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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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足跡は残すつもりがなくとも残っていく 2

 多紀さんはこうやって人の事を勝手に撮ってネタにするんだろうな。だけど散々お世話になっているしなと思いながらも半眼で睨んでしまえば

「そうそう。話は戻るけどそのドキュメンタリーは映画の番宣も含まれていてね、僕が僕を撮影して綾人君を始めあの街を撮るんだ。もちろんメインは綾人君。蓮司と慧と一緒に今みたいにおしゃべりもしてもらうだけだから」

 真摯なまなざしに

「そこに宮下はいますか?」

 聞けばきょとんとした顔。

「宮下君?なんで?」

 当然のように聞かれた。

「俺と宮下が動画配信しているコンビだから。

 俺一人だけならお断りだね」

 少し悩む多紀さんだけどそれは一瞬。

「なるほど。となると僕達の考え方が悪かったね。

 綾人君はどこにも所属してない一般人だ。動画配信していてセリフのない役者さんより知名度は抜群にあるだけ」

 なるほど、もう一度そう言って強く頷けば少し席を外すよと言ってトイレに篭り、何やら誰かと話をする声がこぼれてきた。

 悪だくみしている証拠だというのはわかったけど、トイレに籠城するのはやめてほしい。蓮司が泣きそうだ。いや、むしろ泣け。


「とりあえず今なら多紀さんから逃げるチャンスだから帰るな」

「うん。今日は多紀さんが悪いから。出来れば俺も連れて行ってほしい」

「連れてってやりたいけど多紀さんをトイレに放置させるのはダメだろ」

「やっぱりダメか」

「ダメです」

 最後まで面倒見ろと言うも扉の向こうでは俺が知る人物とべ知人ではと言うくらいに何やら興奮するかのような怒涛の会話に俺はそっと蓮司のマンションから脱出をするのに成功した。 

 

「そんな恐ろしいトラップが設置されていたんですよ」

「恐ろしいトラップって、むしろ交渉している時点ですでに罠に嵌ってる所ですね」

「はっ?!」


 宮下をだしにして逃げだしたけど、単に要望を言っただけの言葉にすり替えられたことに気が付けば逃げついた先の飯田さんのマンションで俺はしばし固まっていた。

 その間飯田さんお手製のはちみつレモンを炭酸で割ってもらったジュースを用意してくれていた。

 これ、美味しいんだよな。

 レモンをスライスしてはちみつにつけただけなのになんでこんなにも美味しいんだろうと一瞬で多紀さんの事なんて忘れてにこにことはちみつレモンの炭酸割とはちみつレモンを飾るレモンケーキを頂く。

 飯田さん驚きのアビー直伝のレモンドリズルケーキではないがこれもこれでおいしいとベイクドチーズケーキに飾られたレモンケーキは油断すると一人でホール一台食べてしまいそうで恐ろしいと震えながらもこの美味しさには素直に負けておく。

 ほんと美味しいって正義だよねと飯田さんが四分の一をもっていってしまったのをさみしく眺めてしまう。

 だけどそこは飯田さん。

 俺のこんな視線なんてもう慣れましたと言うように確信した出来具合を楽しむように食べていた。

 美味しんだけどほんと美味しそうに食べるよなと飯田さんから言わせたら俺の方が美味しそうに食べていると言うが、自分の顔なんてよだれの跡と寝癖が付いてない程度にしか興味がないのでそこは割愛。

 だけど自分が作った料理をおいしそうに食べてもらえるって最高に幸せだよなと用意してもらえる料理だけでもありがたい俺でも嬉しいですかと問いたいけど返ってくる言葉はわかりきっているので改めて聞くまでもないので最大限美味しく頂く事を心掛けている。

「ですがドキュメンタリーですか。舞台あいさつに連れまわすのかと思っていたのですが?」

「んー、どうせ口実だろうね。

 まずは顔を出させてそれから世間になじませていくってね」

「ついにテレビデビューですか?」

「しませんよ。マイペースに動画撮るぐらいが精一杯です。

 これ以上仕事増やしたくないので」

「ですか?」

「イギリス、フランスの往復にアメリカのプログラミング、烏骨鶏と畑のお世話に動画の制作に金作。体が一つじゃもう足りなくなってます」

「うーん、金作はそろそろ終えられても十分じゃないでしょうか?」

「あー、そこは頭の体操な感じで使っているからトレーニングとして止めれませんね」

 あれぐらいのしびれるぐらいに使い込む感覚があると緊張感が保てるというか

「山で生活してると一週間って言う感覚がなくなるから、そういう意味でもやめられませんね」

「俺が毎週綾人さんの所に通わせてもらっているのに?」

「それはそれ、これはこれってやつですよ。

 何かしてるっていう一番わかりやすい目安にもなりますし」

 何やら藪蛇をつつきそうになったので慌てて話を逸らせばふーんと言うように俺のレモンケーキのレモンを一切れ持っていかれたのはこれで妥協してやろうっていう所だろう。楽しみに残していたのに…… しくしく泣きたくなるのをぐっと我慢して俺も妥協すればこの話はもう終わりとなり

「どのみちドキュメント撮影になろうがテレビ撮影になろうがその時は全力で協力するので迷惑になるからとか考えずに巻き込んでくださいね」

 紅茶を一口飲んで

「俺も綾人さん達の動画のメンバーの一人だと自負してますので」

 違いましたか?そんな確信を込めた笑みを浮かべて視線で笑う男に俺はもうお手上げと言うようにゆっくりと目をつむり

「その時は全力で協力をお願いします」

 まだ確定してない未来の話し。

 だけど多紀さんを少しでも知ることが出来るのならこの大きな可能性から目をそらしてはいけなく、それならそれで迎え撃つ準備を万全に整えるのが俺達ができる最大の多紀さんに対する嫌がらせ。

「ところでそんな想定で話しを詰めてみようとしません?」

 にやりと笑えば飯田さんもにやりと笑い

「青山から許可を貰う気全力で行きますから」

 その点は心配せずになんでも言って下さいと言うあたりほんと男前だねと二人で含み笑いをこぼして作戦を練るのだった。


 





 






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