39話 絶対絶命
湖のすぐそばにつくと、息が上がった。商店街から走ってきたので大力的にはキツい。ただ、不便なこの村にきてから体力はついたようで、息を整え少し落ち着くと大丈夫になってきた。便利な日本では完全に運動不足だった。便利なものも使いようで、適度に活用しないとあっという間に運動不足になったりするのかもしれない。
「ケイト、いるの?」
私は大きな声で呼ぶ。ケイトの姿は見当たらないが、近くにいるような気がする。
さらにに大きな声で呼びながら、湖の周りの雑木林に足を踏み入れる。
湖自体は綺麗ではあるこの雑木林はそれほど綺麗では無く、不気味な雰囲気漂う。
頭上では鳥が騒いでいた。天気少し悪くなってきたようで、空に分厚い雲が多いはじめた。暑いと思っていた夏もあっと言う間に終わった。秋もきっと同じように終わるだろう。風もかすかに冷たい。冬の足音を感じていた。
「ケイト!」
しばらく雑木林を歩きまわった後、ようやくケイトを見つけた。しかしその顔は真っ青で、まるで幽霊のように覇気がない。
私を見ると怯えた様子震えていた。そに姿は熊と出会った小動物に良いであり、私少し切なくさせた。
「ケイト、どうしたの? こんな寒いところに居ると風邪ひくでしょ」
私は小さな子供をあやすように、出来るだけ優しい顔を作って言った。もともと教師モードの怖い雰囲気も板についてうると思うが、出来るだけケイトを刺激させないようにと祈るしかない。
「こ、来ないで!」
ケイトはプルプルと震えながら、叫ぶ。まるで弱った小動物が最後の力を振り絞るような叫びだった。明らかにケイトには異変がある。しかし、どう接するのが正解なのか私のは判断できない。
ふと頭に悪に悪を返してはいけないという牧師さんの言葉が浮かぶ。
少し風が冷たくなってきて寒いが、やっぱり「あなたが犯人ですね?」と上から目線で暴くような事を言っても逆上するだろう。それに私だって自分の推理が当たっているかわからない。ケイトが犯人であると思うのは、単なる憶測で何も証拠が無い。もし探偵だったら最低レベルの調査能力だろう。そんな事を思うと少し笑えてくる。自分の無能さに。
しかし、ケイトは私のこの笑みを悪意を持って解釈したようだ。再び怒ったようの叫んだ。
「何笑ってるのよ!」
「違うのよ、ケイト。決してあなたを笑ったわけじゃない」
「どうせあなたもマークみたいに私を馬鹿にするんでしょ」
「どういう事?」
マークは常日頃、ケイトを馬鹿にしていたらしい。学歴ない事や持病、家事の出来などを毎日悪口を言われていたという。日本でいうモラハラ旦那ではあるが、この国にはそんな言葉や概念はまだない。
「だから、マークを殺したの?」
私はここで賭けに出る事にした。素直に白状してくれるかはわからないが、ここでマークを殺したかどうか聞くしかないとも思う。逆上したり、言い訳をこねる可能性も高かったが。
「マークは不倫常習犯ですし、おまけに魔術師。あなたの事も生贄儀式で殺そうとしていたんだから」
問い詰めるつもりは無いが、いえば言うほどケイトには動機があるようにしか思えなかった。
「そう思うと殺したくはなるわよね?」
でも私はやっぱり探偵でも何でも無いから、同じ村人として聞いていた。暴くつもりなどは毛頭もなく、ケイトの本心が知りたいと思う。犯人で無ければそれはそれで良い。
こう言うとケイトは泣きそうな顔を見せた。
「ええ。そうよ。でも、捕まっても良いと思ってたのよ。信じてくれないでしょうけどね」
ケイトが悲しそうな笑顔を浮かべ、ポツポツと事情を話し始めた。
夫のマークとはもともと不仲だった。結婚生活はとっくに破綻していたが、ケイトは子供は欲しかった。でもマークは子供は要らないという。子供に関しても意見が一致しない。
「だから殺そうとしたの?」
「そんなわけないじゃない」
ふふふとケイトはさらに悲しく笑う。
「殺したのは、私を生贄に差し出そうとしていたからよ。毎日、ビクビク生活してたの。いつ殺されるんじゃないかってね」
ここでケイトは両手を広げ、今は自由であるという事を表現したしているようだった。しかし私の目からは全くそんな風には見えない。
殺人犯と対面しているわけだが、悲しい女性にしか見えずちっとも怖くない。むしろ、ケイトには同情心のようなものしか感じていない。我ながら平和ボケな典型的な日本人である。
「どうやって殺したの? ちょと興味があるわ」
出来るだけフレンドリーな笑顔を作って言う。
「へえ、興味があるの?パンケーキで殺したのよ」
「パンケーキ?」
「ええ。腐った小麦粉を見つけてね。前にもマークは私が作ったパンケーキやパンを食べて発作を起こしていたからね。喘息持ちだったし、あの人はああ見えて身体が弱いのよ」
やはりあの小麦粉で殺したのか。自分のその憶測は当たっていたわけだが、ちっとも嬉しくは無い。
「それで? 毒きのこは関係ない?」
「ないわよ。疑われた牧師さんは可哀想だったけど、あのタイミングでマークが死ぬなんてね。こんな偶然もあるものなのね」
そのケイトの口調は他人事で、人殺しを積極的に隠蔽工作していた様子は感じとれない。捕まっても良かったというのは、本心だったのかも知れない。
「こんな偶然は、神様が私は無罪って言っていたのかしらね。状況だけ見れば、マークは事故死ね」
「そんな事ない…」
ケイトには、同情心を持っていたがやっぱこのまま逃げてしまう事はダメだ。プラムの言う通りである。このまま野放しには出来ない。
「ねえ、一緒に警察いきましょう。私が事情をアラン保安官に話すから」
「いや!」
ケイトは子供のようにワガママを言い始めた。
「私は悪くない!」
「でも、マークに殺意を持っていたのは確かでしょう?」
「ええ。だからあなたにも死んでもらうわ」
ケイトはポケットから折り畳みナイフを出した。やっぱり私は平和ボケ日本人だった。説得したら自白してくれると思ったが、甘い考えのようだった。




