表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

影響


いらない事は考えるだけ無駄で、結局、ドラ子の個展へ足を運んだ。





久しぶりに、本格的に外に出た。



日差しの暴力的なまばゆさが目の奥を突き刺す。

暑い。風の匂い。生きている心地がする。




会場に入ると、多くの人がいて、幾つもの飾られた絵たちが来客者を出迎える。




モデルやモチーフはどの絵も違っていて、綺麗な薔薇の絵があれば、長く凛々しく伸びた顎の絵もあった。

そのどれもが、優しい筆遣いで、それでいて力強くて…ドラ子の表現力に圧倒される。



「…ねぇってば!」


「わあ!」


「わあ!じゃないよ。何回呼んでも反応しないから立ったまま死んでるのかと思った。」


ドラ子はクスッと笑う。



正直、見入ってた。ドラ子の絵に呑み込まれてた。

ドラ子の絵を見てる間だけは、あいつのことを忘れられていた。



「ドラ子、すごいねほんとに。」


頭で考えるより思わず先に言葉が出た。

ドラ子には人を魅せる力がある。ほんとにそう思える絵だった。



「やめてよ、照れるじゃん。

そうだ、パカ美も絵。描いてみたら?

ここ最近、デジタルでしか描いてなかったでしょ?」



ドラ子の言う通り、私は就職してからパソコンを使い、画面上でしか絵を描いてなかった。



「絵の具の存在すら忘れてたよ。帰ったら描いてみようかな。今日はほんとにありがとう。」


「うん。こちらこそありがとう。元気になってもらえてよかったよ。」




あんなに落ち込んでいたのに。

本当に友達って、ドラ子ってすごいなって思った。

あの時ドラ子が電話をくれなければ、今頃私はどうなってたんだろう。考えたくもない。


大事な何かを思い出せた気がして、ふわふわした気持ちで帰路を辿った。



家に着き、玄関を開ける。

買い出しに行く用のサンダル1つだけが私を迎え入れる。



そうだ。あいつ、もういないんだ。



さっきまで嘘みたいに薄れていた孤独感が、時間差で、まとめて襲いかかってくる。



刺さるような寂しさに耐えながら押し入れの戸を開ける。

いつかを最後に使わなくなった黄色味がかったパレットと、頭が暴れた筆を奥から取り出し、強めに叩いて埃を払う。


あいつの思い出もろとも飛んでいけばいいのに。




涙を堪えながらイーゼルを立て、キャンパスを乗せる。

絵の具を少量の水で溶き、その上に筆をなぞらせる。



…までは良かった。

浮かばないイメージと走らない筆。

非情にも歩みを進める時計の針と、それに焦りを覚える私。

気づけばもう深夜4時。何時間考えてたんだろう。



出てこなかった。あの日の私とは違うんだ。

会社で、言われた作業をこなしていただけだったから?

ドラ子の絵には及ばないってわかっているから?

あいつと別れてしまったから?


理由は分からないけど、私が描けなくなったのは確かだった。



もうどうだってよくて、プライドなんか捨てて、

何か描きたいものを探すために私はSNSを開いた。




「そういえば、あいつ。今、なにしてんだろ。」



柏原あいつ(カミク)。名前を入れて検索してみる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ