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6話 毒きのこ調査

 土曜日までまだ数日ある。


 私は仕事の合間に図書館に行き、きのこについて調べてみる事にした。


「ジャスミン、きのこの図鑑のような本はない?」


 パソコンもなく、検索機などは無いので自力できのこの本を探す自信はない。ちょうどジャスミンも手が開いて図書館には他に利用者もいないので聞いてみる事にした。プロに探して貰った方がいいだろう。


「きのこの本? 一階にあるはずよ」


 ジャスミンに案内され、植物図鑑の本がまとめられた本棚のコーナーに行く。


「何できのこの本なんて探しているの?」

「実はアビーとジーンと牧師さんできのこ狩りに行く事になったのよ」


 そう言うとジャスミンは何が面白いのか、笑みを浮かべていた。


「この世界でのきのこ狩りはちょっと面白いわね」

「そうなの?」

「まあ、本を見ればわかるわよ。ところで、新しいパン屋の人達見た?」


 私は首を振る。店舗はもうすっかり出来ているようだが、まだ新しい住人は見ていなかった。パン屋の隣新しくパン屋を作るなんていい印書はないが、村八分などはするつもりは無い。普通に接しようと思っていたが。


「私はちょっと挨拶したの」

「どんな人だった?」

「なんか変わった人達ね。店主は、ロン毛でサングラス。その奥さんはいい感じだったけど、ちょっと変わり者っぽい」

「へぇ」


 変わり者である事は想像がつく。わざわざパン屋の隣にパン屋を作るなんて、普通の人はやらないだろう。


「でも、あんまり商売っ気は無いみたい。パンは一個高く売るみたいだけどお昼に開いて夕方前には閉めるみたいね」

「そうなんだ。じゃ、ミッキーのパン屋も安泰じゃない」

「だと思うけど、だったらなんでそんな商売やってるのかしらね。なんか不気味」


 ジャスミンはわざとらしくプルっと震えたフリをする。確かに商売気も無いのになんでわざわざパン屋なんて開いてるんだろうか? 会ったことは無いがだいぶ変わり者である事は想像がつく。


「まあ、パンの味には自信があるみたよ。ミッキーのパンと違って白くてふわふわみたい」

「嘘、それじゃまるで日本のパンじゃない」

「ニホンの人じゃないみたいだけど、転移者って言ってたよ」

「なるほど」


 転移者と聞くと一概には変わり者とはいえないのかも知れない。カーラやデレクの件もあるし、この世界で商売をするのはとても大変である。人伝に聞いて買ってに変なパン屋だと思い込んでいたが、そういう事情なら仕方無いのかもしれない。


「でもそのパン屋の店主にね…」


 ジャスミンは何か言いかけた。


「え?何?」

「ううん、いえ、なんでもないわ」

「そう?」


 ジャスミンは笑顔を見せてカウンターの方に戻る。何か言いかけたようだが、気が変わったようだ。


 私はきのこの図鑑を手に取り、閲覧室へいく。


 この土地はきのこの種類がかなり豊富なようである。日本では食用きのこが300ぐらいと聞いた事があるが、1000種類もあり、図鑑もちょっと分厚い。


 問題は毒性があるきのこが多く、食用とかなり似ている。例えば、ウツウツタケとリュリュタケは形も色もそっくりだが、ウツウツタケは食べると即死するほど毒性が強い。


 日本の舞茸やしいたけと似たようなキノコもあるが、ほとんどが見た目も名前も聞いた事がないものばかりだ。色もピンクや黄色のものも多く、見た目も派手だ。


 子供がするきのこ狩りにしてはハードルが高い?


 図鑑によると毎年何人か毒きのこあたりなくなっているらしい。でも万が一食べてしまっても、全てのきのこの毒を無効化するシルシルダケというきのこもあるらしい。これさえあればちょっと安心ではある。


 こうして見るとちょっとゲームみたいで面白い。レアなきのこもあるし、退屈はしないかもしれない。とりあえず毒性のあるきのこを気をつけて、無毒化するシルシルタケを取れば大丈夫そうではある。もっとも大人である私や牧師さんが最新の注意をしなければならないが。


 私はきのこ図鑑を借りた。


「ジャスミン、あなたが言う通りこの世界でのきのこ狩りは面白そうね」

「そうね。私も行きたいけれど、土曜日は仕事があるのよね」

「そうなんだ。でも、ジャスミンも来れば楽しかっただろうな」

「はは、いいのよ。でも毒きのこには気をつけてね。前にも一人、村の人が死んでるのよ」

「え? そうなの?」


 人が死んでいると思うとあまり笑えない。


「ええ。ネルの旦那さんが」

「ネル?」


 はじめて聞く名前だった。


「ああ、マスミは初めて聞くなまえね。霧の森の近くの住んでるご老人よ。実はミシェルのおばちゃん」

「初耳…」


 ミシェルは、牧師さんの所で世話になっていた神学生である。今は王都で牧師になる為の試験中だ。そういえばミシェルのひいおばあちゃんは、転移者で日本人だとも聞いた事がある。ちょっと会ってみたいが。


「ええ。旦那さんが間違って毒きのこ食べちゃって、それからずっと引きこもりみたいな生活なのよ。今度きのこ狩り行くならネルの様子のちょっと見てきた方がいいかもね」

「そうね。そんな話を聞くと心配だわ」


 まだ会った事はないが、ネルの事は心配になる。当日、ちょっと様子を見に行っても良いだろう。そう思いながらの、きのこ狩りを楽しみにしつつ図書館を後にした。

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