15話 25回目の殺人事件です
きのこ祭りは確かに私も楽しみだった。
しかし、人が来るかどうかわからない感じだった。礼拝堂は、先週と同じように人が集まっていない。今日きたのは、クラリッサ、プラ、デレク、ミッキーの四人だけだった。ダニエルは仕事が入り、王都に戻っているという話だった。
「やっぱりあの偽預言者にみんな信じ切ってるよ」
ミッキーはガラガラな礼拝堂を見てため息をついていた。
「今日はきのこ祭りだけどみんな来るかしら。噂だとリリーやアナもマークの言う事に夢中みたい」
プラムは心底ウンザリしているようだった。私もつい昨日、リリーとアナとマークと一緒にいて話をしているのを見かけた。妙に親密そうな雰囲気もあり、それは心配になる。一応きのこ祭りがあるので、二人も誘っていたがあの二人は来るのかはわからない。
「まあ、大丈夫よ。この村の人達は食い意地が意外とはってるから、絶対来るわよ」
クラリッサは余裕だった。まあ、あまり心配していても仕方ない。
時間になり、牧師さんも礼拝堂に入ってきた。讃美歌も少人数ながら歌い、説教も聞く。その途中でアビーとジーンが礼拝堂に入ってきた。途中参加とはいえ、今週は一応参加しているので牧師さんも特に文句は言わなかった。
その後、教会の庭に机を置き、その上のきのこ料理をみんなでて早く並べる。
きのこシチューは、再び温めながら配る形を取ったのであたりはいい匂いに包まれる。
その匂いに釣られたかどうかはわからないが、ポツポツと村人がやってきた。牧師さんを一人で働かせるのも大変なので、みんなで配るのを手伝う。
市役所職員の村人が多い。マリーの姿が見えた。カーラの事件のときに知り合った女性だが、今日は少しバツが悪そうである。
「マリーじゃない。いらっしゃい」
私は声をかけながら、紙皿にのったきのこピザを渡した。
「何で礼拝来ないの?」
「だって変な噂が流れてるんだもん…」
マリーは噂好きで最新の噂も仕入れている。
「どんな噂?」
「この教会が異端で悪魔崇拝やってとか…」
この話を隣できいていたプラムが眉を釣り上げる。
「誰がそんな事言ってるのよ?事実無根よ」
「ああ、プラムもこんにちわ。誰がってみんなよ。でも事実無根なのね?」
「そうよ。そんな事言うならこのピザあげないわよ」
私がそう言うとマリーは素直にみんなに謝り、牧師さんからシチューをもらっていた。ちょっとキツい所もあるが、意外と素直な人だ。カーラの事も嫌っていたが、最終的にはその死をとても悲しんでいたし。
それにしてもそんな噂があるとは。誰が噂を流しているかはわからないが、どうも牧師さんに悪意を向けている存在があり様な気がしてならない。
リリー、アナ、ジャスミン、ジェイクに姿は見えなかったが、ネルやローラの姿が見える。ローラはカーラの友達だったが、今はこの村の農家で働いている。
「こんにちわ」
よく陽に焼けたローラがやってきた。カーラに事件の時と比べると、肌艶もよくなっている。
「こんにちわ、ローラ。あなたも何で礼拝来ないの?」
私は口を尖らせる。
「変な噂を聞いてさ」
ローラもバツが悪そうである。
「異端カルト教会とかって聞いたよ」
「誰に?」
プラムが睨みつけて言うので、ローラは早口で噂の元が誰か言う。
「リリーやアナが言ってたよ」
「へぇ。あの二人は完全に寝返っているのね」
ちょっと怖いが、プラムの気持ちもわかる。あの二人がこうも簡単にマークの偽預言に騙されるとは思わなかった。
「まあ、そんな噂は嘘よ。きのこ料理楽しんで!」
「うん、ありがとう」
ローラがきのこ料理を受け取ると、今度はネルがきた。ネルはもともと身体の調子が少し悪いと聞く。今日きのこ祭りに来るとは思わず、私はちょっと嬉しかった。
「これがピザなの? 私の母もこんな料理がある事は聞いてないわ」
あっちの世界にある新しい料理はやっぱり珍しいにだろう。
「このピザが僕が作ったんだよ!」
デレクは人たらしっぽく笑顔を見せて、ネルもくしゃりと笑顔を見せていた。
「でもあの新しくできたパン屋も気になるね」
「どうして? ネル」
まさかネルも偽預言に興味があるのだろうか。
「いえ、ふわふわなパン売ってるんでしょ? うちの母も似たようなパンをよく作っていたから懐かしいなって」
予想と違って、ネルは単純にパンに興味があるらしかった。
「じゃあ、またきのこ狩り一緒に行きましょうよ。ところでアビーとジーンはどこ?」
そういえばちょっと目を離した隙に子供たちが見当たらない。
「どこ行ったんだろ」
私はこの場を離れて牧師館に方に行く。
アビーとジーンはリビングで絵を描いていた。二人はケイトによく似た女性の顔を色鉛筆で描いていた。
「アビー、ジーン何やってるの?」
「この絵をまたケイトにあげるの!」アビーは上手く描けたでしょとどや顔である。子供らしい絵だが、特徴は掴めていて下手ではない。
「うん、上手だと思うわ。ジーンの絵も色使いがカラフルでいいわね」
「わーい!」
私が褒めてやると二人はキャッキャと喜んでいた。
「マスミ、ケイトは来てる?この絵をプレゼントしたい!」
「僕も!」
「そうね。たぶん来てるかもしれないから、一緒に庭の方にいきましょう」
二人は素直についてくる。いつもと違って妙に聞き分けがいい。母親に似たケイトの存在がやっぱり大きいのだろうか。私や牧師さん、ミシェルでも手をつけられなかった事を考えると、この事は良いのか。少し微妙な気持ちになる。
庭に行くと、そのケイトとマークが一緒に来ていた。来ない可能性も高いと思っていたので、ちょっと驚く。
「ケイト!この絵かいた!」
「僕も!」
二人さっそくケイトにまとわりつき、絵を見せていた。
「あら、けっこう上手じゃない」
昨日と違ってケイトは、子供二人に笑顔を見せていた。ちょっとほのぼのする光景ではある。やっぱり、あの二人には母親が必要なのかと考えているとき、マークに話しかけられた。
「マスミさん、ですね?」
「ええ、そうですけど…」
「あなたには悪霊がついている。どうかな?この後一緒に話そう。悪霊を払ってあげ…」
「けっこうです」
マークが言い終わらないうちに断る。どうやら今日きたのもこんな風に勧誘つもりだろうか。マークはまるで獲物を探す熊のような視線できのこ祭りの客達を見ていた。嫌な感じである。プラは、まるで弾丸のようにマークを睨みつけていたが、当の本人は鈍いのか全く気づいていなかった。
「まあ、そう言った悪霊追い出しとかはどうでもいいので、きのこ料理食べません?きのこのピザ、マリネ、シチューがありますけど、もうだいぶ減ってますよ」
私がそう言うとマークとケイトは列に並んでいた。
「ま、僕はあんまりお腹空いていないんだけどね」
マークがそうボソッと呟いているのが私の耳にも届く。どうやら一言多いタイプらしい。この男はやっぱり接客業は向いていないような気がする。売り物のパンは意外と不味くはなかったが、一言多いタイプに見える。
「ふうん、きのこのシチューか。不味くは無さそうだけどな」
牧師さんにも一言多くいい、シチューを受け取っていた。
まあ、それでも口をつけているようだから心の底から言っているわけでは無いようだが。
ケイトも受け取ったシチューを食べ始める。
「あなた、美味しい?」
「うん、まあ…」
しかし、マークはそう言った後胸をかきむしり始めた。顔は、ゆでダコのように赤くなり、呼吸も荒い。ただごとではない様子でこの場のみんなが慌てていた。
「ちょっと、あなた!どうしたの!」
ケイトは泣き出しそうだ。身体を必死にさすっている。
「あの、きのこ…」
マークはうめきながらそう呟いた後、ぐったりとしその場で倒れた。
「ちょっと!あなた!」
みながマークやケイトの周りに集まってくるが、マークは倒れたまま動かない。
「誰か!」
ケイトの絶叫が響いた。
「マークは死んだ!」




