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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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足跡は残すつもりがなくとも残っていく 5

 被害はゼロだけどオリヴィエよ、ファンが見たら泣くぞと目の前にいるファンは心から申し訳ない顔をしていたのを俺は気にも留めずに背中をさすってやる。ほら、鼻からも出てるぞとティッシュを贈呈。

隣にいるマリユスは突然の展開に「え?」と言うように情けなさそうに話をする稔典を眺め、嫉妬の視線はいつの間にかかわいそうな子を見る目になっていた。

「今からマイヤー達にもお願いするつもりですが、よろしければ週末のレッスンの時先輩に一緒についていただいてきて、ここでレッスンを受けるのならお部屋をお借りしてレッスンを受ける環境が欲しいのですが、お願い出来ましょうか?」

 そこは爺さんの孫。

 甘え上手だなと家に帰る事の出来ない子供に友人は必要だと思うし、年上の友人。面倒を見てもらうにはちょうどいいし、オリヴィエだと友人と言うには少しなんもある。

 それにお互い身元がしっかりした家の子供同士、親も知っているし申し分もない。

 だけどお願いするからには子供と言えどもしっかり責任を果たしてもらいたい。

「まずはその提案をマリユスは受け入れているのか?」

 聞けばハッとしたかのようにマリユスを見上げ

「お願いしてもよろしいでしょうか?」

 まさかこの場での交渉に戸惑いながらも

「え?一緒に来るとか問題ないけど、補導されたのか?」

「二回に一回の割合で」

 その度にバイオリンを見せてレッスンを受けに行く事を説明すれば納得してもらえたのは学校の知名度のおかげだろう。

 と言うか、こっちに来てまだ数か月なのに二回に一回の割合は多過ぎだろうと話を聞いていた人たちも頭を悩ませてくれた所で

「一緒に行動するだけなら問題ないから。これからは一緒に行こうか」

 日本じゃ小学生が一人で電車に乗るなんて当たり前の事だけどこちらでは誘拐などいろいろ難しいというように住みにくさを感じてしまう。

「あとはマイヤー達にお願いだな。オリオールにもご飯をお願いしないといけないから。マイヤー達に許可がもらえたらオリオールにもご飯をお願いしに行け。

 泊る所はアイヴィーに用意してもらって、あとはマリユスだったな。ちゃんと親の許可を貰ってこい」

 言えば周囲で話を聞いていた皆さんは大笑いしながらいつの間にか俺達を囲んでいた。

 だけどそこは負けずにマリユスは父親にしがみ付いて

「ミノリをちゃんと送り届けて学校に連れ帰るからここにお泊りしても良い?」

 苦笑する父親からはOKとみてすぐに母親にもしがみ付く。

「ミノリを責任もって送り迎えするからさあ!」

 子供の成長を温かいまなざしで見守る母親は

「許可は出すわ。ただしマイヤーやオリオールの許可がもらえてからの話しよ。

 それに演奏会が始まれば毎回お願いする事も出来ないのだからその時にはミノリを家に招待しなさい」

 同じ城で縁をつないだ者同士。こういった交流こそ留学の醍醐味だろうと言う奥様の意見に俺も頷く。まあ、俺の留学の時の様子を知っているからの機転かもしれないが、せっかく留学に来たのだからいろんな文化を学べばいいと思う。

 そこで許可が出た所で稔典とマリユスはマイヤーとゆかいな仲間達から許可を貰い、そしてオリオールにもいくつかの約束事をして許可を貰ってアイヴィーは二人を連れて城の空いている部屋を回って自室を決めさせ、あとはルームツアーと言うように屋根裏のレッスン場を見て回っていた。

 ありがたいことに二代前の城主がこの城をホテルとして使っていたので各部屋にはシャワールームがあったりトイレもちゃんとあったりする。学校の寮生活レベルは確保できるのでプライバシーが守られるのがこの城の良い点だ。


「綾人すまないな。息子が我が儘を言って」

 マリユスの両親がシャンパンを飲み終えた所で白ワインをもってやって来た。

 俺は気にするなと言うようにそれを受け取り

「悪いけどマイヤー達のレッスン料はあなた達で交渉してください。そしてここの滞在費は働かざるもの食うべからずだ。いつもと同じく体で支払ってもらうよ」

 言えば苦笑する二人。

 初めて来た時も果物を摘んだり花を摘んだりと忙しく働いてもらったことを思い出し

「出来そうで出来ない機会だ。社会に出る前に労働と言う機会を与えてくれることに感謝を」

 労働とは程遠いがそれでも親の背中しか知らない子供には刺激の多い環境。何よりそれを尊敬する人たちが率先して行動しているので文句なんて言うはずもない。

「こちらこそ稔典の面倒を見てもらえてありがとうございます。日本じゃ子供が電車をのるのは当たり前の光景だったので俺もうっかりしていました」

「ああ、時々日本に行くと子供が一人で通学している光景を見て驚かされるが、アヤトも子供の時はそうだったのか?」

 そこは肩をすくめて

「電車の乗り降りも勉強の一環です。何かと誘惑の多い東京なので親に連れて行ってもらうより自分で電車を乗り継いでいった方が早いので子供はみんな交通機関を活用しますよ」

 それだけ日本が安全な証拠。

 ヨーロッパではまだまだ難しい課題に政治家さんは難しい顔を隠しながらも思案する視線はいい勉強になったと言う所だろう。

「稔典の事よろしくお願いします」

「こちらこそ得難い機会をありがとう」

 そう言って握手を交わしたところでマイヤーとレッスン料の交渉に向かうのを見ながらこれが親のなのだと少し羨ましく思うのだった。





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