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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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短い秋の駆け足とともに駆けずり回るのが山の生活です 8

 やっとたどり着いた庭の軒先に枝の束を置いた所で好奇心満載の烏骨鶏がさっそくこの枝は美味しい枝かと確認を始めた所で俺と飯田さんはそろって外の水場に向かって……


「山水冷たい!でも気持ちいい!」

「ですね!この冷たさでやっと汗が引きます!」  


 蛇口からあふれ出る水で順番に手を洗って顔を洗う。 

それどころか頭から水をかぶって洗う。

 それだけでも大満足だけど飯田さんが汗で張り付いたシャツを脱いだのを見て四十代になっても引き締まった体に少なからず嫉妬。先生なんかミートテックを装備しだしたというのにシェフっていう仕事ってどれだけ過酷なんだよと見知らぬ分野のお仕事に恐怖を覚えてしまう。

「先お風呂入っちゃってください。俺はこのまま枝をそろえておくので」

 汚れるなら先にやってしまえと小型のチェーンソーで薪のサイズに切りそろえると言えば少し逡巡して

「では先にお風呂頂きます」

 そう言って着替えを取りに行けない酷い格好に綾人が軒下で乾かしていたタオルを持っていく。ここではそれだけで十分だとその間に土間に置いてあるサンダルも持ち込んでざっと汗と泥と埃を流し落として

「っふうー……」

 自然にゆっくりと息を吐き出していた。 

 火照った体でさえじんわりと侵食する優しい熱に何も考えられなくなるけど、視界に広がる変わらぬ雄大な景色に掌ですくったお湯を顔にぶつけるようにして頬を両手で挟み


「公私混同要注意!」


 気合とともに自分に叱咤するように叫ぶも、思ったより力が篭り余りの痛さにちょっぴり涙が出そうになった。

 実際情けなくって涙が出そうになったけど、吹き抜ける風が心地よく頭を冷やしてくれたところで五右衛門風呂から上がりタオル一枚腰に巻いて


「綾人さん先に頂きました」

台所からお邪魔すれば丁度水を飲んでいた所での遭遇。お水を飲む反対の手でわかったというように手を挙げれば

「じゃ、俺も入ってきます」

「ゆっくりどうぞ」

「あと洗濯機回すけどその前にズボンはバケツに入れておいてください」

 泥を落とすつもりらしい。泥は落ちても泥染めされた部分は綺麗にならないだろうなと思いながらも綾人さんも俺と同じくズボンをダメにしてしまっている。自分の家なのでいくらでも山歩き用の服に準備できたのに俺の軽率な行動に対してフェアすぎる説教は全く怒られた気はしないもののこの一件は今後忘れる事のない話となり、この季節になるたびに誰に何を言われなくても思い出す事になるのだろ。

 客間に置いてある服に着替えてから仏壇の前に座りお線香をあげる。

 両手を合わせて

「一郎さん、弥生さん。あなた達の孫はほんと容赦ない方に育っています。

 お二方の教育の賜物です。ですが、本当に感謝します」

 チーンとおりんを鳴らしてから

「よし」

気合を入れて台所へと向かう。

取り立ての松茸があれば今夜は炊き込みご飯一択だ。

 虹鱒の塩焼きに茄子の煮びたし、イノシシの肉で肉じゃが、やっぱり松茸の土瓶蒸しもほしい。これだけあれば十分かなと今夜は和食に決定だと決めれば不意に


「   」


「ん?」

 振り返る。

 何だか楽しそうな声が聞こえたような気がしたけど、当然誰もいない。

 小首傾げて気のせいかと思いながら風も吹いてないのに仏壇にあげられたお線香の煙がゆらりと揺れた事までは気づかなかった。




「美味しいです!本当に飯田さんの炊き込みご飯最高です!」

「お替わりあるからしっかり噛みながら食べてくださいね。のどに詰まりますよ」

「土瓶蒸しも幸せです!この日の為に一年山の手入れ頑張った報いが今ここに集結してます!」

「綾人さんは大袈裟ですね」


 感動と言うように箸を握りしめた拳を突き上げての食事風景に飯田は大袈裟なと笑いながら本日の出来の良さに満足げに炊き込みご飯を食べながらちらりと仏壇の方をみて


『今年も山の恵みをありがとうございます』


 心の中で先人の教えを実行する綾人さんを育てた方達に感謝をした。





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