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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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大変恐縮ではございますがお集まりいただきたく思います 9

 高遠さんの朝ごはんと言うレアな朝食は笹鰈の干物に浅蜊の味噌汁、蕎麦猪口で作った茶碗蒸しとお漬物。このお漬物はどこからやって来たのだろうかと思えばなんと青山さんのお店で作ったものだという。

 フレンチにお漬物……

 どんな組み合わせのメニューなのかと思ったけど単に賄いに出す奴らしい。

「綾人君から頂いた野菜で漬けたお漬物だからね。

 安心して。お漬物だけは飯田と青山には作らせないからね」

 きりっとした顔は多分京都育ちで品の良い料亭出自の二人ならではの塩分薄めのお漬物を思い出してのものだろう。

 俺もびっくりしたけど浅漬けってここまで浅いんだと塩分を探す味覚の俺が異常なのかと鉄分チャージを心掛けたほどだったけど、やっぱり高遠さんが言うのだから二人の感覚がおうちの味を求めすぎているだけだと思う事にしておいた。

 味蕾の多い飯田さんだけならわかるけど青山さんもとなるとそれが慣れ親しんだ味という事で、一般的にはもうちょっと塩分ほしいと主張したい具合。

 俺としては高遠さんによく二人から漬物の主権を取り上げたと褒め称えたい。

 最後に飯田さんの至福の一杯を淹れてもらえば爺さんも満足げな顔。

「我が家で飯田の味を楽しめるとは贅沢だな」

 茶碗蒸しは飯田さんが作ったのは俺でも分かった。 

 卵が賞味期限近かったから急遽作った感じだろうが美味しいものは美味しい。

 幸せはこんな近くにあった事にほっと溜息を落とせばそれが極上の評価。皆さん満足げな顔で食事が終わった。

 

「それでは私は一度家に帰って寝てきますので」

 

 失礼しますと深々と頭を下げて初めてのお宅のキッチンを使って満足したのか足取り軽く去っていく後姿を見送った。

 長い塀に沿って曲がって去って言った後姿を見送れば

「俺、高遠さんとレストランでしかあった事ないけど、かなり個性的な人ですね」

「ああ、うん。そうかもね。

 料理以外はほんとダメな奴だから。兄貴と言葉が無くっても会話ができる数少ないやつだから俺は別に苦にもならないけどね」

 他は大変だけどと遠回しに言う青山さんの言葉に頷く飯田さん。

 そういえば飯田さんもお父さんとは言葉がいらない風だったなと初めてうちに来てくれた日の夜に囲炉裏を囲んだ時を思い出せばあんな感じなのだろうと想像がついたもののそんな渋い光景をお母さんがぶち壊していく所まで思い出して一人苦笑していれば、何を思い出したのか理解した飯田さんと何があったのか察した青山さんは二人でそっと顔を背けるのを浅野さんは不思議な顔をして頭をかしげていた。


「さて綾人君。高遠も満足して帰ったから少し込み入った話をしましょうか」

「はい……」

 こっちが本番かと少しだけ緊張感漂う空気に俺は爺さんを交えての懇談会を始めるのだった。

 場所は床の間のある部屋、ではなくなんと茶室。

「密会するにはぴったりの場所的な?」

「本来の茶室の使い方ですよ」

 いつの時代の?とまでは聞かないものの青山さんはまるでそこに茶器があるのを知っているかのように準備を始めた。

 炭に火をつけてお湯を沸かし、その間俺達は青山さんによって選ばれた茶碗を眺めたり、飯田さんが即行で作ってくれた和菓子を青山さんがさりげなく活けてくれたお花を眺めながら頂いたりと一瞬にして青山さんの流れで場を整えて作られた空間の中、神経が研ぎ澄まされていく感覚になっていく。

 爺さんは何も言わず、黒豆と道明寺が沈むように固められた寒天を一口大に切ってためた後

「これを何竿か用意してもらいたい」

「構いませんが贈答用にするには地味ですよ?」

「なに、儂が食べる分だ」

 それはどうかと思うも

「お気に召していただければいくつか作り置きをしておきます」

「そうかそうか、飯田とは違って息子は話が分かるな」

「店でお出しするものではないので」

「なるほど、頑固なのは遺伝と言うわけか」

 店でしかあった事がないからかと言う結論を導き出した爺さんは青山さんが差し出した茶を受け取って、景色を眺めた後一口だけ口につける。

「結構なお手前、と言う処だが年寄りには濃いな」

 すっと頭を下げたまま

「甘い菓子も年寄りには毒になりましょう」

 思わず天井を仰いで怖いよ、宮下助けてーと心の中で全力でヘルプと叫んでみるも返答は一切ない。当然だが今はタイミングよくスマホが騒いでほしいと願わずにはいられなかった。

 いや、むしろ宮下ならこの空気を察して絶対近づいてこないかと助けを求めた相手が悪かったかと反省をしている合間に飯田さんから茶碗が回ってきて、ラストの俺は残りを全部飲むという使命があった。

 正直こう言うのはバアちゃんに付き合わされて何度かやってみたものの良さはいまだに良くわからない。




 


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