4話 子供達が変?
この村にある教会はまりで絵から抜けでたかのように趣きがある。「小さな古い小屋ですよ」と牧師さんはよく笑っていたが、こんな所で結婚式が挙げられたら素敵だとうと思う。白い十字架のオブジェも太陽の光に照らされ輝いていた。
その側にあり牧師館は、二階建ての建物でそこそこ広い。かつては牧師さんだけでなくミシェルや私も住んでいたが、五人で暮らしても全く狭く無い。庭も広く時々ここでチャリティバザーなどもイベントも開かれ、収益は孤児やシングルマザー、病人やホームレス支援の団体に寄付されていた。
そんな教会なので、牧師さんはしょっちゅうお金に困っているそうだが、何故かいつもギリギリの所で助けられていると言う。そんな話を聞くと別にクリスチャンでもない私でも、神様がいるような気もしてしまう。
「アビー、ジーンこんにちは!」
牧師館に入ると、まずアビーとジーンが出迎えてきた。
日本では信じられない事だが、教会も牧師館も鍵をかけていないらしい。ここはみんなのものだし、この世のものが神様が与えてくれるものなので、みんなで仲良く共有しようという考えでそうしているらしい。
そうする事で行き場のないホームレスなどを保護する事も多いそうだが、なぜか泥棒などの犯罪被害は受けた事がないらしい。意外と治安が悪いこの村にしては、かなりの幸運と言えるのかもしれない。神様の守りがあるのかもしれないと思わされる。
「マスミ、一緒に遊ぼうよ!」
珍しくアビーは甘えた様子を見せ、私のシャツの裾を引っ張った。
「アビー、よしなよ。マスミだって仕事があるんだぞ」
おや?
珍しくジーンがお兄さんのようなマトモな事を言っている。
「マスミはビンボーなんだから、馬車馬のように働かなくちゃいけないんだぞ」
「こらこら、人にそんな事言うんじゃないの」
ため息をつきながら、ジーンを嗜める。馬車馬なんてどこで覚えたのやら。
「マスミ、私お腹痛い!」
ジーンを嗜めていると、アビーは再び甘えるように私のシャツをつかむ。
「本当?」
「うん、痛いの」
そうは言っても顔色も良く、あまり痛がっているようにも見えない。
「本当? トイレ行こうか?」
「うん!」
アビーを連れてトイレに行く。しかし、すぐにアビーは出て来る。本当にお腹が痛いのま疑いの目で見てしまう。それはジーンも同じで、アビーを睨みつけていた。
「アビーの嘘つき! この仮病魔!」
「嘘じゃないもん!」
アビーは頬をプーっと膨らませる。いつもよりだいぶアビーは子供っぽい。やはりジミーが言うように何か異変があるのかもしれない。
私は心配になり、背をかがめて二人の表情を覗き込む。
「アビー、どうしたの? 本当にお腹痛かった?」
「うん!」
その割には元気そうなんだよなぁ……。子供は精神不安定になると嘘をつくと言う話を聞いた事がある。はるか昔で忘れてしまったが、教員免許をとる時にそんなような自動心理を勉強した記憶がある。
「アビーの嘘つき!」
「嘘じゃないもん!」
二人は喧嘩をし始めてしまった。とりあえず私は、二人を宥めた。ミッキーのところで運良くもらえたパンをあげると静かになったが、どうも子供達の様子がおかしい。特にアビーの方が明らかに精神不安があるように見えて不安になる。確かなしょうこがあるわけでは無いが、教員として働いていた時のカンで、子供達がおかしい気がした。
「マスミ、どうしたの?」
そこへちょうど牧師さんがやってきた。
「牧師さん、ちょっとお話できる? アビーやジーンのことで」
そう言うと牧師さんは、ちょっと困ったうような表情を見せる。この様子では、やっぱり牧師さんもアビーやジーンについて何まで思うところがあるようだった。
「ええ、じゃあ応接室へ行きましょう」
「ええ」
村も新しい住人が来るらしいし、アビー達の様子もおかしい。プラムのような悪い予感があるわけでは無いが、何か異変が起こる予感は感じていた。