青い空、白い画面。それならそれでやってやればいいじゃないかって誰がやるんだ? 6
脳に餌を与える様に糖分を与え続ける。
ロビーに在ったお菓子の自販機はほとんどチョコレートしか残って無くて、カティはとりあえずあるだけ買って来たと言う。
このお嬢め、教授も助教授さんもどん引きだよ。
そして自販機で売っていたジュースも贈呈してくれた。
ありがたく一心不乱に貪る俺にどん引きしていたとは決して思いたくない。
あまりに甘い物ばかり食べていたので地の利を生かして助教授さんがピザやホットドックを大量に買ってきてくれた。きっと教授やカティの分も買ってきてくれたのだろうが、二人が一つずつ手に取ったのを見て残りは容赦なく俺が頂く事にした。あ、カティが泣いた……
「それにしてもよく食べるなあ。
俺も頭使った時はそれなりに食べるが、別次元だな。
まあ、してた事も別次元だったから当然かもしれないが」
さっきのを見ていたのだろう言い方にひょいと視線だけを向ければ
「よお、初めましてだな」
「エドワーズ?!」
「学会の名簿にお前の名前を見てまさかと思って急きょ見学に来たぞ!
何で言わないんだコノヤロー!」
「いや、だってリアルで会えるとは思えなかったから……」
頭をぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜるように撫でられて、珍しくセットした髪が台無しになり、それを見てうんと頷いた。
「やっぱり綾人はこんな感じだな」
「やめてよ。風呂上り後ばかりにスカイプで話ししてるからって普段からこんな風だとは思わないでよ」
慌てて手櫛で髪を撫でつけるも下手にワックスを使ったせいで微妙に治るのを反抗されてしまった。エドワーズは楽しそうに声を立てて笑えば
「ねえ、アヤト。お友達?」
その人本当に大丈夫?と言いたげなカティに
「ネットで俺に英語教えてくれた人」
「天体のコミュニティのチャットで話ししていていざスカイプに移動したらハイスクールだったのかも怪しいお子様だったからあの時一緒にだべってた奴らは未成年でヤバいかもって焦ったな」
何て笑い話。
因みに当時の綾人は十六歳だったし、綾人の成長期はその後訪れたからの幼い顔立ちだっただけ。
あの当時を少しだけ懐かしがっていればちゃんとタイミングを読んでくれた。
「初めまして。ヒースコート・カーライルだ。今回の引率をしている」
「こちらこそ。イギリス生まれなのでプロフェッサーのお噂はお聞きしてます。
レイ・エドワーズです」
俺の目の前で握手をする二人。
助教授さんが何か小さな悲鳴を上げているが、俺は構わず食べ終わったピザのデザートと言わんばかりにチョコレートバーを食べていた。
顔は知らなくても名前は知っていたと言う様にカティも俺とエドワーズの顔を何度も見比べていたが、さすがに口の中が甘ったるくなってきたのでコーヒーを買って飲んでいたらカティに怒られた。何故や……
それ以上に助教授さんが目をキラキラとしてエドワーズを見ていたが、そういやこいつこの分野では有名人だったんだよなと実際会うのは初めてだがネットではしょっちゅうアホな事を話していたから尊敬度は英語をマスターした時点でだだ下がりだ。
「この後のパーティだけか?」
「明日の飛行機でイギリスに戻るよ」
そうか。
少しだけ寂しく呟いて
「そう言えば今年卒業だってな。折角入学したのにカレッジでスキップするバカ我居るとは思わなかったぞ」
もうからからとした声で笑い
「こっちも予定があるんだよ」
本当にそれでいいのかという目を向けられるも
「その気になったらまた入学すればいい」
「なるほど」
何て妙に納得した顔をしてくれた。
「それにしてもよく食べるなあ」
「まあね。今日は何時もしない事をした分疲れたから」
図形を作ったり表を作ったり、イメージ画像を作ったり大変だったが、ありがたい事にそれはパソコンで作った物だったから問題なく出来ただけの話。これが紙と鉛筆、コンパスに定規を渡されてよろしくね、何てあとはもう大惨事になっただろう。
ツールが違うだけでポンコツになるんだからと宮下にはよく言われたが何で駄目なのかは、まあ情緒教育の以下略の話し。
ああ、久しぶりにお袋を思い出した所で食欲が収まってくれた。
「明日帰るまでに時間取れないか?」
「観光行くので無理です!」
予定にはないが即答でお断り。
いや、自由な時間があるのならいろいろ博物館回りたかっただけの話し。なんてったってここは宇宙に憧れる人に取ればメッカともいえる場所なのだ。
だけどそこは意外そうに
「へえ?アヤトってディズニー行きたかったんだ」
カティの小さな驚きにカーライル教授も何だか微笑ましそうな目を向けてきた。
「ちがうから!」
東京とパリで十分ですと言いたかったが
「そうか。うちの職場見学させてやろうとしたのに。
やっぱり若い奴はディズニーが良いに決まってるもんな」
残念そうに、でも目は笑って寂しげな声で言えば
「是非ともよろしく頼むよ」
「じゃあ、明日の飛行機はキャンセルします。
あ、キャンセル料は私が払うのでもう一泊しません?勿論私持ちで良いですよ?」
なぜか教授がエドワーズの手を握ってよろしくと言い、カティがお嬢の本領発揮をしていた。
これで逃げられない事確定。
だけどここでは終わらないのが流れと言う物だろう。
「あの、私もご一緒してもよろしいですか?」
ずっと俺達の世話をしてくれた助教授事エリー・クラークさんまで便乗して来た。
エドワーズはニヤリと笑い、もう逃げられないぞと言う視線を向ければ
「よろしくおねがいします」
俺に逃げる選択は与えられなかった……




