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36話 「欲しがりません、勝つまでは!」は辞めましょう

「あれ?牧師さん、ハンカチ忘れてる」


 食堂のテーブルに白いハンカチが忘れてるいるのに気づく。


「マスミ、持っていくの?明日で良くない?」


 デレクはそう言っていたが、やっぱりちょっtp気になって持っていく事にした。


 さっき帰ったばかりだし、そう遠くには行っていないだろう。


 案の定、クラリッサの屋敷を出た所だった。アビーを背負い、若干重そうだったが苦笑してハンカチを受け取る。


 ジーンは、そんな牧師さんに「忘れん坊!」とキャッキャと笑っていた。夕食時は少しは大人しかったが、やっぱりヤンチャ坊主である。エリマキは牧師さんの肩から、ジーンの背に飛び移り、またキャッキャと騒いでいた。この様子ではやっぱりあまり反省していないのかもしれず、ため息が出る。


「それにしてもマスミはずっと犯人を探してくれて居たんですね」


 何か思いついたように牧師さんが呟いた。もう夜で、空には大きな満月が出ていた。こんな異世界にも月があるなんて。食文化などは類似点は少ないが、土地そのものが四季もあり、元いた世界とよく似ている。本当に異世界なのだろうかという疑問も頭に浮かぶが、考えても仕方ないだろう。


「感謝します。こうして私も疑いが晴れて外に出ました」

「そんな。私は何もやっていないですよ?」

「そーだよ! 僕とアビーのイタズラだよ!」


 ジーンはやっぱり罪悪感はない様で再びケラケラ笑っていた。


「相変わらずね、ジーンは」

「うん!」


 胸を張って言う事だろうか。やっぱりアビーとジーンの教育は、今後も心配の種が多そうだ。いっそ、厳しいプラムがいるクラリッサの屋敷で育った方が後々良いのでは?


「そんな事言ってると、またプラムに牢屋に入れて貰うように頼むからね!」


 私はちょっと教師モードを出す。


「あーあ、だったらやっぱりマスミがママになってくれればいいのに!」


 今、牧師さんの前で言う事か!自分の頬は赤くなっている自覚はあったが、鈍感な牧師さんは気づいていない。


「こんなヤンチャな子供達のママになったら大変ですよ!」


 屈託なく笑って居る。二人のママになると言う事は、私と牧師さんがどうこうなる事を夢にも思っていないだろう。天然にも程がある。あの鈍そうなジェイクだってモテる自覚はあったのに。


「それのマスミはデレクと付き合っているんでしょ?」

「は?」


 私は顎が外れるほど驚く。言葉も出ない。


「リリーか誰かが噂してるの聞きましたよ。ま、婚前交渉はいけませんけど」

「マスミ、デレクと付き合ってるの?」

「ちょ、何でそんな話になってるのよ。誤解よ!」


 驚きながらみ私は筆者に否定する。こんな噂を流しているリリーが恨めしい。


「えぇ!? 本当に付き合ってないんですか?」

「付き合ってないですよ…」


 驚くのはそこ?本当にこのひとは恋愛ごとに疎い天然だと思わされる。まあ、職業柄仕方ない。日本の寺にいる坊主は俗っぽい印象だったが、この人は敬虔な牧師。そんな恋愛話に興味がなくても不自然では無い。


 しかし牧師さんは何か考え込んだように小さく呟いていた。


「しかし、まさか…」

「え? なんか言った?」

 耳をすますが、遠くで鳥の鳴き声が聞こえるだけだった。

「まあ、事件が終わったら話しましょう」

「事件、終わるかしらね…」


 今のところケイトを説得できる自信はどこにもなかった。


「大丈夫、頑張って!」

「マスミ、頑張れ!」


 二人に励まされる。少しは元気が出てきたが、私は冗談っぽくこう言った。


「だったら、事件解決したら何かご褒美ください!」


 自分でも何でこんな言葉が溢れたのかはわからない。

 あのぶりっ子女のソニアだったら、こんな甘えるような言葉は朝飯前だろう。しかし、免疫の無い私の心臓はドキドキと高鳴っている。


「ご褒美?」

「マスミがワガママ言ってる!」


 ジーンは囃し立ていたが、いちいち否定する気にもなれなかった。


「そうだな、あまり高いもので無ければ何でも買ってあげますし、出来る事ならしますよ」


 牧師さんは私の気持ちなど全く想像していない様だった。子供のご褒美の話をする様に思っているのだろう。


「うん、事件を解決したら聞いてくれる?」

「うん、マスミが居なかったらまだ警察の中だったかもしれない。何でも聞きましょう」

「ありがとう、やっぱり頑張ってケイトを説得する」

「ええ、頑張って!」


 そう言って牧師さんと別れた。事件解決を餌にしたとはいえ、こんなワガママを言ってしまうなんて。


 しばらく私の心臓はドキドキし続けている。日本にいた頃好きだったロマンス小説では、ヒロインは我慢しているだけで色々とヒーローが察してくれて尽くしていた。


 でも、実際はこうしてちょっと勇気を持って欲しいものを相手に言った方がいいのかも知れない。我慢していれば報われるなんて、戦時中の日本人「欲しがりません、勝つまでは!」と似たようなものかもしれない。


 ドキドキして緊張したが、やっぱり言って良かったかもしれないと思った。

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