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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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振り向いて立ち止まり 4 

 泣いて落ち着きだした頃カティを彼女の友人達に任せる。

 洗面所はあっちだからと化粧が落ちて泣きはらした顔を何とかしてやってくれと言う様に言えば仕方がないわねと言う様に三人に連れられて洗面所に引き込むのを見れば

「綾人、本当に大丈夫なのかい?」

 金融関係に務めていたフェイが心配してくれた物の

「金銭的な問題は一切ない。むしろどこまで追い詰めてやるかだ」

 ふっふっふと笑う俺に皆さんどん引きだが俺は許すつもりはない。 

「とりあえずは、だ」

 スマホを取り出して直ぐに目的の人物に連絡を取る。

 スリーコールも待たずに出た相手は

「やあエドガー。元気してるか?」

 なんて挨拶に

「さっきまで元気だったが今元気じゃなくなった」

 元気じゃなくなったと言う割にはきりっとした良い声をするから思わず笑ってしまう。

「何、婚約、結婚破棄関係に強いイギリス在住の弁護士を紹介してほしいんだけど?」

「アヤト、君は俺を凄い便利な電話帳みたいに思ってるだろ?」

 そんな抗議に

「えー?大した仕事をお願いしてないのに不釣り合いなほどの年間契約料、見直ししないといけないかなあ?」

「ふむ、そこは少し相談しよう。

 ところで君が僕に相談だなんて珍しいじゃないか」

 あまりの態度の変化にもう声を立てて笑い出すしかないのだが

「何、その件に俺も巻き込まれた。本当ならこちらに来て当人と話をしてもらいたいのだけど仕事の方はどうだい?」

 聞けば少し待ってと言われて待つ事一分。

「所長からOKが出た。

 同僚に仕事振り分けて今日中に向かう。大学のアパートに向えばいいかい?それとも郊外の家に行けばいいかい?」

 聞かれれば

「そうだね。一度来てほしいけどアパートの方で合流しよう。一緒に話しも聞きたい奴らもいるだろうし」

 周囲の視線に顔合わせ大切だよなと思うもエドガーは何故か黙ってしまっていた。

 どうしたと思ったが

「ひとつ聞きたいのだが、綾人を信じていいのかい?」

 慎重な声に聞きたい事は嫌でも理解できる。

「限りなく黒の白って奴だ。

 俺が嵌められたって感じだが、そこは知っての通り俺の潔白は信用してもらっていい」

 言うも納得できないのか沈黙を落すが

「あの家のセキュリティは判っているが、女の子を連れ込んで何もなかっただなんて俺はアヤトを疑うぞ。可愛い女の子相手に何もしないなんて失礼だろ!」

 エドガーも腐ってもフランス男だと言う様に女の子を連れ込んで何もしないとは男の風上にも置けないと言いたいようだ。ほっとけ。

「とりあえず簡単に言うと、がめつい親に身売りされた娘さんの婚約者が家の名前欲しさのクズで、最初から別居提案してる上に作った契約書を勝手に処分してるだろうな。俺の郊外の家の方で隠し撮りしてそれを浮気の証拠として婚約の条件を破棄の上に賠償金まで請求に来たぞ。ちなみにうちにはまだ来てない」

「ごめん。色々詰めみすぎだろ。とりあえず今夜の最終に乗って行くから飯の準備はしていてくれ。紹介は何人か候補あるが話しを聞いてからだ」

 難しそうな声だが

「いや、先に話をしてもらっても良い。何人いても問題ないぞ」

「やる気だなあ」

 呆れるエドガーだが綾人のやる気の本気具合を知ってるだけにそれがただの気合だけじゃない事を理解していて、通話越しにキーボードを操る音が絶え間なく聞こえていた。

「だったら明日には会えるように話しをするから、どこか行ったりしないでくれよ」

「了解」

 そう言って通話が切れた所で綾人は周囲を見る。

 いきなり弁護士を呼び寄せたりする行動力に唖然としていたのだろう。

 何も言わずに無言で訴える集団に

「何だ?」

 聞くもそっと目を反らす奴らと

『何でそこまでカティの為に色々するのに付き合ってねーんだよ』

 叶野が日本語で問いかけるも

『前に話した理由もあって結婚はしないって決めている』

 俺と叶野の間で柊がハラハラとしたように視線を話している方へと一々律儀に向けていた。

『あんな良い子居ないぞ?!』

『だけどカティは選んだぞ。

 実家の会社を守る事を。そして俺も実家の家と山を守る事を選んでいる。

 お互いの人生にお互いが隣に立つ事はない、そう言う話しだ』

『そりゃ、そうだけど……』

 その為の決意をしたばかり。そしてその為にやっと自分を探すように立ち上がったばかりなのだ。

 あの眩しい決意の瞬間を見たばかりに

『俺達が邪魔をしちゃいけない。 

 あの臆病なカティが戦う事を決意したんだ。恋に浮かれたただの女に戻すな』

 その言葉に叶野も柊も何も言えなかった。

 だけどこの言葉の中には綾人がカティと一緒に居られた理由も途端にダメになった理由も総てが詰まっていた。 

『つまり、カティが女にならなければ綾人さんはカティと一緒に居ても苦にならないと?』

 柊の言葉に綾人は一瞬言葉を失う。

 だけどそれが十分すぎるほどの答えとなっていて、遅れて気付いた叶野も

『つまり、綾人も別に嫌じゃなかったわけだ』

 拍子抜けしたと言うような顔に綾人は盛大に顔を歪め

『好きか嫌いかなんて関係ない。

 ただ、どんな困難にも立ち向えるカティを俺は知っているから応援するんだ』

 アメリカの学会の発表の場で総ての資料を失っても凛として舞台に立ったカティの美しさをきっと忘れる事は出来ないのだろう。

 忘れる事が出来ない自分をこの時ばかりは感謝して今も思い出すのだが、その姿をどこまでも蹴落とそうとするカティの親と婚約者をもう許す事が出来ないだけ。

「さて、食事をしよう。

 このあと弁護士にカティの話しを聞いてもらって今ある情報でどれだけ戦えるか考えを教えてもらうが、話を聞きたい奴は食べたら片づけて、とりあえずだ。

 今から頼む計算をしてもらいたい」

 何やら企む綾人の様子にやっと洗面所から姿を現したカティ達は扉越しとは言え聞いていた話しに色々事態が変わろうとする事を知って少しだけ負けないと言う様に瞳に力を取り戻していた。





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