7話 偽預言
「へぇ、マスミ達は今度きのこ狩りに行くのね」
クラリッサが田舎パンにレバーパテを塗りながら言った。
今日の夕飯は、田舎パンとレバーパテ、カボチャのスープにピクルス。全部デレクの手作りでこの村の食事らしい質素なものだ。
カーラの事件以来、私、デレク、クラリッサ、プラムという四人の生活にすっかと慣れていた。私も一人ぐらしをして出て行った方が良いのかもしれないが、その機会をのがしクラリッサの家で世話になっていた。
「きのこ狩りはけっこう難しいわよ。エヘエヘダケとヘロヘロダケがよく似てるのよ。ヘロヘロダケの方は食べたら下痢する毒キノコなんだけど、軸の色がちょっと違うだけなの」
プラムはきのこ狩りと聞いて、注意点を色々と教えてくれて私はメモをとる。
とにかく毒きのこを食べても解毒きのこのシルシルダケをとっておけば安心だと言う。あと、ウオンウオンダケというのが相当レアなきのこで、鳥と日本円で十万円ぐらいの価値があるらしい。プラムも探そした事があったそうだが、結局は一度も見つけた事はないという。
「へぇ、そんな珍しいきのこだったら僕も欲しいよ!」
「デレクはカフェの準備をしないとダメじゃない。まだまだやる事はいっぱいあるんですからね」
クラリッサが言うと、デレクは素直 に従う。なんだかんだで器が大きいクラリッサにデレクは頭が上がらないらしい。
「ところで新しくできるパン屋の話は聞いた?」
話題を変えるようにデレクが言う。新しいパン屋はもう店が完成している。あとは、オープンを待つばかりだが。
「あのパン屋には行かない方がいいわよ」
「どうして?」
プラムはハッキリと言った。プラムのこうした物言いは珍しくはないが、いつもより嫌悪感が滲んだ声だった。
「あのマークという店主にはいい印象がないわね」
「なぜ?」
クラリッサはプラムの嫌悪感が満ちた表情には特に気づかず、好奇心いっぱいな表情で聞いてくる。
「私、あの店主と今日の昼間に会ったんです。そしたら、自分の事を神様の声が聞ける預言者とか言ってきたんすよ」
「えー、なにそれ」
私はちょっと引いてしまった。デレクもクラリッサも同様であった。
「で、悪霊を追い出してあげるって言って脅してきて。あの男は怪しいですね。クラリッサ、近づかないように」
プラムは釘を刺す。
「それにしての悪霊だなんて。もしそんなものがあったら牧師さんに相談するわよね」
クラリッサは機嫌が悪そうに田舎パンを齧る。
そういえば聖書の中には悪霊や悪魔について書かれていた事を思い出す。先週も牧師さんが悪魔について説教していたし。どうやら聖書に書かれる罪を犯すと悪い霊がくるらしい。元いた世界でも免罪符なんてものがあったと聞く。確かにそう言った見えない霊的なものは悪用しようと思えば出来るものでもあった。
「そうね。そのパン屋がかなりしつこかったら、牧師さんに相談した方がいいね」
私もクラリッサに同意だ。こうした問題は、やっぱり牧師さんが専門だろう。
「それにしても新しい住人がそんな胡散くさい奴らなんてさ。ちょっと不気味だね」
デレクはため息をつく。
「あら、あなただって最初に来た時は怪しかったわよ」
つかさずプラはデレクにツッコミを入れる。確かにデレクはただのタピオカ屋には見えなかった。
「そうよ。私に色仕掛けまでして」
「ちょっと、クリスチャン。その話はもういいだろう」
デレクは慌ててクラリッサの言葉を否定し、私達はちょっと笑ってしまった。
新しいパン屋は確かに不審だが、とりあえず今はまだ平和だった。