第10話 敵
ローナは、余裕の笑みを浮かべて俺とトゥーリを見ている。
つーか、今現在止まった時間の中にいるのにローナも動いている。
「ローナ! 私の〝オウカ〟はどこ⁉ 父の計画に参加してどういうつもり⁉」
「トゥーリこそ何をおかしなことを言っているのかな? お父さんがこの世界を攻める理由なんて、私たちの世界の人たちのためじゃない。私たちの世界には限界が来ている。
だから———新天地であるこの世界が必要なんじゃない」
ローナはあごに手を当てて蠱惑的に微笑む。
「ローナ……」
そんな様子を見て、俺は少し怖くなった。
「何? ご主人様?」
「お前……俺たちの世界の人間を滅ぼすつもりか?」
「何か———問題?」
「問題だらけだろ!」
「こいつはこういうやつなのよ!」
トゥーリの剣の柄に魔法陣が浮かび上がり刀身が輝き始める。
「『斬波!』」
光の斬撃が飛び———、
「あぶな」
難なくローナはしゃがんで避けた。
「避けるな!」
「避けるわ! いきなり姉に向かって攻撃魔法をうつ妹がどこにいるのよ⁉」
「何の罪もない異世界を侵略している家族に! 躊躇なんてするつもりはない!」
トゥーリがローナに向かって襲い掛かり、次々と斬撃を繰り出していくが、ローナは身軽な動きでひょいひょいと避ける。
「……あのぉ~?」
二人が廊下で殺し合いを始めてしまって、一人取り残されている。
いや、正確には一人じゃないのだがトゥーリと共に来た赤城は時が止まった瞬間に固まり、虚空を見つめたままだ。
「そういえば……この人本当に刑事?」
先ほど見せてもらえなかった警察手帳をこっそりと抜き出し、見てみる。
『赤城白太』
確かに彼の名前と警察帽子をかぶった写真が掲載されている。
「本当だった……じゃあ警察が異世界の人間に協力しているってことか……国家が? 日本が異世界からの侵略を認識していて、異世界人も一部が協力してるってことか? ますます状況がわからなくなったな……」
そっと警察手帳を戻す。
「そういえば赤城って女子がクラスにいな……、この人の妹か? もしかしたら警察のエージェントかも……」
「おまえ~……頭が回るなぁ~……」
男の声だ。
いきなり止まった空間で知らない男の声が聞こえた……ことよりも独り言を聞かれていたことに驚き、ビクッと肩を跳ねさせてしまう。
「誰……あんた?」
声のした方を向き、息を飲んでしまう。
小太りの男だった。
シャツにぱっつんぱっつんに伸び切ったサスペンダーでズボンを引っかけている金髪の外国人。
———彼は〝逆さ〟だった。
「バリーの見立ては正しかったみたいだなぁ~……ここにあったよ」
天井に逆さに張り付いていた。
コウモリのよう————というのは表現が正しくない。彼は足先を天井に着けていない。
ふわふわと体に重さがない風船のように空中に浮き、逆さの状態で俺を見ていた。
「ビフレストの~欠片ぁ~」
小太りの男の口がハムスターのように膨らみ、
「ペアッッッ!」
彼の口から———黒い塊が吐き出される。
「これは————ッ」
速い。
迫る黒い物体に、ただ戸惑うことしかできず、
ボッ——————————!
爆発した。
俺の至近距離で。




