袖擦り合った縁はどこまで許すべきかなんて考えてはいけない 5
そんな感じでお庭が素敵すぎてあっという間に一時間以上遊んでいれば別の秘書さんが俺達を呼びに来てくれた。
「お客様がお見えです」
遠くなってしまった玄関に回って改めて最初に案内された客間へと向かえば既に会長と隣に知らない人、そして正面にはお呼び立てした沢村さんとこの裕貴さんがちょっぴり涙目で俺を待ち構えていた。
「遅くなりましてすみません」
何て断って勧められた席へと座ればぐるりと首を巡らして俺を見た沢村さんは顔を引き攣らせながら
「一応言わせてください。俺は反対です」
爺さんとその隣の人も苦笑してくれた。
「まだ何も言ってないけど?」
「言わなくても判ります。この流れ知ってますから」
静かな空間を求めて城を買ったと言うノリの高額な買い物の経験があるだけに一応と言う形で釘を刺してくれたのだろう。
体は一つしかないのに幾つ家を持つつもりだとでも言いたいのだろう。
さらに本拠地から離れたこの場所に家を買う理由なんてない。
年契約でホテルの部屋を借りてもおつりがくると言いたげな視線は言わなくても判る。
俺だって同意見だから。
そんな沢村さんをまあまあと落ち着かせる様に頂いたお茶を既に空になっていた茶器と入れ替えれば緊張していますと言う様にゆっくりとお茶を飲みだした。
そんなタイミングを見計らって
「では吉野よ、隣の男を紹介させてくれ」
「あー、顧問弁護士の桜井さんですね、初めまして、吉野綾人と申します」
ちょこんと頭を下げれば少し驚いたように、でも笑みを浮かべながら名刺を渡してくれた。
「はい。顧問弁護士をしてます桜井誠一と申します」
「あ、お名前はネットの方で拝見させていただきました」
会社の紹介の所にも書いてあるし、少し調べれば今より若い写真だけど見つける事も出来た。
「お会いできて光栄です」
今までの仕事ぶりもそれなりに調べたので知ってはいたけど、隣に座る沢村さんとみると企業弁護士なだけにサラリーマン臭さが出来る男と言うように勘違いをさせてくれた。
「こちらこそお会いできて光栄です。お噂は会長から常々聞いてまして」
話す事が仕事と言った人がいた様に、嫌味の欠片もない笑顔で話しを進めるあたり、隣に座る弁護士さんとは潜って来た修羅場が違う、と言うか動かしてきた金額が違うと言うように堂々としていた。
さらに
「まさか沢村さんの息子さんと仕事が出来るとは、長く頑張った甲斐がありました」
「まさかの知り合いwww」
沢村さんの挙動不審な理由と今日一番の面白い話に俺はすぐさま沢村さん(父)に連絡を取り
「綾人君何がありました?今日は東京に行ったと聞きましたが……」
「あ、沢村さん?今無事東京に来てるんですが、素敵な方を紹介して頂きましてw」
カメラ越しにピースとサインをしながら一緒に写れば
「桜井か!久しぶりだ!老けたなあって言う事は今日お邪魔した先は木下様の所なのか?」
何て会話にすぐ隣にいる爺さんも写せば
「沢村と聞いて懐かしい名前だと思ったが、やっぱりお前の所の息子だったか。まだ耄碌してないようだな」
「噂では棺桶に片足を突っ込んだと聞いてましたが、お元気そうで何よりです」
ぶっちゃけすぎだろと妙に殺伐とした会話だったがどこか親しそうだったので
「お知り合いですか?」
何て聞かない方がいいのに聞いてしまう好奇心には勝てないと言う物。
隣の沢村さん以外は皆さん良い顔をして
「なに、昔裁判した仲だよ。こっちは負けてしまったが、何とか和解点を模索してくれてお互いwin-winな新たな関係を築いた功労者だよ」
「はい、当時の私もまだまだ未熟なのを理解して勉強させていただきました」
何て懐かしい話に盛り上がっていたが
「所で綾人君。何で君は知人に会いに行ったと言うのに弁護士を挟んでお茶を濁しているのかい?」
目元がひくついているのは既に察してるのかと理解すれば
「何かお付き合いでこの家を買わされそうで、まあいいかなって思って」
ちょっと可愛くぶりっこぶいて言ってみれば案の定獰猛な顔で笑ってくれた。




