正しく夏休みを過ごす為に 2
先生と圭斗に連絡を入れる。
宮下と遠出してくるからと。
「なんか甘いもの食べたくなったからちょっとドライブに連れてってもらうんだー」
少し離れた所で宮下も
「あ、兄ちゃん?
なんかさ、綾人の奴かなりお疲れっぽいからちょっと遠出してくる。
ひょっとしたら明日ぐらいに帰って来るから。悪いけど圭斗と先生の所に連絡を入れて置いてくれる?今綾人が連絡してるけどなんかまたおばあちゃんになりそうだから」
「ああ、うん。兄ちゃんから話しておくから気付かれないように言っておいで。泊まるんだったらちゃんと連絡入れてくれ。あと烏骨鶏は任された」
何も言ってないのに勝手に烏骨鶏の世話は任せろと言う大和にこの兄は何を言ってるんだろうと思うもまあ、任せておけばいいだろう。一応圭斗にもメッセージを入れておいたしと言いながらも綾人の家に置きっぱなしの服を漁りながら
「何所か温泉がある所に寄り道しようか」
「良いね!着替えとタオル用意してくる」
綾人もノリノリで鞄に荷物を詰め込めていた。別に温泉好きじゃないしと自称する物のここまで浮足立った姿を見て何が好きじゃない死だと突っ込みたいのを我慢しながらも動画用のビデオを一式カバンに詰める。
「久しぶりにお出かけ動画にしよう!」
「何だろう。ちゃんと夏休みしてるって感じがしてるんだけど!」
妙に舞い上がってる綾人の昔を考えれば小、中学生の時はこの深山の祖父母に会いに来るのが夏休みだったし、高校の時はただずっとこの山奥に閉じこもるのが夏休みだった。高校卒業後の一年間は綾人の言う事を聞かなかったばかりに合わせる顔がなく、気まずさに会えなくて何をしていたか知らないけどそれ以降は後輩たちのお世話に額に青筋を立てて叫びまくるのが日常だった。そして久しぶりの子供の相手。仕事があったから陸斗達にお任せだったけど、ずいぶんと馴染のない子供達に神経をすり減らしていたと聞いた時はやっぱり手伝いに行けばよかったかなあ、でも圭斗にあまり甘やかすなって言われてるしと言う葛藤。先生がいるから大丈夫よと言う全然大丈夫じゃない言葉を何で間に受けたんだかと思うも一番の失策は飯田さんのご飯が食べれなかったと言うのが想定外だっただけだ。土下座しても綾人の大好物のポテトグラタンを作ってもらえばこんな高校時代のようなささくれ立った空気を張り巡らせることが無かったのにと気合を入れてどこがいいかなーなんてググる間に綾人は家の戸締りとガスの元栓をちゃんと止めてきた。勿論離れのガスの元栓や戸締りもあるのでそれなりに時間がかかったが
「じゃあ行こうか」
何だかもう浮かれまくってるテンションに誘ってよかったなーと、これは下手な所に行けないなとプレッシャーを感じながら最初はお隣の県を予定してたけど急きょ行先を変えるのだった。
「じゃあ、コレETCのカード。ガソリン必要になったらこれで支払って」
「あー、綾人はお昼寝の時間か」
「目が覚めたら何所か楽しみだ」
なんて遠足は最初はテンションだだ上がりで取り留めのない会話をひたすらしゃべってたけど、高速に乗って一定のスピードでの移動とあまり変わらない景色にいつの間にか眠っているのを横目に見ながら幾つものジャンクションを駆使して……
「海ー!!!」
「はい。日本海でございます。
泳ぎたかったら海の家で水着をお買い上げください」
なんてご案内をすれば即行で海の家に飛び込んで俺の分の水着と浮き輪を買ってくるのだった。っていうかどれだけテンション高いんだよとつっこみながらもその様子をカメラに収めて後でネタにさせてもらう素材を冷静に撮りためる宮下だった。
「ほら、日焼け止め塗って、潮まみれようのTシャツも買ったから来て、あ、ビーサンに履き替えないと靴が酷い事になるぞ」
「どんだけ用意良いんだよ」
何て笑ってる間にビーチパラソルがセットされた場所もレンタルしたし勿論敷物ではなくビーチ用のベットが並べてあって間のテーブルにはノンアルのビールが並んだ置いてあった。更には焼きそばやサザエのつぼ焼きやホタテのバターしょうゆ焼きなども並んでいた。
「……」
言葉もなく海を満喫しようとするその根性に無言で差し出されたトウモロコシを齧りながら海でキャッキャと遊ぶ子供達を眺めてふと我に返る。
「俺夏休みに海に遊びに来た事なかったなー」
ポツリと落とした呟きに
「俺は中学と友達と湘南に電車乗って行ったのが最初で最後。基本山だったから海はなかったんだー」
「なんか海ばっかり行ってそうなのにね」
「行ってないから海に憧れるんだよ」
水晶のようにきらきらと光ると言うのは大げさだが想像よりは綺麗な白い砂浜でぼんやりと水平線を眺めながらパラソルの影だけでは眩しく麦わら帽子で作った影の中から視線を投げてこの何もない平和をまどろみながら
「泳ぐ?」
聞いてみれば
「海水でべたべたになるのはやだなー」
そんな苦情に
「温泉付きの宿取ってあるよ」
「マジか?!」
「先に圭斗と先生にも連絡してって兄貴にお願いしたから泳いで来て良いよ」
なんて言えば手を引っ張られて強引に海まで熱い砂浜の砂をサンダルの中に潜り込ませながら海へと一直線に走らされてシャツを着たまま海へと放り投げられるのだった。
「嘘っ……!!!」
すぐに顔面からの着水、そして浮き輪の輪っかの中に沈めこまれた。何とか顔を水面から出せば綾人が浮き輪を引っ張って沖へと向かって泳ぎだしながら
「そう言うたくらみは大歓迎だけど折角なら俺も作戦に混ぜさせろ!」
浮き輪ごと沈められて水中で手を離されたけど慌てて水面に出ようとした勢いで面白い位ぴょーんと飛び出した俺を綾人は屈託のない顔で浅瀬の海底に立って笑っていた。
もちろんその片手には防水機能付きのカメラがあって、俺の慌てる姿をしっかりとおさめられていたのだ。
「あー!やー!とー!!!」
びっくりしたんだからという様に大声を出す物のまばらな海水浴場では周囲で見ていた人達まで大笑い。
恥ずかしいと言う様に浮き輪にしがみつきながらバタ足で浅い海を泳いで行く。自慢じゃないが25Mも泳げないので海は怖いのだけど、浮き輪があれば大丈夫と言う様に砂浜目指して一直線に泳ぐ。と言ってもバタ足と手は既についてる砂を這うようにして。
背後で笑ってる綾人の笑い声を聞きながら随分笑ってる声を聴いてなかったなと思いながらも逃げる様に砂浜を駆けて自分達のビーチパラソルの中に逃げ込めばすぐに綾人も追いかけてきた。
「あー笑った。やっぱり海は良いな!」
「そうだね!綾人は楽しかっただろうね!」
しょっぱい口の中をミネラルウォーターで漱いでいれば
「あー、全身ベトベト。シャワー浴びて風呂でまったりしたい」
相変わらず我が儘な綾人だけどその言葉には頷かずにはいられないこの状況。また何かあればすぐに海へと放り投げられる、ちょっと楽しかったけど子供達に笑われるのがまだ恥ずかしいお年頃なので
「賛成。動画の収入で奮発したから楽しみにしていて!」
この休みの期間で取れる部屋は限られている。まだ繁忙期ではないので空いているだろうかと思って覗けば敬遠されるかのよな部屋は空いていて、速攻で部屋を押さえたお値段は前に広島に圭斗と修学旅行に行って来たお値段にも負けない、いや、負けてる金額だけどはっきり言ってそれでもビビったもののそこは思い切って今は支払える収入があると言い聞かせての予約。夜ご飯も記念に豪勢にしてもらって食べきれるかな?と不安になりながらもカーナビを頼りに旅館へと向かうのだった。




