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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夏をだらだら過ごすなんて夢のような話はこの山では伝説です 5

 暫くして鉄治さんが浩太さんと圭斗を連れてやって来て、俺の顔を見て失礼な事に顔を歪めるから笑顔で出迎える。

「綾人、怖いから止めて」

 宮下に止められて仕方がないと一瞬逃げ出しそうになった圭斗と肩を組んで

「今回は何を作るつもりだい?」

 穏やかな浩太さんの声と笑顔に俺も釣られてにっこりと笑みを浮かべ

「長沢さんと話してたんだけど、この水場に屋根が欲しいなって話ししてたんだ。 

 落ち葉が入るからね。蓋じゃなくって屋根をする事にしたんだ」

「まぁ、毎度翔太が落ち葉を漁ってくれてたからな。これで少しはましになるだろう」

 まし程度かと思うも宮下が掃除をしてくれてたのかと感謝をしようとした所で

「何度か金魚も流してたから、お詫びも兼ねればちょうどいいだろ」

「ちょっ!浩太さんそれ内緒にって!!!」

「やっぱりそうか!大きくなったとしても妙な違和感があるのは!」

「ごめんー!

 陸斗には内緒にしていてー!」

「あああ、俺じゃなくてそっちの問題があったか……」

 腕にしがみつく宮下に俺だって頭を抱える。

 先生の家を買ってから庭側の水がめの中に買っているのとこの水場で飼っている金魚の面倒は陸斗が東京の大学に行くまで続けられた。勿論帰って来た時は山に居る時以外は餌やりを欠かさず続けてくれた。

 初めて任されたペットのお世話。初めてのペットとの生活。

 毎日餌を与え続けたおかげで人影にも慣れてくれ、そっと水面を覗けば餌が欲しくて浮上して口をパクパクする姿がたまらなくかわいいと言葉にしなくても判る横顔に綾人も黙って眺めるのが好きだった。


「こいつら飼い主なんて関係なく人影が出来れば餌が貰えると思って寄ってきて口を開くだけだぞ」


 さすがの綾人でも空気を読んでそんな事は言わない。

 陸斗だって判ってるはずだ。

 公園の池に居る鯉と何ら変わらないのだと。

 だけどそれで安らぎを得ているのなら十分じゃないか。

 だってそんな様子を見て癒される綾人がいる様に。

 生簀の魚に餌をあげれば勢い余って生簀から飛び出してぶち当たってくる養殖の魚達とは全く違っていいじゃないか!

 そうやって餌付けた金魚を流してしまった事を黙ったままに居る方が問題だろと

「ちゃんと言ったんだろうな?」

「ええと、まだ。

 いま元バイト先にお願いして金魚仕入れてもらってるんだ」

「魚屋が金魚仕入れるとか?!どうやって食べるんだ?!」

「うん。夏休みになると少しだけど金魚仕入れているんだ。

 先生の所の金魚も元々鮮魚出身だし、金魚は観賞用だから食べないよ」

「そ、そう言えば、ドジョウとかと売ってたな……

 飯田さんにお願いしてみるべきか……」

「だから食べないって、まったく綾人は時々わけわからなくなるよな」

 未知との遭遇に世界は広いなんて馬鹿な事を言う綾人に宮下は疲れた様に溜息を吐いた。

 もちろんそんな様子を初めて見る浩太達もさすがに金魚はないよとひきながら黙って見守っていたが

「今日中に陸斗に言うよ。仕事終わったら頼んでおいた金魚引き取りに行くから、一緒に行こうと思うんだ」

「え、俺も付いて行く」

 目をキラキラとして言うも

「何所で飼うつもりだよ」

 飼う場所はいっぱいある物のさすがに冬場は分厚い氷の下に放置するのは可哀想だろうと宮下は思えば

「生簀で飼えば仲間もいるし寂しくない」

「金魚がエサになるから!ってゆーか判って言ってるだろ!!!」

 やめて!!!

「綾人、お前は金魚飼った事ないのか?」

 圭斗達が来た事により、先生も顔を出してきた。まあ、これだけ騒がしかったら当然かと思えば

「あるわけないだろ。

 あのクソ親達が俺の情緒教育何て興味ないし、山じゃジイちゃんもバアちゃんも働かざる食うべからずの方針だ。食べれもしない金魚何て買うわけないだろう」

「何だ。金魚食べれないのちゃんと知ってるじゃん」

 珍しく宮下がちゃんと覚えていた。いや、そこは忘れておけよと言いたいが

「いや、一瞬観賞用と食用があるのかと、ほら鮮魚での金魚だから万が一って言うの?」

「ないから」

 死んだ魚のような目で言う先生に納得をするしかなかった。

 妙に道徳的だからなと、先生をしているのだから当然なのだろうけど。

「それよりもこんな所に集まってどうした」

 金魚の話しは強制終了と言う様に先生が話を変えようとすれば

「綾人君がこの水場に屋根を作りたいって言ってね、落ち葉の堆積対策をするみたいです」

 浩太さんも話しを変えるのに乗っかったけど

「そこからここに住みついている金魚が別物になってるって言う話になったんだ」

「ああ、宮下が流してたな。河童の川流れならぬ金魚の川流れか?」

 必死にフォローしている理由に納得。

 因みにここは急斜面を下りながら川へと直接注ぎ込む事になっている。運が良ければ雨水枡に居るのではないかとふと思って綾人は宮下からバールを借りて細かな土が隙間を埋め尽くした雨水枡の蓋を開ければ……


「宮下!タモ!

 なんか赤い奴がいた!」

「え?!うそっ!だって随分前だよ!」

「良いから、圭斗!宮下のトランクにあるから取って!」

「お、おう……」

「と言うか、何でお前は宮下の車のトランクの中身まで知ってるんだ」

「習性を考えれば置きっぱなしの確率が高いんだよ!」

 因みにキャンプで使うナイフとかは必ず家で保管するよう言い含めている。

 キャンプに行かないのにキャンプセットの中にナイフが入っていたとしても銃刀法に引っかかるので難しい事は言わないけど口酸っぱく言って癖にさせておいたので問題なくやっている。

 たとえ村の駐在所に警官が二人しかいないとしてもだ。

「せんせー、マジトランクにタモがあったんだけど」

「次はバケツでも持って来てやれ。

 綺麗な水で一晩過ごしてから水場に戻してやればいい」

 何て指示に圭斗がすぐ動く間にタモを手にした宮下が責任を持って……」

「ほんと!マジ金魚いた!」

「うわっ、五匹ゲット!

 一体どんだけ流したんだよwww」 

狭い雨水枡に測ったようなタモの幅で一網打尽と言う様に救い上げれば想像以上の大漁。

「二匹しか飼ってた覚えなかったのにwww」

「俺だって二匹しか投入した覚えないよ?!」

 じゃあ残りはなんなんだと思えば水をすくって来た圭斗がそっぽを向いて

「やる事はみんな同じだったって事だろ」

 まさかの告白。

 全員で圭斗を黙って見守ればそっとバケツに金魚を放す。

 小さなバケツとは言え透明な水の中で細かな砂粒をまき散らしながら元気に泳ぐその中に見覚えのある模様を見つけた。

 白と黒の模様の入った赤い金魚。

 成長の過程で模様も変わるが、おおよそ予測から外れてない記憶を辿れる姿の金魚とその横を群れるように泳ぐ赤い金魚。

「一気に増えたら陸斗喜ぶだろうな」

 宮下の失敗と圭斗の失敗。

 だけど陸斗を思ってこっそりと新しく入れた金魚を合わせてまさかの合計七匹。しかもこのあと二匹増える予定。

「なんか楽しくなってきたな」

「案外長生きするからもう増やすなよ」

 そんな先生の忠告。

 黙って様子を見ていた長沢さんも鉄治さんも仕方がないと言う様に笑いながら

「さて吉野の、話を戻してどういう屋根にしたいか鉄治に相談だ」

「あー、忘れかけてたかも」

 みんな金魚に夢中で珍しくうっかりする綾人だった。



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