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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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春が来る前にできる事 5

 土日にまたがる作業の来客が多く、当り前だが植田達は実家に帰ってもらっていた。

 最初陸斗の部屋でいいからとごねられたけど、この山間の町に出稼ぎ…… 遠征に来てくれた人達はそれなりに多くなり、長老の方々は綾人の麓の家に集まり、若者は圭斗の家に分かれて集まっていた。なので紅一点になる香奈は実桜さんの家にお泊りになると言う、凛ちゃんとお風呂を一緒に入ると言う一大イベントをこなしてきた。

「もうね、凛ちゃんが可愛いの!

 お歌うたってくれたり保育園で聞いて来たお話を一生懸命に教えてくれてね」

 昔の人見知り立った頃を思えば何て人懐っこい子に育ったのだろうか。

 お風呂所かお姉ちゃんと一緒に寝ると言ってお布団を並べてお休みとなったらしい。

 お母さんはちょっと寂しげだったけど、それ以上に久しぶりにゆっくりお風呂に入れてゆっくり寝れたと次の朝は気持ちよい目覚めとなった。

 因みにお父さんは圭斗の家で繰り広げられた飲み会で二日酔い状態だ。

 いや、全員二日酔い状態だったようだが、綾人はそれを判っていたので家に帰ると言う選択をした。連れないなと言われたけど

「山の上はもう雪ですっぽり埋もれてるから。屋根が潰れてなければいいんだけど」

 さすがに十二月で潰れる事はない。

 だけど気になるのは仕方がないと言えば

「暗くなる前に帰れよ」

「あまり無茶するなよ」

「アイスバーンには気を付けろよ」

 何て優しい言葉と共に見送ってもらうのだった。

 

 そこからゆっくりと時間をかけて家に帰った。

 すれ違う車所か視界の中には一度も車を見る事無くちんたらと車を走らせて家に辿り着いた事を良い事なのだろうかと思うもありがたい事に雪は降らなかったおかげで道路の雪もしっかりと融けていてスタッドレスタイヤの役目すらなかった。

 安全大切。

 こんな車ともすれ違わない所で事故ったりしたら絶対助けてもらえないので安全に安全を重ねるのは当然だ。

 たとえ呑ませられて潰される事が決定された飲み会とは言え楽しい方が魅力的だが、冬場は油断すると本当に家がどうにかなるので目を離せないのだ。

 結露が凍りついて家に入れないのはもうドアを潜る時のイベントなのだ。日常でそう言う事が繰り返されてるのだから何が起きるかはきりがない。沢から引いた水が樋から零れ落ちてつららのカーテンを一晩で作り上げられた時の自然の驚異にはびっくりしながらも綺麗だな、壊すのもったいないなと思って放置したら氷のせいで樋を壊されていた時は二度と放置しないと心に誓った事もあったが。

 流水って凍らないんじゃないのー?なんて思ってたら

「流水は動いているから凍らないかもしれないけど滴の垂れる所から凍りだして、凍った場所から広がってく事ぐらい先生に言われなくても判ってるだろ?」

「教科書の文字の出来事と自然の芸術は別世界の気になってました」

 バカだなぁ、そんな目で先生に見られたのは珍しく先生してるなと感心してしまったけど。

 

 パワフルな皆さんの勢いに疲れたと言うのもあるが、やっぱり標本さんが一番の原因だろうか。

 どうでもよさ気に家に帰ってストーブと囲炉裏に火を入れる。ついでに五右衛門風呂も少し温めて、一日中小屋の中の烏骨鶏達の様子を見に行って逃げない一羽を抱き上げて

「さっむ!やっぱり一日でも家を空けると寒いなー」

 何て周囲の人のパワフルさに当てられて疲れた精神を癒すように烏骨鶏を抱きしめて暖を取っていた。

 いや、ふつーにあったかいし。

 そうやって暫くの間抱きしめていれば烏骨鶏も俺に暖を取りに来たと言う様にもたれかかる様に次々と蹲って眠り始めた。

 止めてよ。ウコがあったかいとはいえ室温は十分寒いんだから。

 いつもは近くにすら寄り付かない所か餌を見せない限り近づいても来ないのにこういう時に寄り添ってこないでよと何とも言えない感傷的な気分を覚えてしまえば


「あー、やっぱりここにいた。って……

 なにこれ。いつの間にウコマスターになってたの?ウコに囲まれ過ぎて羨ましいを逆に思うわ」

「あー……」

「ほら立って。ウコ臭くなるよ」

「なんかそれやだ。ウ〇コ臭くなるみたいで」

「似たようなもんじゃないか」

 違うと言いたいが、この室内の匂いの大半はそれなので否定できないでいれば手を引っ張られて

「お前の為に集まって来たのに帰ってきていいのか?」

「うん。香奈ちゃんも実桜さんの所にいるし、先生にも世話をして来いって言われたし。圭斗と長沢さんに心配だからって言えば早く帰れって言われてさ」

 言いながらペット用ゲージに入れられたオイルヒーターのスイッチを入れる。

 寒さに強いと言われる烏骨鶏だけど温かい方がいいに決まっている。

 設定温度を一番弱くすれば後は火傷しないようにさえぎられたゲージの作を囲む様に烏骨鶏が暖を取ってる様子は冬の風物詩。

 それを見る前に俺達は烏骨鶏の小屋から出て母屋へと向かう。

 

 少しだけ温かくなった室内で二人して白湯を飲む。

 宮下は何も言わずに甲斐甲斐しく俺の世話をするのを眺めながら

「やっぱり人が多いのは苦手だ。

 いくら見知った相手でも、圧倒される」

 そんな事言われても、なんて言うしかない内容だけど

「まあね。ここに住んでたら人に会うか会わない家の生活になるからね。

 正直綾人が留学先でちゃんと生活できるか心配だったんだ」

「まぁ、植田とか水野みたいな奴らばかりだったから。勝手にやってきて勝手にだべって帰って行って。世話もせずに勝手にしてたから、一々通行人に気を配らないような感覚だったけど」

「嘘だね。そう言っておきながら生活しやすいように気を使ってたくせに。

 その証拠が叶野と柊、そしてアイヴィーちゃんだ」

 わざわざフランスから、そしてこんな山奥まで来てくれた二人の行動はそんな薄い関係では成立しないだろうとの指摘。

 強がってと言うような視線だけど直ぐに台所へと向かい、ご飯の準備をはじめた。

「おばさん達の所に行かなくていいのか?」

 結婚も決まって一緒に暮らす時間も限られてるだろうと言うように聞けば

「直ぐ帰れる距離に住むんだし、それに今日も散々お世話になるのだからちゃんとお礼して来なさいって」

「おばさんらしい」

「いや、父さんが言ったんだ」

 珍しい、少し驚けばそうなんだと宮下も頷いていた。

 その間にも手際よく鍋に野菜と肉を放り込んで鍋つゆを入れる。

 後は囲炉裏にかけて出来上がるのを待つだけ。

 その間にも五徳を出して来て色々と焼きだして行く。

 シシトウからしいたけ、牡蠣も買って来てくれて、蓋が開いてふつふつした所に味噌を落すと言う暴挙。もう目が釘付けで鍋が出来上がった事すら気にしない。

 冷酒もあるが

「やっぱり熱燗も必要だよね」

 五徳の一つに水を貼った鍋に徳利を置いて温まるのを待つ。

 お酒は沸騰するのを待ってはアルコールが飛ぶので膨張する様子を眺めながら感でぬる燗、熱燗を見極めて好みで引き上げて楽しむのが俺達のルール。大体沸騰させちゃうけどねと勿体ないと思いつつ楽しむのは杜氏に謝れと言う所だろうか。

「まぁ、明日もあるけど、今日はお疲れ様」

 牡蠣から目を離せないでいる俺にぐい飲みを持たせてお酒を注いでくれたのを俺は無意識に口に運び


「あ、あつっ!!!」


 熱くし過ぎた熱燗を口に運んだせいかしたたかに悶える俺を見て笑う宮下。

「ほら、牡蠣も焼けたから」

 お皿に乗せて渡してくれる今までと何も変わらない宮下の様子を見ていれば


「何笑ってるの。早く食べないと冷めちゃうよ」

「ただいま冷ましてる段階ですー」


 そういって熱いのをちゅるっと食べる罠にははまらないぞー、なんて……

 結婚が決まったからとかそう言う事があっても何にも変わらない親友の優しさに温かくなったのは体だけじゃない事を静かに認めた。

 








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