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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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気合を入れてまずは一歩 5

 香奈に渡したボックスティッシュを引き寄せて抱え込みながら

「まぁ、今までは使う事もなかったし、自分にお金を掛ける事なんてしなかったけどだ。これからは香奈にいろいろしてあげたいと思う筈。そうなると、あのバカは収入なんてお金の計算なんて考えれないから今回みたいなことやりまくってあっと言う間に破産だな。

 俺みたいにじゃないけど香奈をお城に住むお姫様にするんだって、アホだからあいつ城を買うぞ」

 寧ろ日本の古城タイプを買って欲しい、なければ作ればいいのにと思いながらからかってしまう。

「ないないない!そんな事ない!」

 と言う所で長沢さん達はまさかねと思うも何かを思い出したようなハッとした顔で俺を見る。

「そう言えば吉野さんも静かな環境で寝る為だけにお城を買ったって主人が言って……」

 沈黙が降り注いだ。

 香奈に嘘でしょ?そんなありえない理由?なんて言う目で見られたのが少々きつかったが

「多分綾人だって買ったんだから俺も買ってみたとかそんなバカな事言うぞー!言えー!!!」

「いやー!やめてー!!」

 これ以上聞きたくないと言う様に耳を塞ぐのは何も香奈だけじゃなかった。

 まさか、そんな…… でも翔太は綾人を尊敬しているからあり得るかもと再度みなさん沈黙。

 皆さん俺を何だと思ってると泣きたくなるけどこの頃にはもう香奈が不憫で仕方がないと言う様にみち子さんと良恵さんに慰められていた。俺も慰めてもらいたい。

「まあ、そう言う所も含めて宮下の可愛い所なんだから。

 知らないわけじゃないだろうから仲良くやれよ」

 いつも俺に振り回されているように一見見える物のそれは俺が高スペック(?)だからであって、実は俺が上手く宮下の行動を制限していたのも上手く機能していただけだ。

 就職に失敗して戻って来てから遊ばせる暇なく再就職。

 新しく覚える事で一杯一杯の所に就労時間外は遊ばせる事なく山とついでに俺のお世話を押し付けて見た物のやがて馴染めば余裕が出来たタイミングで運よく西野さんの所に転職。戻って来てからは長沢さんの所に弟子入りという半ば介護にも等しい修行先は遊ぶ暇なんてあるわけない。

 圭斗の所に就職してからは実桜さんを筆頭とした社畜の集団に流されるように働かされて、僅かな休日も俺が色々託を頼んで西野さんの所に顔を見に行かせれば気持ちいいほどの仕事人間に仕上がって無駄遣い所か遊ぶ事もない立派な社畜に仕上がっていた。

 まあ、それはそれで問題だけどな……

 俺を人でなしと言わないでくれ……

 ってな所で俺達の知らない所でプロポーズした香奈が戻ってきた。

 仕事の後の天気の悪い日は今まで妹位の存在でしかなかったように見えた香奈を優先する溺愛ぶりに不安になれば案の定たかが外れたような買い物の数々。

 今も左手の薬指に輝く指輪が絆創膏だらけの手の中で輝いている。

 結婚雑誌を見て女の子の憧れと言う決して価格を表記しないブランドの結婚指輪を買ったり、西陣織の色打掛を買って来たりと……

「もう、俺の努力じゃ止められないから、そこは香奈が上手くやってくれ」

 バトンタッチしたからなと言えば無理だと言う様に顔を青ざめながらも懸命に首を横に振る。

「だって、あんな嬉しそうな顔で良く似合ってるよなんて言われたらダメって言えないよ!」

 これが惚れた弱みかと途方に暮れるも

「だったら圭斗さんにお話しするって言うのも一つの手よ?

 あの子確りしてるし、翔ちゃんなら圭斗さんの言う事は聞くでしょう?」

 みち子さんに言われた言葉に俺も香奈もそれだと手を叩く。

 圭斗の財布の紐はこっちに戻って来た時よりは緩んできたが、それでも締めすぎなくらいの節約ぶりは陸斗の大学の費用の返還を頑張っているのが理由。まだまだ先は長いぞお父さん。

「だな。圭斗を頼るのが一番だし圭斗の言葉なら宮下も素直に頷くから、そうするしかないな」

 親の言う事は聞かないのに不思議だなとみんなのお父さん圭斗の影響力凄いなと感心しながらすぐ横に置かれた血まみれの雑巾を手に取る。

 点々と滲み付いた物が水玉だったら可愛いのにと決して可愛くない雑巾を眺め

「まあ、高価な雑巾にするか、いずれ産まれるかもしれない娘かやってくるかもしれない嫁に着させてやれるかは香奈次第。

 これ以上時間も絆創膏も無駄にするなよ」

 後はお前次第だといってお菓子食べて美味しいお茶を貰って帰ろうとしたつもりが心労を抱えて帰る事になるとは……


「あ、先生。今から呑まない?すぐ行くから」

「珍しいな。宮下の所に入ったんじゃないのか?何かあったのか?」

「色々とね」

「あー、適当に何か買っておくから泊まりに来るつもりで来い」

「先生話判るじゃん。さいこー」

 この一連の出来事を聞いてもらって先生を悩ませるのは当然だった。


 


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