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38話 平和ボケでいいじゃない

 私はソニアと別れてから、あの変な名前のパン屋に直行した。牧場から早歩きで向かって息が切れたが、首筋に嫌な汗が流れる。


 やっぱりソニアは私が思った割には悪い人間に見えない事が救いではあったが、ケイトの事が心配だ。


 もしかしたら犯人では無いのかもしれない。マークは事故死かもしれない。どっちにしてもケイトの事が心配だ。牧師さんが言った通りである。探偵のように犯人の罪を暴くより、善意を持って接したかった。


 甘い考えかもしれない。平和ボケな日本人風の発想かもしれないが、どうにもケイトの事が心配で仕方がなかった。


「ケイト、いる?」


 裏口から戸を叩いたが返事はない。パン屋のあかりも消されていて、表もシャッターが締め切られていた。


 さらに嫌な予感がする。私はパン屋に近くにある共用のゴミ捨て場に行く。ちょっと躊躇われたが、いくつかのゴミ袋を開けてみた。臭くてメンタル的にもえぐられる行為だったが、何故かどうしてもやめられなかった。


 もちろん手がかりが無いものは綺麗の元に戻すが、一つのゴミ袋だけ泣きそうになるものがあった。


 そのゴミ袋には、ケイトの似顔絵がぐしゃぐしゃに丸めていれてある。アビーとジーンが描いたものだ。


 子供らしい無邪気絵が台無しだ。見てると心が痛くなり、出来るだ広げてもとに戻す。それにソニアが言ったように透明なゴミ袋からお菓子も透けて見える。あの日、子供達が一生懸命作ったクッキーである。綺麗にラッピングされて居るが、手付かずのまま捨ててある。


 ちょうどそこへリリーがやってきた。


「マスミ、何やってるの?」


 前にあった時より、リリーの表情は晴れやかだった。いつものような快活さが復活している。


「リリーこそどうしたの? 元気そうじゃない」

「実は牧師さんと話したの。牧師さんと一緒に自分はした事を神様に悔い改めたわ」


 道理でリリーの顔がスッキリとしているはずだ。この調子で牧師さんが村人に話して行けば、大丈夫そうだ。


「ところでマスミは何してるの?」


 リリーが驚いているのも無理はない。ゴミ捨て場を漁っている何て。そういえば杏奈先生も捜査中にゴミ捨て場を漁っていると事件ノートに書いてあった。そこを読んだ時はドン引きしたものだが、いざ自分のその立場に立ってみるとこんな捜査方法もアリのような気がしてしまう。


 私はリリーの捜査中だと説明すると納得してくれた。ボロボロのなった子供達が描いた絵をリリーは綺麗にしてくれるという。


「本当? できる?」

「ちょとコラージュしてみたりするかな。完全に元通りにはならないと思うけど。それにしてもケイトは、子供達が描いた絵をこんな風に捨てたなんてね」


 リリーは顔を顰める。私も完全に同意である。ケイトは子供達を守ろうとしてマークを殺したとも考えたが、それはやっぱり平和ボケしていたかもそれない。絵だけではなく、クッキーまで捨てられるとはそれをあげた時は想像すらできなかった。このクッキーは残念ながらこのまま廃棄になるだろう。子供達の事を考えるとやっぱり胸が痛くなるが。


「リリーはケイトがどこの行ったか知らない?」

「ケイト?そうね、お昼ごろ湖の方を歩いているのを見たけど」

「本当? じゃあ、湖に行ってくるわ。リリー、ありがとう!」

「ちょっと、マスミ、大丈夫?」


 リリーの心配そうな声を背中に受けながら、私は湖の方に急いだ。


 子供達の絵やクッキーを捨てた事は悲しい事ではあるが、何かケイトの身の上に怒っているかもしれない。


 自分は探偵でも警察でもない。どんな仕事でもする「猫の手」という仕事で人の相談にも乗っているがもしているが、カウンセラーでもない。何のスキルも無い事はよくわかっている。


 しかし、もしケイトに何か異変があったら?犯人であろうとなかろうと、私は彼女の話を聞きたいと思う。


 たぶんそれが、ノースキルな私が事件の謎を解く鍵だ。我ながらお人好しの平和ボケの日本人だと思うが、これ以上この村で誰か傷つき様子は見たくない。


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