維持する努力が一番難しく思います 5
長いと思っていた夏休みは小学生の頃から感じていたように終わる時は一瞬だった。
畑と山のお世話に烏骨鶏と先生の世話。何気に同列に並べてるけど、餌や寝床の世話さえすれば後は勝手にしているのでそう言う事を考えれば同じで十分だ。
他にも炭焼きを手伝ってみたり、間伐を手伝ってみたり、下の畑の手入れを頑張ってみたり、戻って来た大学生達をこき使ってみたりとイベントは盛りだくさんだった。さらにネットでカレッジの奴らとも騒いだり、アメリカ方面の友人とも長い事しゃべったり。
何か高校生達の世話をしていただけの時家から随分と忙しくなったなと縁側でごろりとなりながらテレビの向きを変えている先生に軽くイラッとしながらも山の生活では結局一人になる事の方がまれな時間を過ごしていた。
もうね。
先生のお世話でおなかいっぱいなのよ。
なんだかんだ言って五時間ほど眠れるようになった不眠症をもう不眠症とは言わないけど、これがまた学校が始まったら不眠症が再発するのだから原因は教師業を廃業するまで続くのだろうことは誰よりも当人が分っているので上手く付き合う事にするさと言う謎の気力。
酒飲めば寝れるなんて安易な事は言わないが、麓の家に戻って来てから四時間は寝れるようになって身体が楽になったと言うのだから十分だろうと言う事にしている。
北部に行った時が一番ヤバかったと二時間しか寝れないと言う不眠症がひと月で戻って来た時はしょうがないと思うしかなかったが、週末の山生活で充電すれば耐えれるようになったと言う方が俺には驚きだ。
よく寝だめなんて言葉を聞くかもしれない。
それは単なる錯覚で、人間の体の構造は寝だめなんて出来ない。
そこで十分体を休めてると言うだけの言葉か、単に寝られるだけの健康的な肉体化何て一日二十四時間しかないのが足りない俺としては寝ていられないと言っては圭斗によって強引に寝かされるのは理不尽だと思う。
とりあえずそんな相変わらずな山生活もお盆を前に俺はイギリスに戻る予定にしていた。
「青山さんに挨拶に行きたいし沢村さんにも挨拶したいし。
フランスにも寄り道したいロードにも会いたいし」
「あいかわらずやる事がたくさんで体が一つじゃたりないな」
今回も先生が駅まで見送りに来てくれた。
恒例になりつつも嬉しかったりする俺は電車が来るまで駅のホームで夏の暑さに負けずに山のような土産を詰めたトランクを片手に次は正月に帰る事を予告する。
「だけどいいのか?スキップするなんて。念願の大学生活してるのに気を使って短くする必要ないんだぞ?それこそ大学院にいってきてもいいぞ?」
父親のように俺の夢を叶えろと言ってくれる先生の気持ちもわかる。
そうなれば確実に俺の未来は夢のように広がって行くのだろうが
「誘惑しないでよ。
俺はもうあの山とあの家を守る事を決めたんだから。
あの山とあの家を守れるようになるのに大学院の勉強まで必要ないから」
単位は取れないけど教科書ぐらいは譲り受けて勉強できたりするのでそれで十分だと言う。
「それに本気でやりたいのなら大学院卒の資格なんて必要ないし。
俺に必要なのは行動に出るだけの勇気だから」
「確かに。お前時々臆病になるからまた足踏みするんじゃないかと心配なんだよ」
高校の時、既に山の上ではなく街中で暮して行けるだけのお金があってもバアちゃんがいる山を選んだように、そして誰も居なくなった山を見捨てれないと閉じこもったように、どこにでも行けるだけの行動力も身に付いたのに結局この山に戻って慣れた家は呼吸する様に楽な場所で得た安らぎは代えようのない大切な場所だ。
だけど先生は
「生涯勉強の人生なんだから。疲れたら戻る程度でもっとたくさんの事を見聞きしてこればいいと思うぞ」
「まぁ、判ってるんだけどね」
何度も山に閉じこもるなと言う先生の言葉も嫌でも理解できるくらい何もない生活はもっと苦労は買ってでもしてこいと人生経験を積ませようとする気持ちはわからなくもない。
フランスに行って知らない世界を沢山学んだ事もあるので言いたい事は嫌でも理解できる。
だけどそれでも
「あの家と山を守るのはもう俺しか居ないから。
最後をきちっと閉めるまでは逃げないから」
親父達みたいにお金に変えて終わりにして終了何てしたくない。
たとえ選べる選択が僅かでももっともっと何かあるはずだと一番安易な解決方法に手を出したくないと思う俺こそガキな証拠。
上等だと思いながらも次回の先生のお土産のリストを聞きながら苦笑していればやっと電車が来て
「さて、今回も遠いな」
「今回もシェフの家に厄介になるんだろ?
美味いもん食わせてもらえ。あの体力馬鹿なら好きな料理何でも作るぞ」
「まあね。ポテトグラタンを作ってもらえれば幸せだしね」
因みに先日月一のポテトグラタンを作ってもらったばかりなのでもう作ってもらえないのは判り切っているのでポテトグラタンを思い出せば涙が出そうだ。
だけどこの事で先生の前で泣くのだけはしゃくなので流れもしてない涙をぬぐい
「今回は柊と叶野と合流してイギリスに行くから道のりは賑やかになると思う」
「ああ、あの品の良い二人か。
お前の友達にしては良い奴と出会ってほっとするぞ」
「それ圭斗と宮下に伝えておくな」
「やめてよ。またご飯にご飯をおかずで食べなくちゃいけなくなるじゃないの」
「むしろそれどんなんだよwww」
お茶わんにご飯しか並んでない食卓を想像して笑えば目の前で開いた扉に乗って
「じゃあ、行ってくるから後はよろしく」
「おう、任された。行って来い」
そんな短い挨拶。
帰ってくる事が確約された旅立ちは前ほど寂しさを覚える事無く手を振りながらの再会を約束した。




