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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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冬の寒さに 2

 十一月になると霜どころか雪がしっかり降る季節になった。

 浩志も世間より早い冬の到来に身を震わせる様子に冬服を買いに行った。 

 ついでに俺も買う事に決めた。

 着なくても服は劣化する。

 劣化? 

 四年ほど入れ替えのなかった服は防虫剤の匂いが染みついていたり、汗シミが浮き出ていたりと年頃の男の子あるあるな問題にぶち当たり、留学先で買った服があるとはいえ一新したいのは向こうの気候とここの気候があってないからの一択。

 浩志の運転では乗る気がしないので俺の運転で高速を使ってちょっと遠出して色々と買い込んでみた。

 浩志はあまりの人の多さに目を回しながらも必死に俺にくっついて来て目的の物を購入した。

 さすがにあの寒さには手持ちの服じゃ間に合わないし、麓のスーパーで売ってる服はさすがにセンスがね……

 貯蓄もそれほどなく、そして今は収入がない状態なので俺がついでに購入したが最後はファストファッションのお店で

「下着と靴下を一週間分買って来い」

「一週間分って多くない?」

 俺の命令に節約の限りを尽くしていた浩志はすかさず疑問を口にする。

「服がその日のうちに乾くと思うなよ?」

 ただでさえ二人分の洗濯量なので毎日なんて洗濯しない。

 そしてガスがプロパンな以上乾燥機何てうちでは不向きだ。

 家を湿気ないようにさせるために離れの土間で炭を燃やしているが、その熱と縁側の日当たりのよさで乾かす冬場の洗濯事情。 

 離れが無かったころはうちの縁側の出来事だったが、さすがに従弟とはいえ一緒に互いのパンツを見ながらご飯を食べる趣味はない。

 服を買ってるうちにも何度か駐車場まで往復をしたが、ここには魅惑的な罠も待ち構えていた。

「ちょっと本屋寄りたいから、そこの喫茶店で待ってても良いぞ?」

 そう言ってお金を渡して後でなと俺はうきうきと本屋の通路を練り歩き……

「綾ちゃん、そろそろ閉店の時間らしいから帰ろうよ……」

 素敵な時間は一瞬で過ぎ去ってしまう事を心細そうに俺を見上げる視線にしでかした事を理解した。

「あー、今から帰ると遅いからホテルに泊まろうか」

「……」

 意外といい加減な俺の一面を見た浩志はなぜかスマホを取り出して

「圭斗さん。すみません。綾ちゃんが本屋で夢中になって今日は帰れそうもありませんでした」

 そんな報告をきちんとしていた。

 お願い、圭斗さんに連絡をするのはやめてください……

 思わず手を伸ばそうとするもなにやら託を預かったのかはい、判りましたと言って通話終了。

 そしてかわいそうな子を見る目で

「後の事は宮下さんにお願いするそうなので心配するなとの事です」

 きっと俺に向けた言葉ではなく浩志に向けた言葉なのだろう。

「あと、帰り道に圭斗さんの家に寄る様にとの連絡です」

「お土産を何にするかが運命の分け目だな……」

「物で買収するのはやめようよ」

 なぜか一歩距離を取られてしまったがとりあえず閉店の音楽を聴きながら急ぎ足で欲しい本を購入して車へと移動する。

 後はしっかりと買い物した荷物だらけになってしまったが、スマホでポチポチとホテルを探すまでもなく並びたつ駅前のビル群の中から選んだメニューを頼りにホテルを決めた。

 もちろん浩志の意見なんか一切聞かず、この日俺は中々口にできない本格中華をこれでもかと浩志が飽きるほど食べた事は飯田さんには報告できない一件となった。

 

「で、これはなんと言う賄賂だ」

「その眉間のしわを消していただくための物になります」


 ごっ!

 物凄い音が頭のてっぺんでなった。

 隣にいた浩志が体を縮めて目を閉ざして振るわせて見せた物の

「お前はなんでまっすぐ帰ってこない」

「いやぁ、久しぶりに日本語の本を読んだら楽しくって」

 ごっ!

 またもや頭のてっぺんに痛みが走る。

「ちょっと―、おバカさんになったらどうしてくれるの」

「お前はそれぐらいが丁度いい」  

 限りなく冷ややかな視線を頂いてしまうものの、これが圭斗なりの優しさなのでニマニマしながら圭斗の顔を見てしまう。

「何嬉しそうな顔してんだよ……」

 不器用な優しさを見抜かれてか居心地わすそうに視線を反らされるも

「圭ちゃんに心配される幸せに浸ってるんだよ」

 むふふと笑えば顔を引き攣らせながら少しずつ距離を取られる。

「ふっふっふー」

「はっはっはー」

 襲い掛かろうと、そして迎え打とうとする体勢。

 だがそこでふと気づく。

 第三者がいると言う様にずずず…… と茶をすする音。

 子供な俺達を呆れたように見る視線でお茶を音を立てて飲む浩志の俺達を見る目は限りなく冷めた視線は呆れた物。

 俺と圭斗は恥ずかしさから固まってしまう物の古い記憶を再生していた俺がいた。


 あの日凍てつく水に流されないように必死に崩れる氷になった雪の塊にしがみついた俺があえぐ様に蹴落とされながらも呼吸をする為に顔を水面から必死に酸素を求めた時に見た俺の死を願う様に見る瞳の数々。 

 だけどその中で一つだけ違う色の瞳があった。

 目の前の光景を理解できなく固まって怯えてたたずむ事しか出来なかった震えていた子供が必死に何かを叫ぼうとぱくぱくと声にならない言葉を吐きだしていた事を。

 目の前の出来事を受け入れられなくてついには恐怖からぽとりと落とす涙を俺は確かに見ていた事を……


 あの事件の後陽菜曰く親に従順になって実の姉ですら何とも思わなくなった浩志は、多分、きっと、この時零した涙と共に心も砕いてしまったのだろう。

 そうすれば姉弟仲が良かったのに、大人しかった子供が、解か十年以上前の記憶とは言えここまで変わるとはここが切っ掛けだったと思うしかない。

 俺の知る事のない過去はあくまでも想像の範囲だけど。

 底辺まで落ちて、見ず知らずの人に救われて、こうやって一緒に暮らすようになってから知る浩志の視線は慣れた物もあるが、ずいぶんと懐かしさを覚える物で……

 ペチペチと頬を叩かれる刺激に顔を上げる。

 心配という色を隠さない瞳の圭斗が正面から俺を真っ直ぐじっと見つめていた。

「大丈夫か?急に身動きしなくなって……」

 それぐらい身動きしてなかったのだろう。

 ゆっくりと首を巡らして室内を見回せば、俺の視界に入らない所にと言う様に背中側に居た浩志を見つけた。




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