、おしゃべりで噂好き。発言力が高くて彼女たちを中心に女子のグループは構成されている。一方で五条はクラスで一番ヤンキーの男子で、素行が悪くてあまり学校に来ていない。入学式の時に顔を見たが、普通の顔立ちでピアスなんて開けていなかった。
「三崎と四柴? 全然別人に見えたけど……今が暗いからかな」
「あと、普段はウィッグ付けて学校行ってるから。地毛は茶色と金色だよ。メイクも学校用とは違って濃ゆいしね」
「そうなんだ……そういえば、クラスではいつも三人で一緒にいるよな。仲いいんだ。中学一緒だったとか?」
「いや、高校からだよ。まぁ、気が合って……ってところかな。それよりも、どうしてこんな時間に公園で飯食ってんの?」
赤城百合は俺たちの持っているカップラーメンを指さす。
「そんなことあなたに関係あります?」
ぐるる……とローナが唸る。獣かお前は。
俺は手でローナが噛みつかないように制し、
「ちょっと事情があって、家に帰れなくなっちゃったんだ」
「へ~、家出?」
「まぁ、そんなとこ。お兄ちゃんには黙っといてくれよ……いや」
赤城白太は異世界の事情を知っている。なら頼れるんじゃないか?
「お兄ちゃんに会えるか?」
「家に来たいの?」
「まぁ、そんなとこ」
「兄貴は一人暮らしだし、今まだ勤務中だと思うけどな。騎士だもん」
「ああ……そういえば」
警察官は激務だとドラマで見た。休日だろうと何だろうと呼び出しがかかればすぐに出勤しなければならずに、事件が事件ならそのまま署内に泊まり込む必要もあると。
逆に言えば昼はよく〝異世界がらみ〟という私用で学校に来れたなと感服する。今思いっきりそのしわ寄せが来ているのかもしれないが。
それにしても……〝騎士〟か……異世界の侵食の影響で赤城百合の認識もおかしくなっているようだ。
「悪いな。じゃあ警察署……あれ? あの人どこの警察署に勤務してるんだっけ?」
「戸塚警察署だよ。一緒に行こうか?」
「え?」
誘いに来る百合を遮るようにローナが間に入る。
「二人で行けます! ご厚意感謝します! ですが、結構です!」
「……そう?」
「はい!」
「でも、私暇なんだよね。友達もどっか行っちゃったし」
「あなたが勝手に別れたんでしょう?」
「ついて行くぐらいいいでしょ。それに妹の私がいた方が何かと得でしょ?」
「…………」
ぐいぐい来る百合に、ローナは気圧され判断を仰ぐように俺を見るが、俺も拒絶の言葉が見つからないので首を振った。
結局、百合と三人で戸塚警察署に向かうことになった。
〇
百合と共に戸塚警察署に行き、百合が受付を終わらせ、「すぐに兄が来るから」と受付で待っていた。
戸塚警察署はカオスなことになっていた。
私服・制服の警察官が行きかい、鎧姿の騎士も同じように警察署内を走り回っている。止まった時の中で死んだ警察官が、あっちの世界の騎士と入れ替わっているからこんな現象が起きてしまっているのだろう。
「騎士……トゥーリもいるんじゃないか?」
「いたらもっと複雑なことになるからやめてください」
「おまたせ」
百合が一人の男性を伴ってやって来た。
「…………ッ!」
「兄貴。連れてきたよ」
俺は息を飲んでしまった。
「どうも、パール・レッドソンです。俺に用事があるっていうけど……君は誰だい?」
百合が連れてきていたのは、全く見覚えのない金髪の外国人だったからだ。
鎧を着ている……だから、騎士なのだろう。
「……兄貴。今日学校で呼び出したじゃん藤吠のことを」
「学校? 今日俺は学校に行ってないぞ? 騎士としての公務があるからな」
「え……?」
噛み合わない会話を目の前で繰り広げる百合とパールと名乗る男。
「ローナ……これは? 俺は、全部元に戻したよな。校舎も……生徒たちも……赤城さんも、赤城白太さんも元に戻したよな!」
「……魔法だって穴がある。全部の事象が完璧に塗り替えない様に。ゲームのバグのような抜け穴が。ご主人様のビフレストの欠片の干渉効果も完全じゃなかったってこと」
「じゃあ……」
「赤城白太は、残念ながらもう死んでいるよ」




