12話 村に蔓延する嘘
翌日、嫌な予感は的中した。
日曜日でクラリッサやプラム、デレクと一緒に礼拝に行った。
私はクリスチャンでは無いが、どうせ村人達は全員礼拝に行ってしまうので仕事にならない。それに牧師さんの説教も意外と面白いし、礼拝が終わるとちょっとした軽食が出るのもちょっと楽しみではあった。
みんなで教会にいく道すがら、リリーやアナ、ジェイクに会った。
「みんな、おはよう! 礼拝行くの?」
私は明るく声をかけたが、この三人はなぜか表情が暗く「しまった!」という顔を見せている。
「みんなどうした?なんかいつもと様子違くない?」
デレクがにこやかに言ったが、三人とも変な表情は隠さない。
「今日は礼拝に行くのやめようかと思うの」
リリーは非常の言いにくそうにいい、アナやジェイクも呟く。
「え? どうして? みんな、毎週出てたじゃない」
「そうですよ。何が問題でも?」
クラリッサやプラムに問い詰められ、この三人は逃げるようの商店街の方に続く道に行ってしまった。クラリッサはともかくプラムはちょっと怖い雰囲気なので、問い詰められるとちょっと逃げたくなる気持ちはわかるが。
「どう言う事?」
私はクラリッサ達と顔を見合わせる。
「さあ、でももう放っておきましょう」
プラムはスタスタと教会の方に歩いて行き、私達もそれに続いた。
教会につき、礼拝堂に入るがいつもと明らかに様子が違っていた。
いつも早く来てピアノの演奏をしてくれるジャスミンも居ない。ジャスミンだけでなく、村人がほとんどいなかった。パン屋のミッキーだけが最前列に座り、聖書を読んでいた。
明らかにおかしい。
クラリッサやプラムも怪訝な表情を浮かべながら二列目に席に座る。
私もミッキーの隣に座り、事情を聞く。デレクも私と反対方向のミッキーの隣の席に座った。
「ミッキー、おはよう」
みんなでミッキーに挨拶をし、彼は聖書から顔を上げる。
「ああ、おはよう!」
「みんなどうしたの?何でこんなに人が少ないのよ?」
私の代わりにプラムがちょっとイライラしながら聞く。
「それがさ、あの変な名前のパン屋が新しい本物の初代教会を作るって、みんなを勧誘してるんだよ。悪霊追い出しだけでなくてな」
ミッキーの言葉に一同驚きで言葉もない。村人は確かに敬虔な信者とはいえないが、まさかこんな事で手のひらを返すとは予想できなかった。
「悪霊追い出しなんれ、別に聖書の言葉信じてたら必要ないじゃない?」
デレクもこの事については、ちょっとイライラしている。彼も別に敬虔な信者では無いが、一般的な日本人の私にはちょっとわかりにくい感覚ではある。
「でもみんなあのパン屋の言う事に夢中だな。別にパンのあの評判は良いわけではなさそうだが、このままあの店主がカルト化したら良いですちょっと大変かも無い…」
「そんな…」
ミッキーは不安を隠せないようだった。
ちょうどそこへダニエルが礼拝堂に入って来た。彼もちょっとイライラした様子だった。
「全く何なんですかね、あの偽預言者みたいなパン屋は」
そう言ってクラリッサの隣の席に座る。
事情をとダニエルもマークに「悪霊がついてる、追い出してあげよう」と脅されたらしい。
「全くそんな悪霊なんてあり得ないですよ。もしそんなのがあるなら、私は牧師さんに頼みますよ」
「そうだな、ダニエル。やっぱりあのパンはおかしい」
ダニエルとミッキーは完全にマークを嫌っているようだ。
「それにしてもジャスミンやジェイクまで来ないなんて」
それでもいつもよりスカスカな礼拝堂を見ると不安は隠せない。
時間になります牧師さんが入ってきて礼拝が始まった。
意外にも牧師さんはいつも通りに説教をしていた。この場に村人がいない事も完全の無視している。ただ人が少ない為に讃美歌演奏は、地味な感じだった。牧師さんがピアノ演奏をしていたが、あまり音感がないのかたまに音を外していた。
アビーとジーンもいなかった。いつも讃美歌演奏の時は大きな声で子供らしく歌っているのに。この事も心配だ。
こうしていつもより地味な感じで讃美歌演奏が終わり、礼拝が終わった。
最後の牧師さんは、ポツリと呟く。
「やっぱりみんな悪霊を追い出してくれる人が好きなんですね…」
牧師さんはスカスカな礼拝堂の座席を見回し、遠い目をしていた。今まで見た事のない虚無な目で、牧師さんの精神状態が心配になる。しかもこれだけ人が少ないので、いつもある軽食の時間も中止になってしまった。
男性陣のミッキー、ダニエル、デレクは礼拝は終わると仕事や仕事の準備があると帰っていった。本当に仕事があるかどうかは不明だが、この人のいない礼拝堂にいつまでも残っていても無駄かもしれない。
「牧師さん、大丈夫?アビーとジーンはどうなの?」
一方、私を含めてクラリッサとプラムの女性陣は牧師さんに詰めよった。
やかましい女達に問い詰めらて、牧師さんは面食らっていた。そばで見ると牧師さんの目の下は真っ黒である。これで「大丈夫」などと言われても、嘘にしか思えない。
「アビーとジーンはふて寝してすよ。ケイトが母親じゃないと言い聞かせたら、泣いて暴れて大変だったんです…」
苦い溜め息をついていた。アビーとジーンが暴れている様子が容易に想像ができる。牧師さんには同情心しか持てない。
「まあ、それはしょうがないですよ。問題は、みんなマークの所に行ってしまった事ですね…」
さっきよりも深く牧師さんは溜め息をつく。アビーとジーンの件よりこちらの方が牧師さんを悩ませているらしい。
「でも、どうして?何で急にみんなマークの所に行ってるの?」
クラリッサは心底信じられないと言う風に口をとがらせる。
礼拝堂の大きな窓からは、平和そのもののような秋の日差しが差し込んでいたが、やっぱり何かおかしい。また殺人事件でも起きそうな嫌な悪寒がする。もしそうなってしまったら遅い。事件が起きる前にマークの事を調べても良いかもしれない。この後、さっそく彼を調べてみよう。
「人間は基本的に邪悪ですよ。厳しい事をいう牧師より、耳に優しい事を言う偽預言者をみんなが信じるのは不自然ではないですね」
「ちょっと牧師さん、諦めるに早いわよ」
すっかり達観している牧師さんにプラムがツッコむ。
「まあ、でもあんな偽預言者について気にしてもしょうがないわよね。私は、サムエル記の事がちょっとわからないからあとで教えてくれる?」
「言うですよ!」
クラリッサのこの提案に牧師さんは目をキラリとさせる。
「まあ、きのこ祭りを次の日曜日に開くので、それできっと人は戻ってきますまるで自分を励ますかのように牧師さんは言う。
「そうかなぁ…」
そうは言っても、私は不安が付き纏った。




