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人生負け組のスローライフ  作者: 雪那 由多


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歩き方を覚える前に立ち方を覚えよう 1

 学生バイトの基本はベビーシッターだと言う国がある。

 生憎手をかけなければいけない子供のいないこの城では自分の面倒を見るのもやっとなガキどもがいて、その面倒を見る事にした綾人はとりあえずと気合を入れる。

「オリオール、こいつ達にジャガイモの皮むきの練習をさせたいのでジョエルかジェレミーのどちらかを指導者として貸してください」

 三食外食と言う坊ちゃんたちがいるので朝食位は何とかしろと言う様に料理の基本、ナイフの持ち方を覚えようと提案をすれば

「それは良いが今夜はポテトグラタンの日じゃないぞ?」

「くっ!飯田さんに言い含められていたかっ!!!」

 本心を見抜かれていた。

 俺のポテトグラタン狂いを知るオリオールは飯田さんから月一、もしくは二回と制限させるように言われていたらしい。

 原因は毎回俺に作らされたお犬様がお静かにお怒りをお持ちになっていらしたというからの制限だけど、フランスに来てもそれは有効とは何て拷問と思うも

「ジェレミー!今夜の仕込を子供達に教えてやれ!」

「ウィー!」

 何て小気味良い返事。

 だけどその小気味良さも予想通り十分ももたず

「あああ!慌てなくていいからゆっくり向いて行けばいいから……

 そんなにも熱く向いたら食べる所がなくなっ……

 皮をむくのにジャガイモをそぎ落とすように切らないでっ!!!」

 料理をしたくて料理を学び、料理に人生を捧げてきた料理人から見たら想像もつかない出来事の連続にカレッジに入る子供達の想定外の出来事の連続にさすがのオリオールもジョエルに手伝うようにと指示を出す。盛大に顔を引きつらせるジョエルと応援が来た事で涙を浮かべて喜ぶジェレミーと言う対照的な二人の様子が笑えて何よりですと見守っておく。

 そんなこんなでやっと皮がむけた今晩の夕食の一人あたま二つ分のじゃがいもを入れたシチューは想像より減ってしまったので柊がフォローする様にジョルジュにジャガイモを分けてもらって一人皮をむいていた。

 いやだ、この子優秀じゃん。

 ジェムも十分上手だけど柊にはかなわない、そんなレベル。寧ろ植田達と同レベルだから陸斗と同レベルの柊の優秀さが浮き出る形だ。それだけ周囲が酷いと言うだけの話しだけど。

 ジャガイモの皮をむかせただけでぐったりとしているジェレミーとジョエルは今度はピーラーで人参の皮をむかせていた。

 そうだよね。

 野菜の形によってはピーラーの方が使い勝手良い物もあるしね。

 ズッキーニをシマシマに皮をむく時とたアスパラガスの袴を取る時とか。野菜によって使い分けると時短になるけど今回の目的はこいつらにナイフの使い方を学ぶ授業だ。

「ジョエル、ジェレミー、なるべくナイフを使って教える様に」

「ウィームッシュ!」

 俺は茹でただけの野菜をオリオールから分けてもらってタブレットを弄りながら塩を振っただけの野菜スティックを齧りながら流れる画面と共に目を走らせてタップしていきながら返事だけは良い二人にさらなる試練をどんどんと与えて行く。

 シチューならお肉を忘れてはいけない。

 鶏肉を用意してもらってあるので

「ジェレミー、こいつらに一口大に鶏肉を切ってもらえ」

 前に飯田さんに教えてもらった一口大のカット。人の口の幅が約3㎝。そして生肉を触るのもそれを切るのも初めての奴らがいると想定すればここが今夜の修羅場だと思う。それがたとえ処理された鶏肉のもも肉だとしてもだ。

「あと柊はやるな。こいつらの練習にならないから手は出すなよ」

 さりげなく期待していたケリー達の視線が絶望に変る。

 解凍された生肉のくにっとした切り際の感触、そして皮と肉のずれる感覚。何より肉の繊維を断ち切る感覚がナイフより伝わり……

 全身拒否反応と言う様に鳥肌を立てるお坊ちゃま達はイヤーとかキャーとか言わない所だけは褒めてやる。

「食べる為に生まれて食べる為に育って食べる為に短い一生を終えた鶏に敬意を払って最後まで美味しく食べるのが俺達に出来る事の総てだ。それがエゴだとしても、できる限り丁寧に扱って美味しく食べる。それが命を頂いて命を繋ぐ俺達に出来るすべてだ」

 骨もがらスープで髄まで美味しく食べて、皮もパリパリに焼いて胡椒を振れば今夜の晩酌のつまみになる。うん。幸せだ。

 想像で涎が垂れそうになるもすぐ側で上手に切れないと喚いたり一口が大きすぎたりと真剣なのはわかるが大騒ぎしすぎだろと思うも怪我さえしなければ問題ないと思う事にしている。肉が落ちた!洗えばいい!そんな騒ぎだって総帝内の内田と思いながら忍耐強く口を挟まずに雑音に耐えて

「あとは鍋に詰めて水を入れて塩味だけ煮込んでいく。最後に牛乳とバターを入れれば仕上がりだ」

 俺が忍耐強く耐えてる間に保育係に任命されたジェレミーとジョエルはぐったりと言う様に鍋を火にかけて丁寧に灰汁を取っていた。さすがにここもやらせようとするとスープが無くなるからという理由は聞かなくても判る。そして新人の仕事は調理場の清掃。使った調理器具とゴミが飛び散った調理場を綺麗に片付けさせる指導もしながら次々に増える調理器具の片づけさせ間でやり、それが終われば夕食のセッティング。

 休む間もなく仕事を与え続けられ、そして止まる事のない指示に右往左往する初心者の群れ。その中でオリオールは明日からのランチの仕込を側でしている。向こうの方が器具が揃っているしこっちから持って移動したりしなくていいだろうにと思うもそろそろ夕食の準備が終わる頃車のエンジン音が聞こえて側で停まる。

 それから軽い足取りは嬉しそうに踊っているようで、少し遅れてやってくるこれもゆったりと弾むような足音も浮き立っているようで。

 そんな足音が近づいて来て、扉を開ける。

「オリオールただいま!今日の晩ご飯は何?」

「やあ、帰ったよ。今日もおなかすかせてきたぞ」

 オリオールのご飯を楽しみに帰って来る二人。

 息を弾ませて暖かな食堂にまだ冬の名残のある空気を纏いながら足取り同様弾む声の二人に

「お帰り。もうすぐご飯だから待ってたよ」

「綾人もただいま。今日はレッスンに集中してもうおなかペコペコ。

 ご飯が楽しみだね!」 

 ただいまーと言ってハグをしてくれるオリヴィエのテンションの高さは俺が城に来てから変らず、それだけ帰る家で誰かが待ってくれているというのが嬉しい証拠と言う当たり前の幸せを全力で受け止める姿を見れて俺も幸せになるのだった。






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