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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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生まれ変わりは皆様とご一緒に 12

 入口もいつの間にか綺麗に磨き上げられた長沢さんの作品が今はまだ場違いのように輝いていて玄関にはめられていた。荷物の無くなった荷台に障子や襖、硝子戸を軽トラに運び込ませて「また家の工場で直してくる」と言って飯田さんが詰めてくれた料理を嬉しそうな顔を隠せずに奥さんの分と共に持ち帰るのだった。

「じゃあ綾っち、俺達もうそろそろお暇するな」

「綾っちは止めろ。なら挨拶しに行かないとな」

 呼びに来た植田と共に陸斗を呼んでカメラは少しの間宮下にお願いする。

 既に一同は集まっており、そこに向えば飯田さんもやって来た。

 もちろん手には合宿恒例のパラフィン紙でくるんだおやつがお盆の上に並べてあり……

「それでは先生、吉野さんお世話になりました」

 上島父が代表してあいさつをするも

「飯田さん今回もめっちゃおいしかったです!」

 勉強の感想は一切なく飯田さんのご飯を褒めまくる感想ばかりが溢れかえっていた。

「それは良かったです。これは恒例のお土産のケーキなのでお家に帰ってから皆さんで食べてください。決して車の中で一人で食べてはいけませんよ?」

「くう!神の言葉には逆らえん!!」

 植田何を言っていると言うも大爆笑される様子を一歩離れた所で青山さん山口さんも見守っていた。

 ちなみに小山さんは奥様方のお話し相手をしている。ほら、この地方の雑誌とかでよく顔を出してるから皆さんお話ししたいんですよと妙になつっこい子供達にもまれる光景にこっちまで巻き込むなよと微笑ましく見守っておいた。

「じゃあ綾っち、次は完成の日に声をかけてねー!早速お泊り一号になるつもりだから」

「受験生は受験しろ。受験終わって雪解けの季節になったら遊びに来い」

「やだあ!それじゃあ新生活始まっちゃうよぉ!」

「学校落ちたらみっちり勉強を見てやるって言ってるんだよ」

「ひでえ!」

 嫌がらせだと涙を流しながら水野に張り付く植田にはもう笑うしか出来ない一同。

 しゃれじゃないのがまた怖いと先生は頭を抱えるが、こいつが少しでも自分のレベルと向かい合って本気になれば問題はないのにと疲れた顔でつぶやいていた。

「そもそも予備校通うにもどこかの寮に入らないといけないし、そんな所に入れてお前が勉強をするとは思わないからな」

「真実なだけに酷い!」

「自分で言うか……」

 この小さな山間を脱出する為ならいいがそれでは建設的ではない事を嫌と言うほど知っているこの地域の子供達は自分の未来を誰よりも真摯に考える地域の子供だと思う。もちろん俺畑継ぐしなんて言う奴もいる。上島が良い例なのだが、こいつの場合農業大学に進学希望なのだ。農業高校に通ってるわけじゃないしおれも農大何て想像した事もないからまったくどうなっているか想像もつかないが、取り合えず先生がかき集めた資料を見て勉強を教えている。何せ俺が教える事が出来るのは一般教養な部分なだけなのでとりあえず学力の底上げをするしかないとやる事は限られている。

 それに比べて植田は専門学校の推薦なら普通落ちるか?と言うのが本音だ。こいつの場合それを教えて卒業が出来ないと言う事が一番怖い末路だが……先生ご両親ともにそこは連携して黙っている。

「まぁ、次はお盆後のテスト前合宿まで真面目に勉強してろよ。

 そんで第二種のテストは九月に入ったら申し込みが始まるから学校で纏めて団体申込みしてもらう。達弥は個人になるがインターネットかコンビニとかでも支払できるから家の人にやってもらう様に。颯太も頼むな」

「ういっす」

 上島兄は弟の頭をぐりぐりと撫でる。

「そんで筆記は何時か判らないが筆記試験合格したら技能試験がある。運悪い事に二学期期末のテストの頃合いになるが、やり方は先生にならえばちょいちょいと出来るはず。なので心配なのはテストだが大体みんな六十点をクリアしてるから勉強をさぼらずに確実に通過しよう」

 気合を込めるように言えば

「その試験って私達も受けること出来ますか?」

 いつの間にか大工の奥様方が後ろに居た。背筋が一瞬ぞっとしたとは決して口に出さないが俺以外はみんな気付いていたらしく俺ではなく背後の奥様達を眺めていたようだった。通りで大人しく話を聞いてるなと思ったらと何だか悔しく、でも顔に笑顔を張り付けて振りむいて

「ええと、私達DIY動画を上げてるんですけど、そろそろ電気工事士の資格が欲しいんだけどどうすればいいのかな?って思ってた所に主人が吉野さんが何かやってるって話を聞いたから今回お伺いさせていただいたのです」

 絶対拒否されないと言う顔で言われれば思わず得で作業して姿の見えない森下さんを呪ってしまう。あんただって資格持っていただろう!と……

「ええと、年齢制限もないし簡単な筆記試験の後技能試験があるだけなので。九月に申込みの期間があるから一万円ぐらいで試験はうけれますよ?」

「なら、後でもう少し詳しくお話を聞かせてください」

 奥様方はキラキラとした視線を俺に向ければ高校生の母親達はなら私達も受けてみる?と言い出す始末にだったら一緒に問題用紙使おうかという出来た息子も居る様子に親子のコミュニケーションはこんな所で出来上がるようだ。と言うか、資格を取るのは簡単だがそんなにも需要のある仕事なんてこんな田舎にあるのか?と黙っておく。

「じゃあ綾っち今度はお盆後にね!」

「お盆親戚来るからお邪魔しに来ても良い?」

「親戚付き合いは大切にしろ!」

 言えば微妙な俺の家の親戚関係を知る人達は苦笑を零しながら車に乗り込んで行く。

「飯田さんもお土産ありがとう!また美味しいご飯食べさせてください!」

「小山さんにもよろしく!」

「綾っちまた遊びに来るね!」

 誰が言ってるのかわからないくらいの一斉の別れの言葉と共に山を下りて行く様子を見送ればやっと静かになったなと思うも振り向いた所でそれは勘違いだと言う事を思い知った。

 それは見事な満面な笑みで

「電気工事士の資格の問題用紙私達にもください!」

 インターネットで幾らでも拾えますよと言うのも簡単だがそれを阻む笑みに俺は白旗を上げ、奥様方を連れて工事中の小屋へと足を運び

「折角なので高校生にも配った第二種電気工事士の資格の問題用紙と案内用紙をプリントアウトするつもりなので欲しい人がいたら取りに来てくださーい」

 何の気なしに、後から言われたら面倒だから程度で声をかければ若い衆を中心にぞろぞろとやってきて……

「こんなにも需要があるなんて。何で今まで取ってないんだよ……」

 約二十くらいの冊子を作る事になった俺は今この時に高校生の労力が欲しいとうらみ、その後も皆さんが帰るまで奥様方相手に勉強会が繰り広げられたのだった。


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