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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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夏の深山を快適に過ごす為に 2

 起きて水を飲み、冷たい山水で顔を洗い目を覚ます。

 薄暗い世界を歩いて水路を開けて畑に水を引き入れて烏骨鶏ハウスの扉を開けて烏骨鶏を追い出す。

 今日はジイちゃんが作った水路の整理。

 コンクリと石で整えた物だけど侵入した雑草や流れ込んで定着した土に根付いた雑草やらをモップで押しやる様に簡単に掃除をする。でないとあっという間に飲み込まれるので今日みたいに気付いたらやる程度で世話をしている。

 水路の近くは烏骨鶏も水を飲みに来るので水路に落ちて流されて行かないように水路周りはなるべく雑草を抜いて綺麗にしてるつもりだ。ちなみに何度か流された烏骨鶏も居たけどすぐ畑へとたどり着く為に流れは緩やかとなるので自力で脱出してもらっている。こう言うおバカな所を可愛いって言うんだろうなと目の前で流されて行った烏骨鶏が無事脱出するのを見てひょっとして楽しんでいるんじゃなかろうかという疑惑が浮いてきた。

 少しずつ明るくなっていく世界の中で背後でガラリと扉が開く音がした。

「相変わらず早起きだな」

「先生は珍しく寝坊だな」

「ありがたい事に今日は記録的に五時間寝れた」

「目指せ七時間。まあ、さすがに俺でも七時間は寝過ぎて体がきついけどな」

「それー。

 普段は大体四時間寝れるようになったから体が軽いわー」

「三時間も寝れなかった事を思えば大進歩だな」

「やっぱりこっちに戻って来て良かったー。せんせーもうこの家を故郷にする。むしろ実家?」

「そう思うなら草取りやれ」

「せんせーお風呂入って来るねー」

 何て逃げて行ったクソ教師はあれから俺の家に住みこんでいる。

 草取りではなく裏山の整理をしてくれているので熊笹が生えてくる事なく来年の山菜も食べ放題だと思うも俺はまだまだイギリス暮らし。自力で頑張らないと山菜が食べれない事を理解すれば積極的に山のお世話をする。普段から手伝えよと思うも

「そうすると綾人の仕事が無くなっちゃうじゃない。若人は苦労は買ってでもしろって言う位だから、がんばれよ」

 肩にタオルを掛けながら朝から日本酒を入れた桶を持ち、畑の中からキュウリをもいでいく高校教師の休日がこれで良いのかと頭が痛くなった。

「あー、そうだ。今日麓のお寺さんに行ってくるから。先生お留守番してる?」

 聞けば

「そうだな。たまには家の方に顔を出すか。ついでに住職にも挨拶してこようか」

 一緒に行くとは言わずにまだあの別れが色濃く残る時間しか経過してないので気遣ってくれたのだろう。

「飯食ったら一度家に寄ってくれ。酒飲むから車の運転無理だから」

「悪いね。だけど朝から酒はほどほどにしろよ」

「大丈夫。仕事がある日は飲まないようにする位分別はあるから」

 そう言って鼻歌を歌いながら五右衛門風呂に直行する後姿。

「当たり前だろ……」

 あんなふうに逞しくなりたい。だけど先生の場合は逞しいではない。ただのお節介で、そのお節介に俺は何度も救われている。他人の事にはどこまでもお節介に慣れるのに自分の事になるとてんでダメになる。

 勿論先生もその事を理解しているから誰かの助けになれると思えば調子に乗って……

 畑と風呂場って結構距離あるのに気持ちよさそうな歌声が 風に乗って耳に届く。

 ほんとろくでもないよなと思いながらもカゴにトマトとキュウリを入れてモロッコいんげんもついでに収穫。

 漬けて放置してたら潰れた梅干を包丁の背で叩いた物を味噌と練り合わせた梅味噌でキュウリを食べよう。モロッコいんげんは簡単に胡麻和え。トマトはそのままがいい。むしろ丸かじりが良いだろうかと思いながら今すぐ服の裾でトマトの埃を拭ってパクリと食べる。うまー。

 食べたい時に食べれるって本当に幸せだねと畑から出れば俺がトマトを食べているのを目ざとく見つけた烏骨鶏達がたかりに集まって来た。

 烏骨鶏を連れて台所から持ってきた包丁で二つに割った物を烏骨鶏達の遊び場である砂場に放り投げる。そうなったら最後、どこで見ていたのか烏骨鶏達が集まって奪い合いつつきあいの大騒動。

 そしてふと思い出す。

 留学する前まで

「私は貴方達とは違うんだからね!一緒にしないでよね!」

と言わんばかりに奪い合いには参加せず俺の足元にまとわりついて別のおやつを催促する烏骨鶏がいつの間にかいなくなってしまった事を。

 一見似たような顔なのでお前誰だ?なんて烏骨鶏に向かって聞いたりしていたが、当時居た中で一番年長者だった彼女は密かにみんなに名前を貰って、人の数だけ名前を持っていたうちの烏骨鶏の中で一番愛され烏骨鶏だった。

 野生動物の多いここではこうやって放牧している間に連れて行かれる事も多々あり、もしくは普通に美味しく頂かれるのも日常だが、あの烏骨鶏に関しては別件で処理されたこの家で飼われる鳥としての運命を全うしただけだ。

 少し寒い足元と歩きやすさに寂しさを覚えながらあっという間に食べつくしたトマトの残骸を放置して集まった砂場を五本指の足で掘り返しては掘った穴に身体を埋めながら砂をまた掻きだして遊びだす様子を暫くの間眺めていた。

 

 



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