25話 パンケーキシンドローム
「マスミ! 今日焼いたクッキーを味見してみて」
クラリッサの家に帰るとデレクに迎えられた。
この男も顔だけはロマンス小説に出てきそうだが、金持ちの女性に色仕掛けうして金銭を得ようとしていた事を思い出す。今は改心したが、やっぱり昔やった事の印象は拭えないと思ってしまった。しか、この屈託のない子供のような笑顔は見ていると可愛いペットに会ったようでホッとする。
「クッキーできた?」
「うん、アビーとジーンにもラッピングして貰って綺麗にできたよ」
デレクと二人でキッチンに行き、お皿に乗ったクッキーを貰う。一応この国にもクッキー型はあるようで、お花やハー型のクッキーで見た目も可愛らしい。
「美味しい! これならケイトに渡しても大丈夫ね」
「良かったよ。アビーもジーンも頑張ったから」
「二人は?」
「疲れたって昼寝しちゃったよ。よかったね。これで、何か事件の手がかりが見つかるかも!」
推理小説が好きだというデレクは僕も事件調査をしたいとブーブー文句を言っていた。
「まあ、それは良いけどデレクは誰が犯人だと思う? 死因も何か気になるのよね」
デレクもクッキーを一枚齧り、しばらく考えていた。
「そうだなぁ。犯人は意外な人物さ。ミステリでは、怪しい人物が犯人だなんて無いよ」
「そうかなぁ。やっぱりソニアかしら?」
私は、今まで知った事実を軽く話す。リリーやジャスミンの事はとても郊外出来ないが。
「まあ、ソニアも怪しいけどケイトも怪しいね」
「そう?」
「子供のことで言い争いしてたんだろ。たぶん、妊活かなんかで揉めてたんだ」
「旦那を殺しちゃったら、それこそ産めなくなるじゃない」
「逆さ。旦那は子供を望んでいたけど、ケイトはそうでもなかった」
「確かに…」
ケイトはどうも子供好きには見えなかった。アビーやジーンへの態度がよそよそしいし、何となくクールなタイプに見える。私は学校の先生をしていたぐらいなので、子供は嫌いではないが。
「死因はどう? 本当に毒きのこかかしらね」
私は今日借りた毒きのこの本をパラパラとめくる。たぶん毒性のあるヘロヘロダケがシチューに入っていたと思われるが、そこの箇所を見るとやっぱりそう強い毒性は無いらしい。大量に食べない限り死には至らない。
「という事は、その前に毒を盛られたのさ」
デレクは自尊満々である。
「毒をもるチャンスがあるのは妻のケイトだな」
「でも、デレク。証拠はないのよね」
ちょうどそこにプラムが入ってきた。コップに水を注ぎ、飲んだ後に私達の推理話に加わる。
「マークの家に行ければ良いんだけどな〜」
「デレク、そんなの出来るかしらね」
「まあ、私ならマークの家に勝ってに入って色々証拠を探すわね。アンナだって似たような事してたもの」
そう言ってプラムはヒヒヒとちょっと邪悪な笑みを見せる。そこまでするのは気が引けるが、死因がわからない以上捜査は進まない。結局、プラムと一緒にマークの家に行くことになった。自分一人でこんな捜査をするのは怖いが、プラムが居るなら心強い。デレクはカフェの準備があるので行けないが、正直なところ男のデレクよりプラムの方が頼もしい。
「あれ? この小麦粉捨てちゃうの?」
ゴミ箱には小麦粉の袋がそのまま捨ててあった。
「ああ、この小麦粉は湿気の多いところにあったし捨てる事にしたよ」
「え? なんで?」
「どういう事?」
私とプラムは同時に声をあげた。
「小麦粉って実はダニが入りやすいんだよ。うっかりそれ食べたら死ぬ場合があるよ」
「え?」
死ぬなんて聞くと怖い。
「パンケーキシンドロームって知ってる? 保管状態は悪いパンケーキミックスで作って食べるとアナフィラシキーを起こして死ぬほど事があるんだ」
デレクの話にゾッとする。あんな美味しいパンケーキが死に繋がるなんて。ちょっと信じられないが、昔父がお好み焼きを食べて蕁麻疹ができていたのを思い出した。ダニ入りのパンケーキミックスで作って死ぬ事はあり得る。自分もジミーに料理を作りにいっている。気をつけなければ。
「これは、事件と関係ある?」
一応二人に聞いてみた。
「あ! でも、マークの苦しみ方ってアナフラシキーショックだった感じもするな…」
デレクの呟きが引っかかる。
・パンケーキで人殺し可能
私は一応メモに書く。確かに保存状態の悪い小麦粉を使えば人殺しは可能だった。
「デレク、パンケーキシンドロームについて他に何か記憶ないの?」
プラムはデレクに食いつくように聞いた。
「確か喘息もちの人はアナフィラシキー起こしやすいはずだよ。あと、食べて十分ぐらいで症状が出るらしい。火を通しても起きるし、鰹節やポテトチップスなんかでもダニがわくらしいよ。専門学校で料理を習っている時に聞いた」
この事が事件に関係無い可能性が高いと思うが、やっぱり少し気になった。




