第11話 爆羽将軍 ベルゼバブ
「——————ッ‼‼‼」
爆発の中、心の中で叫んでいた。
もう死んだと思った。
が—————、
「あれ⁉」
———生きてる!
「大丈夫ですか? ご主人様?」
目の前にローナの顔があった。
彼女は俺に覆いかぶさっていた。
「ローナ、庇ってくれたのか! ありが……」
彼女の額から血が流れる。
「———お前異世界人なんだろ⁉ どうしてそんなことをしてるんだ?」
「言ったじゃないですか……私はあなたの妻になる者ですって」
「違う! そんなことを言ってるんじゃない!」
ローナは、男の爆弾から俺をかばっていた。
「どうして、魔法を使わなかったんだ!」
体一つで、身を盾にして————。
「それは……」
彼女が言いかける前に視界の端で、白刃の煌めきが映る。
「『斬波!』」
トゥーリの斬撃が飛び、男の体に直撃した。
「うぐあ!」と悲鳴を上げながら地面に落ちるが、彼の体から血は流れない。斬撃が直撃した場所は、確かに服は破け、その下の皮膚に焦げができていた。だから、多少のダメージは受けているのだろう。致命傷には至らなかっただけで。
「マックス・ロッド! 父の左腕の爆羽将軍のマックス・ロッド! 私を捕えに来たの⁉」
トゥーリが、小太りの男に切っ先を向ける。
「お、トゥーリちゃん来ていたのか。奇遇だねぇ、こんなところで会うなんて」
「……私を捕えに来たんじゃないの? 父の命令で」
「違うよ」
「…………ッ!」
あれ、トゥーリの顔が若干赤らんで、
ポタ……ポタ……、
「そうだ……ローナ! 大丈夫か⁉」
顔に血が落ちたことで、ローナが重症であることを思い出す。彼女の体を抱え上げ、背中の傷の具合を診る。
ひどい———服は破け、皮膚は焼けて、爆弾の破片が刺さっている。
あまり詳しくはないが、人間はここまでダメージを受けてしまうと死んでしまうのではないのだろうか。
「ローナは魔法のある異世界の人間なんだろ⁉ そんな傷とっとと治せよ!」
「そうよ!」とトゥーリが同意する。
「さっきから様子が変よ! あんた、私の攻撃を躱すばかりで、一切防御魔法を使わないし、とっとと回復を」
「ごめん……」
「ごめんじゃなくて……! ああもう、回復!」
焦れったいとトゥーリがローナに回復魔法を施す。
魔法の力でたちまちローナの体が修復されていく。
「おんやぁ……こんなところにローナがいるなんてどういうことだぁ?」
マックスが今ローナの存在を認識したようで尋ねる。
「もしや———ローナも裏切んのかぁ?」
「…………」
「トゥーリと同じように、何の縁もゆかりもない———現実世界を守るために戦うのかい? 単純な正義感で」
「違う! そんなバカバカしい理由じゃない!」
明確に、ローナは否定した。
「私がここに来たのは……」
その原因であるローナは立ち上がれるようになったのか。毅然とした態度で背筋を伸ばして言った。
「父の侵略の味方をするためでもなく———この世界を守るためでもない、
ただ———藤吠牙という人間の望みを叶えるためにここにいるのよ!」
そう———はっきりと宣言した。
「ハァ⁉」
トゥーリの表情が驚愕に歪み、
「……それはぁ」
マックスの表情が苦悶に歪んだ。
「……意味が分からん」
俺は———ただただ困惑していた。
「ローナ。それも無理ですな。おいら確認してしまいました。ビフレストの欠片がどこにあるのか」
マックスが俺の胸のあたりを指さす。
「そいつの体の中です。ソーガはこいつにビフレストの欠片を埋め込んだんですよ。
だから———おいらはそいつを殺します。殺して手に入れなければ、手遅れになるんです」
「手遅れって……ヴァランシア王国が、異世界がどうなろうと、別にいいでしょ?」
「よくはありません」
「ちょっと待って……!」
俺は、割り込んだ。異世界人たちの会話に割り込むのは多少の勇気が要った。
「さっきから言ってるソーガって……人の名前? もしかして———俺の父親の名前か?」
「…………」
「なんで答えないんだよ⁉」
誰も答えてくれない。
マックスは、まるでごみでも見るかのような———平坦な視線を俺に向けていた。
「無駄だからですよぉ、ご主人様。マックスはもう、あなたを殺すと決めました」
マックスは肯定するかのように一度頷き———全身を膨らませた。
「嘘ッ⁉ 正気⁉」
トゥーリが目を見開く。
まるで風船のように腹も、腕も、顔もパンパンに膨らんでいく。
「———ここで⁉」
また爆発するのか————⁉
俺たちは慌てて来客室から出て廊下を駆ける。
急いで逃げながら、後ろを確認すると———来客室から魔力の光がバーっと広がり———、
爆発する—————!
ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼
雄たけびが、響く。
爆発は———しなかった。
が————、
「校舎が———!」
崩れゆく。
来客室から大質量のものが膨れ上がり———その巨大な〝何か〟は校舎を破壊していき、その崩壊は俺たちが走っている床も巻き込み、瓦礫と化した廊下の石片につまずき、転んでしまう。
「————ッ!」
動きが止まった俺たちに容赦なく崩落した天井が降り注ぐ。
「強化!」
トゥーリが魔法を発動させ、動きが加速する。
筋力も増強されたようで、全身に魔力の光を宿らせたトゥーリが俺とローナを軽々と抱え上げ、外へと避難させてくれる。
「あ、ありがとう」
「あんたどういうつもり⁉」
俺の感謝の言葉を、トゥーリは全く聞いていなかった。
視線は、ローナに向けられていた。
「魔法は使わないし、さっきのタイミングは———〝オウカ〟を呼ぶところだったでしょ! どうして呼ばないの⁉」
「…………」
ローナはうつむき沈黙していた。
「〝オウカ〟を……呼ぶ? うわっ!」
何となく、状況を探るため……〝オウカ〟というキーワードが出たため、どこかに金色の巨人を待機させているのではないかと思い視線を巡らせた。巡らせてしまった。
———ソレに気が付いてしまった。
校舎を破壊した、ソレに。
巨大な————蠅だった。




