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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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人生負け組のスローライフは楽しい事で詰め込まれている事は誰にもわかるわけがない 4

「なんて顔してんだよ」


 時間はかかったけど着実に長沢さん達から受け継いだ技術をものにして今では一人で仕事を任せられるくらいに成長した宮下をきちんと褒めたのに何が不満かと言えば

「いくら頑張っても綾人みたいにかっこよくなれなくて悔しい」

「いやいや、宮下と俺との方向性の違いだから仕方ないだろう」

 方や職人系、方やIT系。

 音楽のジャンルで言えばクラッシックとロックほど全く違う系統をどう比べろと言えばいいのだろうかなんて宮下にどう説明しようか悩むのも俺の楽しみの一つだが

「いくら頑張っても綾人を追い越したなんて一度も感じたことないし」

「そうか?俺は宮下がいなかったらきっとこの家からとっくに逃げ出してたぞ」

 特にバアちゃんがいなくなってから体温計や薬がどこにあるかなんていまだに知らない。興味がないからどこにあるかなんて確認したことが無くって、いつも宮下達がどこからか持って来てくれるものを飲むだけのダメな人間なのは自覚して居ている。

 素直にいつもありがとうと言うように言えば

「そんな風に褒めても我が儘には付き合わないからね!」

「おう、代わりに香奈の我が儘に付き合ってこい」

 なんて障子を剥がしながら冷かしておく。

「もー!そうやって意地悪な事言わないで!」

 いまだに顔を真っ赤にして怒る宮下を楽しーなんてにやにやしながらも

「で、名前とか考えてるのか?」

「男の子か女の子かも判らないのに?」

「まだ判らないんだ」

 さすがに妊娠判った時期じゃまだわからないかと思いながらも霧吹きで得た水分をたっぷり含んだ障子紙は綺麗にぺろりと剥がれる。この感覚好きなんだよなーと破れる事なく綺麗に剥がれた障子紙を浮き出たヤニに沿って綺麗に畳む。風呂を沸かすときの材料として処分されるがよいとあけ放たれたドアからポイと音へと放り投げる。なんて雑な仕事だと言われるかもしれないけどバアちゃんがこうやってたからこういうものだ、間違いないと見習う事にしている。案の定ウコ達にチェックされるも美味しいものでもないし、巣材となるものでもないのでさっさと興味を失ってさっさと解散していったのをバカだなーと笑いながら見送りながら

「まあ、男の子でも女の子でもいいように両方用意しておけば?

 それか飯田さんちみたいにユニセックスな名前でもいいんじゃね?」

「薫と庵の他にどんなのがある?」

「さあ?考えたことないけどヒカルとかツバサとかよくありそうなのはそんな感じ?」

「なるほど……」

 さっそくスマホにメモってる当たり不安になるから

「そこは香奈と相談しろよ。ひょっとしたら何か考えてるかもしれないからな」

「はっ!」

「はっ!じゃねえ!」

 俺が言う事が正しいとなぜか思いこんでるふしがある宮下に注意をうながせば案の定と言うか例に取り上げた名前にしようとしていてスマホを取り上げてメモを消しておく。

「名前って親から最初に貰うプレゼントって言うくらいだから、ちゃんと香奈と考えよ。

 間違っても圭斗につけてもらったりお前のおじさんとおばさんに考えてもらったりするのは違うからな」

「そ、そこは判ってるよ!」

「漢字の意味とかの相談ぐらいはしてもいいと思うけどな」

「その時は綾人にお願いするね」

 どこまでも俺は頼られるらしいが悪い気はしない。

「じゃあ、生まれてくる子供の為にもちゃっちゃと張り替えよう」

「りょうかーい。だけどいつも思うけど終わらないねー」

「それー。一人でやると思うとぞっとするから何年かしたらまたお願いねー」

「お金貰う以上いくらでもやるけどねー」


 なんて穏やかな深山の穏やかな秋の一日。

 こんな日が続きますようにと願いながら一階の障子を貼り終わったから

「宮下ー、二階の障子持ってくるな」

「ちゃんとどこの障子か分かるようにもってきてよー」

「大丈夫。バアちゃんがマジックでメモしてあるからまず間違えないでしょ!」


「あ……」


 とても不吉な事を宮下が言ってくれたような気がした。

 何をしたんだかと目を細めれば、前回から数年とは言え木造建築と言うものは歪むもの。

 障子やふすまを外した時はその歪みに合わせて少しだけかんなで削ったりするのだが……


「綾人どうしよう!

 おしゃべりしているうちにメモをかんなで削った奴が分からなくなった!!」

「まて!下手に障るな!俺が覚えてるから……って、綺麗に掃除し過ぎでわかるか!」

「とりあえずはまる所にはめよう?」

「ああ、もうそれでいいか?!」

 なんてはまりそうではまらない障子をがたがたと賑やかな音を立てながら取り換えひっかえで取り付けたりと大騒ぎ。 

 何バカな事やってるのと言わんばかりに張り替えたばかりの障子の上を烏骨鶏が闊歩しては土のついた足跡を残し、時々爪で穴も開けていく様子に宮下も俺も涙を流す。


「張替えか?これもう一度張り替えるとか?」

「張替えよう?綺麗な障子でお正月を迎えたいよね?」


 乾かすために縁側に広げておいた障子をつつく烏骨鶏にやめてくれと慌てて家から追い出すのどかな昼下がりだった。








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