衝撃
「もしもし?パカ美?ドラえもん見たかったけどホラー見せられ子(以下 ドラ子)だけど。」
ドラ子。通ってた美術専門学校で、コミュ障の私に出来た唯一の友達。
ドラ子には、よくあいつの愚痴を聞いてもらっていたが、
あいつとの関係がいよいよ悪くなってきた頃、私は病んで、ドラ子も含めた"周りの人間"との関わりを一時絶っていたから、声を聞くのは久しぶりだった。
「なんだドラ子か、どうしたの。」
「番号変わったから連絡したの。っていうか、なんだ、って失礼だなあ、ろくに連絡もしないで。」
「それはごめんじゃん。病んでたの。」
「病んでたって、会社辞めたから?」
「まだ辞めてないし。っていうかどこからその情報まわってんの。」
「風の噂ってやつかな。虫の知らせってやつかな。」
「なにそれ。ところで何の用?」
「ビッグニュースが2つあって、」
「まず1つ目。私、今度、個展開くの。見にこない?会社辞めたんだったら暇でしょ?」
衝撃だった。
ドラ子が描く絵は、確かに上手かった。
でも飛び抜けて上手いわけじゃなかったし、なんなら私の方が成績は良かった。
ドラ子の声から堂々たる自信を感じ取れる。余程努力したんだろう。
身近な存在だったドラ子が個展を開くという夢を叶えて、私の手の届かないどこか遠くにいってしまった気がした。
「すごいね、個展なんて。」
「あははっ、そうでしょ?絶対来てね。日時は〇日の〇曜日に博多の〇〇ってとこで…」
それ以降にもドラ子は何か話していたが、色んなショックで覚えていない。
が、私が相槌すら打てなかったことだけは記憶に残っている。
言葉が出てこなかった。
いつから差を付けられたんだろう。
私が小さな会社でイラストレーターとして働いている間、ドラ子は何をしていた?
個展の話はいつ決まった?誰が提案した?
普段どんな絵を描いている?絵を描いている最中、どんなこと考えてる?
聞きたいことは山ほどあったけど、私の中の変なプライドが邪魔して聞けなかった。
個展にいったら、
ドラ子の絵を見たら私はどうなるんだろう。
自分の現状に嫌気はささないだろうか。
才能に嫉妬しないだろうか。
いらない事ばかり考えて、その日はあまりよく眠れなかった。