11話 パンは意外と不味くは無い
その後、泣いてるアビーとジーンを無理矢理引き剥がし家に帰って行った。
突然の事で私も混乱状態だったが、私が出来る事もないだろ。
今日収穫したきのこが入ったバスケット担ぎ、クラリッサの家に直行した。
このきのこは全部デレクに渡し、夕食はプチきのこ祭りになる予定だった。きのこと野菜のスープに、きのこと鶏肉のトマト煮、そしてあのパン屋の食パン。
「へぇ、これが新しいパン屋の食パン?」
デレクはきのこよりもマークのパンに興味津々だった。
「すごい、ふわふわ。意外と不味くはなさそうだよ」
「本当?」
デレクはパンを見ながら呟いた。確かに記事はふわふわで柔らかそうで近くで匂いを嗅ぐと、甘いいい匂いする。主食にパンというよりはデザート系のパンで、日本を思い出して懐かしい。たぶんこのパンはフルーツサンドなどに合いそうだ。トーストしてジュースペーストをつけても良いだろう。
「まあ、今日はこのパンをトーストして食べようか?」
「そうね。意外と美味しそう…」
夕食は、きのことこのパンで盛り上がる。
「あら、この変なパン屋の意外と美味しいじゃない!」
クラリッサはトーストしたふわふわな食パンを何もつけずに食べていた。
「確かに味は不味くないわね…」
プラムもパンの味は認めていた。複雑な表情ではあったが。
「ちょっとトマト煮のスープをつけても美味しいね」
デレクはクラリッサと同様に屈託なくパンの味を楽しんでいた。
「まあ、意外と料理にも合うわね…」
どうせ味も甘ったるいと思っていたが、意外とそうでもなく食事ともあってしまった。店にいた時はどうせすぐ潰れるだろうと嫌な事を考えたわけだが、こうして実際にパンを食べるとこの土地の人間の口にも合うように調整されているように感じた。
だからこそ理解できない。というか残念な気持ちになる。なぜ悪霊がいるなどと言って村の人を脅しているのか。
「マスミはきのこ狩り楽しかった?アビーとジーンの様子は?」
クラリッサの質問に私はすぐに答えられなかった。食卓の上はきのこ料理祭りで華やかだが、アビーとジーンの泣き顔を思い出して胸が痛む。
「どうしたの?マスミ」
察しのいいプラムが聞く。
「あの、実は…」
アビーとジーンの事を話す。話して何とかなる問題でも無いだろうが、やはり自分の心だけにしまって置くのも気が引ける。怪しいパン屋の妻がアビーとジーンの母親とそっくりだったなんて。きのこ狩りで二人のメンタルが安定しかけたように見えたが、これで逆戻りかもしれない。もっと悪くなる可能性もあるし、みんなの意見も聞いて見たかった。
「あぁ、そういえばケイトはあの子たちの母親にちょっと似てるわね…」
プラムはケイトを見たこ事あるのか深く納得していた。
「でも瓜二つって感じでも無いわよ。ちょっと雰囲気が似てるかな?ってレベル。すぐに飽きるんじゃない?」
「そうかしら、プラム。あんな小さな子たちにとって親が殺人事件の犯人だなんてかなりの衝撃よ。親に似た人物に会うなんて、かなり心が乱されるんじゃない?」
クラリッサの言う事はもっともだったが。
「本当にそんな殺人事件ばっかり起きているんですね」
デレクは全く別の視点で感心していた。もう殺人事件に慣れきっている村の人はともかく、デレクや私は新参者だ。やっぱりこの話題は慣れない。きのこ料理もあのパン屋のパンも意外と美味しいが、気分はちょっと沈んでいく。
「この村は呪われているんじゃない?」
しかもデレクがそんな怖い事を言う。
「カーラも死んじゃったしさ」
「こら、デレク。そんあ非科学的な事は言うんじゃありませんよ」
プラムは冷静だったが、こんな話を聞いて私は不安になる。
「まあ、殺人事件が起きても別に作品のネタにすれば良いしね」
作家でもあるクラリッサは、むしろちょっと喜んでいたが、やっぱりこの村の人達の不謹慎なノリは合わない。お国柄の問題か?杏奈先生の事件の時もカーラの事件の時も被害者を悲しむ十人がいたが、殺人事件そのものに全く大騒ぎをしていない。そのおかげで私が事件調査をするはハメになるわけだが。
「呪いとか悪霊とか本当にあるのかな?」
私はマークの言った言葉も思い出して呟く。
「あったりして?」
デレクは揶揄うようにヒヒっと笑っている。
「だったらどうするの?」
私はちょっとデレクを睨みながら言う。この男は人懐っこく、一応善良な人間ではあるが、やっぱり軽薄さが拭いきれない。自分の事を好きだとも言っていたが、どこまで本気かさっぱりわからない。
「マークっていう変なパン屋が言っていた事も本当かもな?ほら、パンやの名前だって『嘘も100回も言えば本当になる』じゃない? この村が殺人事件ばかり起こるのもきっと呪いだなぁ」
マークは笑いながら言っていた。クラリッサやプラムは呆れていたが、私はちっとも笑えない。
料理は美味しく、きのこ狩りだって楽しかったのに私の心は嫌な予感ばかり察知していた。




