3話 変な名前のパン屋の登場です
ミッキーのパン屋を出た後、ダニエルは仕事で役所に戻り、私も転移者保護の見回りの仕事に戻る。
ロブの店があった場所を覗くと、確かに改装され看板も見える。看板はまだ完成したわけでは無いようだが「嘘も100回言えば本当になる」とある。
これが店名?
日本でも変わった名前の高級食パンが流行っていたが、似たようんしふざけたノリを感じた。店の外観はロブの店を大きく変えたわけでも無い様子だが、どうも浮ついた雰囲気を感じる。このパン屋に行く事は無さそうだ。
転移者らしき人物や怪しい扉も無さそうで、次は教会に続く道を歩き、湖の方に向かう。
その道すがらにアナのジュース屋が開かれていた。ジェイク、クラリッサ、プラム、ジャスミンも客として来ており賑わっていた。片手にみんな青汁風のジュースを持っていた。
「みんな、こんにちは!」
私は笑顔で挨拶をした。しかし、一同ちょっと暗かった。アナの青汁風のジュースは確かに美味しくは無いが、原因はそれではなさそうだ。
「みんな、どうしたの?」
「新しい住人の事だよ」
ジェイクがため息混じりにいう。ジェイクは医者だが、今日は白衣も着てない。休みの日かもしれない。コージー村は健康な住人が多いし、あまり忙しそうでは無い。もっとの職業意識が高うジェイクは、医者が失業するほどみんな健康になって貰いたいと思っているようで、そうなったら本望かもしれないが。
「ミッキーのパン屋の隣に新しいパン屋ができるのよ。嫌らしいわね。パン屋の名前も挑発的だわ」
ジャスミンは顔を顰めてジュースをごくごくと飲む。図書館司書で知的な雰囲気があるジャスミンがこんな風に感情を出すとは、珍しい。
「でも、面白いじゃない? どんなパンを売るのかは気になるわね」
そう言ったのはクラリッサ。この村の金持ち未亡人で、私も彼女の家で世話になっている。新しいもの好きなクラリッサにとっては、興味がある話題だろう。
「私も気になるわ。同じ商売人としてが、あの看板は目を引くね」
ジュース屋を経営すりアナは意外と好意的だった。まあ、同じような商品を売っていたらそんな反応はできないだろうが。
「何となく嫌な予感がするわね」
クラリッサのメイドであるプラムは眉根を寄せて、ジュースを飲み飲み干した。プラムはとても有能な女性なので、こんな事を言っているとつい信じてしまう。
「嫌な予感って?」
私が聞く。いい気分はしないが、そこまでの悪寒はしないが。
「そろそろ殺人事件が起きそうな感じね」
プラムは平然と言う。この村の人達は殺人事件に慣れきっているが、私はまだ全然慣れない。
「じゃあ、賭けましょうか! 秋に殺人事件が来る人手をあげて!」
クラリッサは悪ノリしてこんな事まで言い始めた。村の人達は嫌いでは無いが、こういういかにも田舎者丸出しの噂話はちょっと苦手だった。
私はアナの青汁風のジュースを買ったら、すぐに離れて湖の方に向かった。
「嫌な予感ね…」
確かに殺人事件が頻発するこの村では、いつ事件が起きてもおかしくはない。これでも杏奈先生が生きていた頃に比べると平和である日々が長く続いているらしい。
私は「もう殺人事件など起きませんように」と心の中で願いながら湖や森を見回り、いつものように役所に報告に行き教会のそばにある牧師館に向かった。