18話 フルーツサンドへの希望
事件があってあんまり深く眠れなかったが、それでも朝は来る。
今日は午前中、ジミーの家に行く仕事がある。それが終わったら、牧師さんが居ると思われる隣町の警察署に行く予定である。何か差し入れを持って行くべきかわからないが、とりあえず新品の聖書を持って行く事にした。クラリッサの家の書斎にあったもので、持っていっていいと言う。たぶん牧師さんが一番必要なものと思われた。
午前中は仕事である。事件があったとはいえ、せっかく始めた仕事は潰そたく無い。
私は、カバンに聖書を入れるとジミーに家に向かった。
その途中、商店街にいってみたが意外といつも通りだった。もちろんマークの変な名前のパン屋は閉まっていたが、ミッキーのパン屋やリリーの雑貨屋は開いていた。
「リリー、おはよう」
私は、見店で品出しをしているリリーに声をかける。いつもの様な明るい雰囲気はまるでなく、表情は鬱々としていた。
「あぁ、マスミ。おはよう」
「どうしたの?元気なさそうね」
「えぇ、まさかマークが」
その死を悲しんでいるというより、何か隠し事があるような雰囲気だった。特に根拠はないが、杏奈先生やカーラが亡くなった時の反応とまるで違う。
「何か困ってる? 話きこうか?これは別に仕事じゃなくて、友達として。心配よ」
そう言うと、リリーは涙を堪えるかのように唇を噛む。
「うぅ、マスミ…。明日は時間ある?」
「ええ。午前中はジミーの家に行くけど、それ以外の時間だったら」
「う、うん…。わかった。明日話聞いて」
「ええ。元気出してね」
そうは言ってもリリーの表情は重かった。事件に関係があるかは謎だが、リリーはマークに心酔していたし、何か手がかりが掴めるかもしれない。
リリーに雑貨屋を後にすると、ミッキーのパン屋に向かう。
中地半端な時間なので他に客はなく、パンの品数も少なめだった。
「ミッキー、こんにちわ」
「ああ、マスミか」
ミッキーの表情み少し重かった。田舎パンを注文し、切り分けてもらうがその表情は重い。
「ミッキー、あまり元気がない様ね?」
「ああ、まさかマークが死ぬなんてさ」
「何か知ってる事はない?」
ミッキーに聞くが、私が知っている以上に情報は得られなかった。
「でも同業者が亡くなるのはいい気分はしないな」
「そうね…」
ミッキーはパン作りが大好きな男だ。例えライバルの業者があっても殺しはしないだろう。それは杏奈先生の事件で証明されている。杏奈先生もパンをカフェで売っていたが、ミッキー自身は嫌がらせなどはしていなかった。あの事件の時はミッキーを疑ってしまって悪い事をしたと思う。
「マークのパンは意外と美味かった。確かにふわふわだが、甘すぎない。アンナのパンは甘すぎて食べられるモンじゃなかったが、ミッキーのパンは意外と美味しかったよ。死ぬ前に作り方とか聞いてみたかったな」
「あなたは作れない? あのパンは日本風で懐かしかった。あれはフルーツサンドにしたら美味しそう」
「フルーツサンド?」
ミッキーはフルーツサンドに食いついた。食パンにクリームとフルーツを挟むもので、確か断面が可愛いとちょっとしたブームになっていた事を思い出す。
「そんなパンもあるのか。まだまだ俺も勉強不足だな。作ってみたくなったぞ」
「是非作って。話してたらフルーツサンド食べたくなちゃった」
「おお、柔らかいパンも面白そうだ」
杏奈先生が生きていた頃とは信じられない事をミッキーが言う。事件については収穫はないが、ミッキーにフルーツサンドの情報を提供できてよかったかみしれない。
「じゃあね、ミッキー」
「おお、マスミも事件調査頑張れよ。俺も牧師さんはやってないと思うから」
私はそもの言葉に笑顔を作り、ミッキーのパン屋を後にした。
一応変なマークの名前のパン屋も覗いてみたが、やっぱ人影はない。
新しくきた住民がこんな事になるなんて。
マークにいい印象はなかったが、死んでほしいなんて思っていなかった。やはり一刻も早くこの殺人事件の犯人を捕まえなくては。




