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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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ルーツを思う 7

 とりあえずと言う様に家を出れば少しして何かが激しく襖にぶつかる音が聞こえた。

「ジイちゃんの家壊すなよー。弁償してもらうぞー」

 なにがあったか判っただけに一応注意は促しておく。今一番感情的な康隆だけにコントロールは出来ないだろうけど、それで家を壊されてしまったら堪ったもんじゃない。

 暫くもしないうちに出てきた二人は一人は感情のまま力を振るった後悔と、もう一人は殴られた頬をさすりながら涙を落すと言う、とても大人とは思えない子供みたいな姿だった。

 だけどそんな姿さえ俺の感情は揺さぶる事はなく

「お前んとこの離婚後こう言う事があったんだよ。一人幸せになろうとしたみたいだけど、やっぱり腐った親からは腐った縁しかつかなかったなー」

 まさかの托卵。DNA検査の中には不倫相手の情報もついでに放り込んでおいた。だけどこいつも幸せになろうと努力しただけあって、さっきは感情的になった物の今度は歯を食いしばって渡した書類を握りしめていた。

 一応優先順位は判ってるのかと感心しながらもお顔が怖いので直ぐに圭斗の側に寄ってしまう。

 未だにあの日の圭斗の勇姿は忘れられない。

 川から這い上がろうとする俺を突き落す夏樹と康隆。二人の背後から雪玉を作ってはぶつけてくる陽菜とその後ろでぼんやりと見ている浩志。そして笑ってる親戚一同。

 そこに駆けつけて来てくれたのが先生と宮下と圭斗。

 問答無用で康隆の背中にドロップキックをくらわせた挙句に夏樹の腹に向かってのタックルからの川に向かっての蹴り。川に落ちなかったのが残念だったがさすがにビビった陽菜とビビりすぎて動けない浩志。その間に俺は先生に救出され、だけど親戚の大人達が圭斗に掴みかかっていた。

 だけど素敵な事に一人フリーの状態で勝手知ったる吉野邸に潜り込んだ宮下が貴重品や上着を抱えて川に投下。財布と車のキーはさっさとお帰りになってもらう為に川には投げ込まず、ケータイも水没してもらっていた。ちなみに財布と車のキーは庭に放り投げる鬼畜ぶり。雪を掘って財布や車のキーを探す姿はザマアミロと言う所。 

 それにしてもだ。

「圭ちゃん。久しぶりに圭ちゃんのドロップキックが見たくなった」

「若気の至りだ。クッションの雪もないからもうやらない」

 そう言う物なのか?

 圭斗がやらないのなら仕方がないと諦めるけど聞こえていたのか頸椎の下あたりを蹴られた康隆があの時の痛みを思い出してか顔を引き攣らせて俺達を凝視していた。

 うん。 

 あれは普通に考えてもむち打ちになってただろうからな。

 さじ加減が微妙すぎて圭斗かっこよすぎだろうと俺の中の一番かっこいい圭斗はその姿になっていた。いや、陸斗の為に頭を下げることもできる圭斗もかっこいいけど基本人の為に真剣になってくれる圭斗を危なっかしいと思いつつも尊敬してしまうのは沢山の事に救われた俺だからこそ思うのだろう。

 そんな感じで気まずい空気の中病院へ向かう。一応長老衆とはここでお別れをしてまた大矢さんの旅館で一部合流する流れになっている。

 俺は門の戸締りもあるので一人車に乗って麓の街の病院に向えば既に全員そろって輪になっていた。

 何とも言えない微妙な空気もあったがとりあえず受付で許可をもらい仏さんとのご対面。

 もうね、幾ら冷やしていても死斑と言うのは浮き出てくるのよ。

 昨日にはなかった沁みがうっすらと浮き出ている理由はやっぱり臓器を傷めたのが由来だろうか。

 さすがに穏やかな死からかけ離れた三人の姿には言葉を失っていた。

 崖から落ちて熊に襲われて助けが来るのにそれなりに時間もかかった。

 さらにそこから救急車で運ばれていくのに何時間かかかっていて、悲しい事に顎や首と言った顔の辺りから硬直が始まるので遺体に触れない以上熊に襲われた時の痛みを超えた恐怖と絶望のお顔がそのまま維持している状態だった。

 さすがに忌み嫌った親とは言え陽菜はその顔から伝わる恐怖に夏樹にしがみついてぼろぼろと泣きだし、夏樹たちはさすがに男の子と言う様に顔を引き攣らせながらもじっと父親の顔を見つめていた。

 やっと遺体を引き取りに来た俺達に

「ご遺体はいかがいたしましょうか?」

 きっと葬儀屋の事を聞いて来たのだろう。

 意味が分からないと言う康隆だが、そこは俺の親父とお袋の葬式に参加して少しでもどうすればいいのか考えただろう夏樹が

「葬儀会社の人っていますか?」

 聞けば外で待機していた人を紹介された。

 こう言う突然の出来事に何も準備してない家の方が多く、その為にも居てくれるらしいが悲しい事に見知った顔だった事を向こうも思い出してくれてそっと頭を下げてくれた。

 もうね、あのちょっと問題のある家か、そんなように視線が泳いだのを見逃さなかった俺は

「申し訳ありませんがまたお世話になります」

 口元が少しだけ引き攣ったのを見逃さなかった。

 有り難い事に近くにベンチシートがあって、夏樹達をそこに座らせ、顔色の悪い陽菜の為に宮下に人数分のあたたかい飲み物を用意してもらう。勿論売店のレジ前にあるペットボトルの事だ。圭斗も一緒に行ってくれたので安心して見送った所で営業マンはベンチシートに座る俺達に合わせて膝をついて簡単な説明をしてくれようとした所で

「すみません。ここから葬儀を行わず直接火葬場コースでお願いします。

 あとお寺は何処か合葬して頂ける場所を紹介して頂けると助かります」

 俺の顔を見てお墓があるのにと言うような視線を向けられたが

「できたらうちがお世話になってるお寺が良いです。みんな地方に住んでいるので供養も管理も出来ないし引き取れない事情もあります」

 何て夏樹の言葉たりない内容をフォロー。

 陽菜もうちもその方向でと浩志の意見を聞かずに縁切りをするつもりだ。

「それで康隆はどうする?」

「え?あ、普通の葬式しか知らないから何とも……」

 それでいいのかと思うも

「これが一番安いコースなんだ。

 俺はもう親父に振り回されるのは勘弁だし、親父達にこれ以上お金を掛けたくないから最低限の義理で済ませるつもりだ」

 夏樹の言い分に納得する所があってか

「すみません。俺も同じでお願いします」

 そうして正直言って病院でかかった費用などは俺が支払い、沢村さんにも手伝ってもらって色々な書類の手続きをすませたり必要な書類のコピーを用意したりと夏樹、陽菜、浩志、康隆を連れて色々と教えながら手伝っていた。

 ほら、俺の親じゃないし?

 とりあえず俺は圭斗と宮下を連れて売店へと再度向って小腹がすいたのでおにぎりを食べながら時間を潰していた。




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