22話 お菓子を作りましょう
クラリッサはリビングで本を読んでいた。プラムはその隣でブラックティーを注ぎ、お茶を楽しんでいた。
ちなみにアビーとジーンは、庭で遊んでいる。この広い庭ではしゃいでいて、牧師さんが思うほど心配はいらないだろう。デレクは、キッチンできのこ料理を作成中。今日はきのこグラタンらしい。
「あら、マスミ。慌てた様子ね? どうしたの?」
クラリッサは顔をあげ、私に聞いてきた。
私はプラムの隣の椅子に座り、ソニアが誰か聞いてみる事にした。
「あぁ、ソニアね…」
「ソニアか…」
二人ともちょっと苦笑していた。どうも二人はソニアについていい印象がないようである。
「誰ですか?」
「この村の人よ。まあ、あんまり出て来なけどね」
クラリッサはそう言うが、私は会ったことはない。きくと職業は画家で、しょっちゅう取材旅行にいっているという。最近帰ってきたそうだが、村にあるアトリエにこもり、なかなか出てこないそうだ。
「どんな人ですか?」
「そうねぇ…」
クラリッサもプラムもなかなか話さない。何か事情ありそうな人物だと察する。
「ジェイクとのソニアはどんな関係ですか?」
ジェイクの事など全く興味はないが、まさか女の事を考えていたとは。意外すぎて、ギャップがある。てっきり仕事バカとばかり思っていた。
「彼女はジェイクの元婚約者。ソニアも家柄だけはいいから、ジェイクの両親がお見合いするように言ったのよ。ジェイクの家はあれでも結構お金持ちだからね」
今度はプラムが言いにくそうに話す。元婚約者という事は、婚姻には至っていない。という事は、何かあったのだ。
「最初はけっこうあの二人中良かったんだけどね」
クラリッサはそう言って、ブラックティーをすする。
「でも、あの女は別の男と浮気したのよ。可哀想なジェイク。その事ですっかり女性不審になって、恋愛にも興味を無くしたの」
プラムは吐き捨てるように言った。
「男好きの嫌な女よ」
普段温厚なクラリッサもため息をつく。どうやらソニアも嫌われているようだ。
しかジェイクのあの態度は、ソニアの未練があるとしか思えない。
「ソニアは事件と関係ある?」
ノートを出して二人に意見を聞く。
「さあ? でもソニアのアトリエは霧の森に近いし、毒きのこ入手も簡単よ」
私はクラリッサの言葉をメモに取る。思っても見なかった容疑者が急浮上である。
ジェイクと関係があった女とは。会った事はないが、二人の話を聞く限りろくでもなさそうな女だ。
マークとの関係は不明であるが、気になる女だ。無闇に疑うわけではないが、評判が悪いとなると事件との関係性もあるかもしれない。毒きのこを入手出来るチャンスもある。
「ジェイクはまだソニアに未練がありなのかな?」
あのジェイクの姿を思い出すと、その可能性があるだろう。
「可哀想なジェイク。変な女に関わると男の人生もめちゃくちゃになるわね」
クラリッサは呟き、ブラックティーを飲む。
「ところでマスミは事件調査は順調? 牧師さんにあった?」
プラムの言葉に私は頷く。
「でもさっぱりよ。牧師さんは、マークとケイトがいい嵐っていたのを聞いたそうだけど」
「怪しいじゃない! ケイトはきっと何かを隠してるわ」
クラリッサはちょっと大きな声で指摘する。
「ケイトと接触できるといいけど、どうすれば…」
そう呟いた時、アビーがやってきた。ケイトと聞いて何か勘づいたのかはわからないが。
「私もケイトに会いたい!」
アビーのワガママには今回に限っては同意である。
「ケイトの絵を描いたもん。渡しに行きたい」
「そうよ、アビー。渡しに行けばいいわ」
「ちょっと、プラム。そんな私達が押しかけて大丈夫?」
「大丈夫よ。アビーを連れて、村人として心配だから来たって言えば怪しまれないわ」
プラムのアイディアは一理あった。確かアビーを連れて行けば、まさか殺人事件の事を調べているようには見えないだろう。
「まあ、マークが死んですぐ行くのもね。明後日は空いてる?」
クラリッサに言われて、私はスケジュールを確認する。明後日はジミーの家の仕事がないので、午前中は空いている。
「だったら、いいじゃない。ケイトに探りを入れましょう!」
クラリッサの提案に私もプラムも同意した。アビーはキョトンとしていたが、ケイトのところに行ける事は理解したようでキャッキャと笑っていた。
「でも手ぶらで行くのは、ちょっとなぁ。お菓子でも持って行けたらいいんだけど」
この村にはろくなお菓子がないが、どうしたらいいだろうか。
「お菓子がなかったら何か作ればいいじゃない?」
「プラム、何作ればいいですかね?」
私頭を悩ます。パンケーキやフレンチトーストは持っていくのに色々と問題がある。
「そっか。クッキー見たいのがいいけど、作り方がわからない」
クッキーやシフォンケーキのようなものがいいのではと閃くが、ここでレシピがない。
「それデレクに協力願いましょうよ」
「クラリッサ、デレクはカフェの準備で忙しいですよ」
私が心配そうにいうが、クラリッサは自信満々に宣言した。
「いいえ、デレクに協力してもらうわよ。それにカフェの出資者は私なんだから、何を置いてもやらせるわ!」
デレクはクラリッサにかなりの借りがある。この提案は断れないだろうと思った。




